2018 Fiscal Year Research-status Report
末端に運動自由度を持つ置換基を配位子に導入した単一分子性伝導体の合成と物性研究
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17K05846
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
周 彪 日本大学, 文理学部, 教授 (80434067)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 単一分子性伝導体 / ディラック電子系 / 分子運動自由度 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度ではジチオレン配位子dmdtを用いて新たに[Pt(dmdt)2]の微小単結晶を得ることができた。[Pt(dmdt)2]では、[Pt(tmdt)2]と分子構造が似ているが、分子の配列が異なるため、結晶構造が異なっている。dmdt配位子末端の回転自由度を持つメチル基があり、結晶構造が制御していることを考えられる。[Pt(dmdt)2]の微小結晶を押し固めた試料の伝導度は室温で約150 S/cmであり、温度依存性をほとんど示さない、10 Kでも約120 S/cm僅かに減少し、高い伝導度を示した。磁化率は室温で1.2 x 10-4 emu/molであり、伝導電子のパウリ常磁性的な振る舞いが見られているが、温度の低下とともに、急激に減少し、120 K以下でほとんど消失した。これまで非磁性状態で高い伝導度を示す分子性伝導体では観測された例がなく、低温物性に非常に興味が持たれる。 第一原理DFTに基づくバンド構造計算を行ったところ、[Pt(dmdt)2]では、常圧下でフェルミエネルギー付近にディラック・コーン(Dirac cone)が存在し、a*方向に沿って線上にディラック・ノーダル線(Dirac Nodal Line)を有するディラック物質であることを明らかにした。近年グラフェンの発見以来、質量ゼロのディラック・フェルミオン(Dirac Fermion)が存在する物質の探索が現在盛んに行われている。分子(有機)物質でのディラック電子系としては、二次元分子性伝導体(BEDT-TTF)2I3 (1.5GPa以上)と[Pd(dddt)2] (12.6GPa)がある。いずれも高圧下で見いだされた。したがって、[Pt(dmdt)2]は初の常圧分子性ディラック電子系であるのではないかと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、分子末端に運動自由度を有するジチオレン配位子と異なる中心金属が形成する単一分子性錯体を合成し、それらの構造決定と物性測定を行い、新規な単一分子性伝導体の開発を行うことが目的である。今年度ではジチオレン配位子dmdtを用いて新たに[Pt(dmdt)2]の微小単結晶を合成し、その電気伝導度、磁化率、バンド計算を行ったところ、常圧下で、新しい分子性ディラック電子系であることが判明した。
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Strategy for Future Research Activity |
期待通りディラック電子系が実現している事が示唆されたが、詳しいディラック電子系の電子状態を調べるために、磁気抵抗測定や角度分解光電子分光(ARPES)測定などを行う予定である。また、[Pt(dmdt)2]に限らず、単一分子性伝導体では物性測定(特に電気伝導度)が可能な大きさの単結晶を作成することが非常に困難である場合が多く、物性の解明に大きな障害となっている。特に、輸送現象の測定は単結晶でないと明確な結果が得られないため、今後結晶作成法の改善等により更に大きな単結晶の合成を目指す。更に、一連の単一分子性伝導体[M(dmdt)2] (M = Ni、Pd、Pt)は同型構造を持つことがわかった。[M(tmdt)2]系と同じように、結晶構造を同型に保ったままで物性が異なる分子性伝導体系であることが考えられる。今後、[Ni(dmdt)2]と[Pd(dmdt)2]を中心に検討を行うと考えている。
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Causes of Carryover |
端数残額である。 少額であるため、次年度の予算に合算し、薬品などの部品費をとして使用予定である
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