2017 Fiscal Year Research-status Report
低活性共有結合の切断を基軸とする低原子価9族元素アート錯体の触媒機能の開発
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17K05873
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Research Institution | Sendai National College of Technology |
Principal Investigator |
佐藤 徹雄 仙台高等専門学校, 総合工学科, 准教授 (70369924)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大井 秀一 東北大学, 未来科学技術共同研究センター, 教授 (00241547)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 遷移金属錯体 / ロジウム / イリジウム / アート錯体 / 触媒反応 / 触媒活性種 / 合成化学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,空気下で安定に扱える新規なRh(I),Ir(I)ジチオラートアート錯体について,この高電子密度状態の新規アート錯体を用いて低活性な共有結合を穏和な条件下で切断できれば,基質適用性に優れたアニオン性錯体活性種の発生法になり,アート錯体を利用する高効率の革新的分子変換反応へと誘導できるのではないかとの仮説に基づいて,その触媒活性について明らかにする。 平成28年度は,まず予備実験におけるRh(I)およびIr(I)ジチオラートアート錯体のNMR,IRスペクトル,HRMS測定の結果を踏まえて単結晶X線構造解析による構造決定を行い,いずれの錯体も2本の金属-硫黄結合を含む16電子平面四角形錯体であることを明らかにした。 続いて,予備実験で明らかとなっていた,Rh(I)ジチオラートアート錯体に特有の反応である電子求引性基を有するアルキンへのα位選択的ヒドロシリル化反応に関して,アルキンの基質適用範囲の検討と反応機構の解明に取り組んだ。直接カルボニル基,エステル基などの電子求引性基が結合した末端,内部アルキンからは,いずれも高α選択的(~>99%)且つ中程度から高収率(~95% yield)でヒドロシリル化体を得た。一方で,直接アルキン部位に電子求引性基が結合してない場合はヒドロシリル化反応が進行せず,他のRh錯体との触媒活性の相違が見られた。また,DSIEt3を用いた重水素化標識実験の結果,H-Si結合の切断が律速段階であることが示唆された。さらに,反応機構の解明を目的としてアート錯体とアルキンの量論反応についてNMRにより追跡したが,種々測定を試みたものの痕跡量のH-Rh結合が観測されるのみで,反応中間体の構造特定には至らなかった。引き続き,理論計算を含めた反応機構の解明に関する検討が必要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
Rh(I)およびIr(I)ジチオラートアート錯体の単結晶X線構造解析により,これらの錯体の構造決定に成功し,金属-配位子間距離に関する他のRh(I)錯体との比較から,ジチオラート配位子のトランス効果の相対強度を推定することができた。さらに,Rh(I)ジチオラートアート錯体を触媒とするアルキンのヒドロシリル化反応について,直接電子求引性基が結合した電子不足の末端アルキン,内部アルキンに対して広く高α選択的に反応が進行することを明らかにした。これらの実験については,計画通りに進行している。 一方,本反応の反応機構の解明においては,重水素標識実験により機構解明に繋がる有用な知見を得ることができたが,当初想定していたRh(I)アート錯体とヒドロシランとの量論反応による反応中間体の単離と構造決定は困難を極め達成することはできなかった。ただし,この量論反応の結果は,H-Si結合の切断過程が可逆反応であることを示唆しており, Rh(I)アート錯体を用いる本触媒系に特有のものと見られる。反応機構の解明は平成29年度中に達成する計画であったが,上記のとおり想定外かつ学術的に興味深い結果が得られたことから,計画からは一部遅れているものの,その解明に向けて現在理論計算による反応機構の推定を進めているところである。
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Strategy for Future Research Activity |
Rh(I)ジチオラートアート錯体触媒によるアルキンのヒドロシリル化反応の反応機構に関して,平成29年度中に成し得なかった理論計算を中心に解析を実施し,平成30年度前半を目処に反応機構の全過程を明らかにする。さらに並行して,当初の研究計画のとおり,アルキンのヒドロシリル化反応の反応形式を発展・拡張させるべく,低活性共有結合化合物と分極した多重結合化合物の付加反応に対するRh(I),Ir(I)アート錯体の触媒機能の探索を進める。低活性共有結合としては,H-H,H-m,Ar-m,Cl-m,m-m(m=Si,B,P,S)が挙げられる。それぞれの錯体に特異な反応を見出した場合には,反応条件の最適化とその一般性の確認のために基質適用範囲の検討を実施する。これらの反応は,Rh(I),Ir(I)アート錯体による低活性共有結合の切断により発生すると予想されるアニオン性錯体活性種を起点とする分子変換反応の開発を目標とするものであり,アニオン性錯体活性種の多重結合への付加に加え,アニオン性錯体活性種と脱離基を有する電子受容化合物との置換反応についても可能性を検討する。
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Causes of Carryover |
本研究は,実験用ガラス器具,合成試薬,実験用有機溶媒,分析装置用消耗品およびガスなど多品種の物品を必要とするが,本年度は合成試薬,有機溶媒にかかる費用を節約できた。次年度も特に合成試薬,有機溶媒が必要となることから,本年度の未使用額をこれらの購入に充当する予定である。
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