2017 Fiscal Year Research-status Report
三次元磁場配向ユニットを備えたin-situ固体NMRシステムの構築
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17K05882
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
久住 亮介 京都大学, 農学研究科, 助教 (70546530)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 固体NMR / 磁場配向 / 微結晶懸濁体 / in-situ測定 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,固体NMRの強磁場を活用して異方性化合物の三次元磁場配向をNMRプローブ内で達成し,液状媒体中での単結晶構造解析とダイナミクス評価を実現するin-situ磁場配向NMRシステムを構築することを目的としている.当初の研究計画に基づき,平成29年度には主に次の課題を遂行した. 課題(A) 三次元磁場配向プローブの作製とin-situ磁場配向NMR法の確立 磁場配向プローブは,JEOL CMX300 Infinityに接続されていたCP/MAS用7.5mm二重共鳴プローブを改良して作製した.まず,CADソフトウェアを用いてプローブ内に設置する試料回転ユニットの3D設計図を作成した.次に,既存のプローブからMASスピナー等を取り外し,作製した試料回転ユニットを取り付けた.ユニットの構成部品のうち,RFコイルや試料管の支えとなる支持体は3Dプリンタを用いて作製した.試料管の回転の駆動にはステッピングモーターを採用した.試料管は強度が高くバックグラウンド信号の出ないPCTFE製とし,懸濁体を封入できるよう業者に加工を依頼した.その他,ドライブシャフトや軸受など必要な部品は全て非磁性ステンレスもしくは樹脂製のものとした.超電導磁石およびパワーアンプにはCMX300 Infinityのものを使用し,固体NMR測定はFPGA集約型NMR分光計OPENCOREに接続して行った. まず,標準物質を用いて測定のセットアップを行い,信号の送受信が正しく行われていることを確認した.次にモデル試料としてL-アラニン微結晶の懸濁体を準備し,静磁場および回転磁場下でのin-situ固体CP NMR測定を行った結果,いずれも理論的にシミュレートしたスペクトルと同様のスペクトルが得られることが分かった.このことから,一軸磁場配向状態での微結晶のin-situ固体CP NMR測定に成功したといえる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究課題は,次の2つの小課題にて構成されている.課題(A),三次元磁場配向プローブの作製とin-situ磁場配向NMR法の確立;課題(B),in-situ磁場配向NMRによる高分子単結晶の構造・ダイナミクス解析.初年度である平成29年度には,課題(A)の内容である,既存の固体NMRプローブを磁場配向させながら固体NMR測定が可能な試料管変調回転ユニット付きの特殊プローブへと改良して,in-situ磁場配向NMR法の確立を図る計画であった.三次元磁場配向プローブの設計についてはCADソフトウェアにより3D設計図を作成済みであるが,試料管の回転に必要な非磁性の特殊歯車やシャフトは外注する必要があったため,納入および回転ユニットの組み上げまでに予想以上に時間がかかることとなった.また,微結晶のin-situ磁場配向下での固体NMR測定には成功したものの,プローブのラジオ波照射条件の調整部分に不具合が発生して解析に十分な分解能がでなくなり,解決までに時間を要した.これらの事情から,試料管の回転速度・位置の検出用センサーの取り付けや回転同期型パルスシーケンスの構築が遅れており,三次元磁場配向下での構造解析までにはまだ至っていない.ただし,これらセンサー取付やシーケンス構築については既に設計開発のノウハウや実績があり,モデル試料であるL-アラニン微結晶の三次元磁場配向の達成条件も判明していることから,当該年度の目的は近く達成される見込みである.
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度に引き続き,当初の研究計画に基づいて研究課題を遂行する.具体的には以下の通りである. 課題(A):試料の回転速度・位置の検出用センサーの取り付けを済ませ,試料管の回転にラジオ波照射・信号検出のタイミングを同期させたパルス系列を作成する.三次元磁場配向下にあるモデル微結晶のin-situ固体NMR測定を達成する.異方性の情報を有した一連の固体NMRスペクトルを集積し,単結晶NMR解析を行って,in-situ磁場配向NMRによる構造解析手法を確立する. 課題(B):まず例証試料としてポリエチレンテレフタレート(PET)を選択し,単結晶を析出させた希薄溶液をそのまま磁場配向プローブへと挿入して三次元配向下でのin-situ固体NMR解析を行う.異方性の評価により局所構造のデータを集積し,既往のPET結晶構造を精密化する.三次元配向下での緩和解析も行い,異方構造と分子運動の相関について議論する.次に,藻類およびマボヤ由来のセルロースから得られたセルロースナノ結晶(CNC)懸濁液をin-situ磁場配向NMR測定に供し,異方性の情報を基に既往のセルロース結晶構造を精密化する.平行して新規多糖である直鎖状α-1,3-グルカンについてもin-situ磁場配向NMRを適用し,局所構造の知見を集積してその高次凝集構造について理解を深める.また,オボアルブミンをモデルタンパク試料として31P核のin-situ磁場配向NMR測定を行い,同手法によるタンパク質の局所構造解析の可能性を探る.
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Causes of Carryover |
昨29年度において,本研究課題は当初の研究計画よりやや遅れた形で進展した.それに伴い,年度内に調達するはずであった回転装置用の特殊歯車などの発注も遅れ,次年度使用額が生じる結果となった.研究を進めるために必要不可欠な部品であることには変化なく,これらの調達費用として次年度の早い段階で使用する予定である.
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