2017 Fiscal Year Research-status Report
新奇な光転位反応を基盤とした屈折率変化高分子の創製
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17K05889
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Research Institution | Kanagawa University |
Principal Investigator |
亀山 敦 神奈川大学, 工学部, 教授 (80231265)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 芳香族複素環 / 高分子 / 光転位 / 屈折率 / 分子屈折 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、新奇な光転位反応により屈折率が変化する高分子を創製することを目的としている。芳香族複素環誘導体の中で、光転位した後にC=O基やC=S基が生成する化合物に着目し、光転位後の屈折率が転位前の屈折率より大きくなる高分子の分子設計と合成、および光化学反応性と屈折率変化の関係について検討を行った。芳香族複素環を有するスチレンモノマーとして、2-(4-ビニルベンジル)チオベンゾオキサゾール(VTBO)、および2-(4-ビニルベンジル)チオベンゾチアゾール(VTBT)を合成し、フリーラジカル重合により対応する線状高分子P-1、P-2を合成した。また、VTBO、VTBTの光イニファータ―重合により、対応する多分岐高分子P-3、P-4を合成した。得られた高分子は、1.633から1.673の有機高分子としては高い屈折率を有することが分かった。それぞれの高分子フィルムを作成し、280nm光(照度1.1 mW/cm2)による光化学反応を行った結果、芳香族複素環のS-ベンジル体からN-ベンジル体に選択的に転位し、P-1、P=3の場合はC=O基が生成し、P-1、P=3の場合はC=S基が生成することを明らかにした。また、約60分の光照射条件で転化率は60~70%であり、線状高分子と多分岐高分子では光転位の効率に大きな差は見られなかった。光転位後のP-1~4の屈折率は、線状ポリマーで+0.0070、多分岐高分子で+0.0054程度増加することが分かった。線状ポリマーと比較して多分岐高分子の屈折率変化が小さいのは、光反応性基部分の分子体積が相対的に大きいので、屈折率変化が小さくなると考えられる。また、側鎖に芳香族複素環部分として、チオベンゾオキサゾール部分、チオベンゾチアゾール部分を有するラダー型シルセスキオキサンを合成し、そのフィルムにおける光転位反応、構造変化、屈折率の増加を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
目的とする高分子に対する参照化合物として、芳香族複素環を有するカルボン酸誘導体、およびベンジル基のメチレン炭素にC-S結合で結合した芳香族複素環誘導体などを合成し、これらの光転位について基礎的な知見を得ている。これは、分子極性の大きいC=O基やC=S基の生成を伴う光転位により、転位後の化合物の屈折率が増加するという本研究の作業仮設の妥当性を支持する結果である。このような知見を基に、側鎖にベンジル基のメチレン炭素にC-S結合で結合した芳香族複素環誘導体を有するスチレンモノマーを合成し、その低温フリーラジカル重合により線状高分子を合成した。また、同モノマーの光イニファータ―重合により多分岐高分子を合成し、形状の異なる高分子の選択的合成を達成した。高分子主鎖骨格として剛直な無機構造を有するポリシルセスキオキサンに着目し、ゾル‐ゲル反応による側鎖にクロロメチルフェニル基を有するポリシルセスキオキサンの合成、引き続く高分子反応による芳香族複素環部分を有するポリシルセスキオキサンの合成法を確立している。さらに、この高分子フィルムの光転位反応に伴い、屈折率が増加することを明らかにしている。 上述の高分子の光転位について、側鎖のチオベンゾオキサゾール部分、チオベンゾチアゾール部分の構造と反応性の相関関係、生成物の構造確認、光照射条件と反応選択性について十分な知見が得られている。また、線状高分子と多分岐高分子における光転位と屈折率増加の相関関係を明らかにし、高分子の形状と屈折率変化の程度について妥当が考察を行っている。さらに、これらの高分子の光転位における機構について基礎的な知見が得られており、今後の研究を推進するための成果が得られている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究成果から、種々の芳香族複素環誘導体の光転位反応が一般性のある光化学反応であることが明らかとなった。また、この構造変化に伴って屈折率が増加する現象は、光屈折率変化材料の開発において非常に有用であることが明らかとなった。今年度は、分子極性の大きいC=O基やC=S基の生成を伴う光転位により、転位後の化合物の屈折率が増加するという本研究の基本概念を基盤として、側鎖に芳香族複素環誘導体を有する種々の高分子の合成法を検討する。光機能材料として透明性に優れた高分子主鎖骨格として、ポリスチレンに着目した。まず、側鎖に芳香族複素環活性エステル部分を有するモノマーを合成し、その熱ラジカル重合による線状高分子、および光ラジカル重合による多分岐高分子の選択的合成法を確立する。また、耐熱性、および物性に優れた縮合系高分子の主鎖構造として、ポリアミド、およびポリイミドを選択し、側鎖に芳香族複素環部分を有するこれら縮合系高分子の合成法を検討する。一例として、クロロメチルフェニル基を有する縮合系高分子として、側鎖にクロロメチルフェニル基を有する各種ポリイミドを合成し、その高分子反応を利用して、側鎖に芳香族複素環部分を有する種々のポリイミドの合成法を確立する。合成した種々の高分子のフィルムについて、光転位の反応速度、選択性を明らかにする。さらに、芳香族複素環部分、および高分子主鎖の化学構造、光転位反応、および屈折率変化の相関関係を明らかにする。
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Causes of Carryover |
消耗品の購入において、年度末の試薬の割引キャンペーンを利用した結果、当初の計画よりも少ない予算で購入することができた。
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