2017 Fiscal Year Research-status Report
Development of catalytic coupling reactions using molecular oxygen
Project/Area Number |
17K05947
|
Research Institution | Hamamatsu University School of Medicine |
Principal Investigator |
黒野 暢仁 浜松医科大学, 医学部, 准教授 (10333329)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 酸素酸化 / 環境調和的 / 触媒的 / 酸化的カップリング反応 / オキソアンモニウム塩 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究代表者のこれまでの分子触媒の開発研究において、既存の手法と比較して少ない触媒量で高収率・高エナンチオ選択性で生成物を与える不斉シアノ化反応を開発した。この研究過程において原料のN-カルバモイルイミンを入手する際、相当するカーバメートの酸化を行ったが、最善の手法である酸化剤は、酸化剤自身の大量入手の必要性と酸化反応後の処理が煩雑で大量合成には不向きであった。この経験からカーバメートの簡便な酸化法の必要性を感じ、分子状酸素(以下、酸素と省略)による酸化反応を取り入れた上で触媒化できれば、効率的でかつ環境調和的な合成手法を開発できると研究に着手した。 カーバメートを基質する酸化反応の中でN-カルバモイルテトラヒドロイソキノリンとアルコキシベンゼンの酸化的カップリング反応を検討課題として選定した。報告例に触媒反応はなく、量論量のオキソアンモニウム塩やt-BuOOHを酸化剤として用いていることから改善の余地がある。また、鉄や銅などの金属塩触媒(5から10 mol%)を用いたカップリング反応も報告されているが、同様に酸化剤に量論量以上の過酸化物を用いている。従って、酸素酸化を取り入れた触媒的酸化カップリング反応は新しい手法になりうると考えた。 初年度となる本年度は、課題の基軸となる酸素酸化を取り入れた触媒反応を構築するために、基質として窒素原子にベンジルオキシカルボニル基を導入した1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリンと、高い求核性と位置選択性の考慮が不要の1,3,5-トリメトキシベンゼンのカップリング反応をモデル実験に選んで、基礎的な検討から着手した。初期検討の結果、良好な活性を示す触媒系を発見し、温和な条件下で酸化的カップリング反応が進行することを実証した。この反応において酸素酸化がターミナル酸化プロセスとして不可欠であることも確認し、基質適用性についても検討した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ベンジルオキシカルボニル基(Cbz)を導入したN-Cbz-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリンと1,3,5-トリメトキシベンゼンのカップリング反応をモデル実験として条件検索を行った。[4-AcNH-TEMP=O]+ BF4-を用いた量論反応では室温、3時間の条件下、高収率で生成物を与えたことから、この成績を触媒化の目標値とした。触媒化の検討では、アルコールの触媒的酸化で成書になっている銅触媒を用いた条件を起点として着手した。酸化剤である[4-AcNH-TEMP=O]+ BF4-の触媒化は達成できたが、酸素酸化による銅塩の触媒化は達成できなかった。種々検討を重ねた結果、4-AcNHTEMPOと硝酸を加えた系が触媒活性を示した。 モデル実験は同上の触媒系 10 mol%を用いると3時間でカップリング生成物を収率58%で得た。さらに硝酸のみを添加することにより92%まで収率が向上した。様々なカルバモイル基を試したところ、Cbz基の代わりにBoc基やメトキシカルボニル基が導入された基質は高収率で反応が進行したが、フェノキシカルボニル基が導入された基質では、多くの原料が回収された。メトキシカルボニル基置換のイソインドリンと1,3,5-トリメトキシベンゼンの反応では、カップリング生成物が33%の収率で得られた。この反応では、もう一方のベンジル位にも反応が進行したダブルカップリング生成物も得られた。Cbz置換したテトラヒドロ2-ベンゾアゼピンの場合には、ベンジル位の単純な酸化反応も起こらず、原料回収に終わった。その他、ベンジルアミン類においてもカップリング生成物は得られなかった。カップリングパートナーに3,5-トリメトキシトルエンを用いた場合には、位置異性体が混合した生成物が高収率で得られた。また、1,3-ジメトキシベンゼンとの反応ではカップリング生成物が58%の収率で得られた。
|
Strategy for Future Research Activity |
確立した触媒系の基質適用性の拡張を狙い、ジヒドロアクリジン類やキサンテン類を検討する。例えば、窒素原子にカーバメートを導入したジヒドロアクリジンは、反応点と予測される位置に2つのベンゼン環が隣接して酸化されやすい構造でありながらも、イソキノリン骨格とは異なり、窒素原子が反応点と隣接せず、芳香環の共鳴効果を通じて影響が及ぼされるなど、基質適用性の面だけではなく、反応機構を考慮していく上でも興味深い化合物である。窒素上の置換基はカーバメートに留まらず、アルキル基、アミド基も検討し、さらにベンジル基のような別の反応点を提供する可能性のある基質についても計画している。また、ジヒドロアクリジンの窒素原子を酸素に置き換えたキサンテンは過酸化物を利用するカップリング反応で報告例があり、既報との優位性について議論する。 基質適用性を検討しながら、系中に存在する物質(触媒、原料、生成物)の酸化電位を測定する。高収率で進行する反応の物質間の電位差を基準モデルとし、収率が低い反応の要因を探る。例えば、電子移動プロセスでモノアルコキシベンゼンの酸化電位が高く、触媒分子との電子移動の低効率が要因と考えられる場合には、触媒分子の骨格にトリメトキシベンゼンの骨格を含むオキソアンモニウム塩を触媒として用いて、離れすぎている電位差間に新たに電子移動プロセスを挿入して円滑な電子移動が起こることを期待している。
|
Causes of Carryover |
所属研究機関において29年度後半に実験室の移設が予定された。非常に流動的な日程の中で計画・実施されたことにより、予算の使用において、一定の融通が利くように計画する必要があった。結果的に、年度末は実験室の整備を行うことで実際に実験ができる時間が計画できなかったために次年度の使用分とした。この額は、次年度のはじめに試薬や溶媒など消耗品の購入に充てる。
|
Research Products
(4 results)