2017 Fiscal Year Research-status Report
浮遊帯溶融法による高品質Ybドープ酸化物単結晶の育成と超短パルスレーザーへの応用
Project/Area Number |
17K06010
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
樋口 幹雄 北海道大学, 工学研究院, 准教授 (40198990)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 固体レーザー / 酸化物単結晶 / 浮遊帯溶融法 / 超短パルスレーザー |
Outline of Annual Research Achievements |
超短パルスレーザーは精密微細加工,医療,計測等へ応用されており,さらなる高強度化による応用分野の拡大が期待されている.現行材料であるチタンサファイアは,蛍光寿命が約3 μsと短いために高強度化の限界が見え始めている.これに対して,Yb3+を活性イオンとした固体レーザーは,蛍光寿命がmsのオーダーであるため,次世代の高強度パルスレーザーとして期待されており,様々なホストへの添加が試みられてきた.K2NiF4型Yb:ABCO4(A = Ca, Sr;B = Y, Gd, La;C = Al, Ga)はA2+とB3+が結晶内で同一のサイトにランダムに分布することから,Yb3+の配位環境が多様化し,超短パルスレーザー用媒質として必須であるブロードな発光帯を示すことが期待される.今年度はYb:CaYAlO4単結晶の育成を浮遊帯溶融法により試みるとともに,光学特性が不明である他の組成の化合物について固相反応法により合成し,その発光スペクトルを検討した. 化学量論組成の原料を用いた場合,多くのボイドが生成し,透明性に乏しい結晶が得られた.一方,YをCaに対して化学量論組成よりもわずかに多い組成の原料を用いることにより,散乱源となるボイドの生成を効果的に抑制することに成功した. Yb:CaYAlO4の吸収スペクトルの偏光依存性を測定したところ,その吸収断面積は既報とは異なり,偏波面が光学軸(結晶軸のc軸に一致)に対して垂直に振動するσ変更のほうが,平行に振動するπ偏光よりもわずかに大きいことが判明した. 他の組成の化合物の組成はYbの置換サイトが大きい場合,およびC=Gaの場合に発光スペクトルがよりブロード化した.しかしながら,CaGdAlO4以外はすべて分解溶融することが判明し,融液からの良質な単結晶育成がかなりの困難を伴うことが示唆された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Yb:CaAlO4に関して,原料組成を厳密に制御することにより,ボイドの生成を抑制することができ,レーザー用媒質材料として最低限の品質を有する結晶を得ることに成功したということから,初年度の目標はほぼ達成できた. 吸収スペクトルの偏光依存性が上述の通り既報と逆であるとともに,吸収断面積の差が小さいという性質は全く新しい発見であり,この結果は,良質結晶の作製手法とともに論文化し,学術雑誌Optical Materialsに掲載される予定となっている. 一方,30年度に実施予定であった他の組成に関しても前倒しで検討をおこなったところ,超短パルスレーザー用材料としては上述のように特性の良いものが見いだされたが,CaGdAlO4以外の化合物はすべて分解溶融するということが判明した.引き上げ法による単結晶育成の報告がなされている組成も多く,融液成長が可能であろうと期待していたが,これらの結果は全くの予想外であり,対処法を再検討する必要がある.
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Strategy for Future Research Activity |
29年度に確立したYb:CaYAlO4単結晶の基本的な育成条件に基づいて、ドーパント濃度の均質化を主目的とした結晶のさらなる高品質化を検討する。まず、Ndの実効偏析係数を決定し,所望のドーパント濃度に対応する溶融帯組成を決め、ゾーンレベリングの手法を用いてドーパントの育成方向にわたる均質化を試みる。Yb濃度はYに対して1.0-5.0原子%となるように添加し、光学特性評価用の試料を作製する。 レーザー発振効率の偏光依存性を議論するためには,c軸すなわち光学軸に対して垂直方向に結晶育成をおこなう必要がある.従来の不特定の指数方向に成長していた結晶から,偏光顕微鏡を用いて光学軸を決定した後,それに沿った種結晶を切り出し,厳密に成長方向を制御した結晶育成をおこなう. 各結晶のより詳細な光学特性は以下の項目について検討する:①蛍光寿命とYb添加量との関係を調べる;②吸収および発光スペクトルから,利得の最も大きい波長域を見積もる.③温度波熱分析法により熱拡散係数の測定を測定し、密度、比熱の値から熱伝導率を決定する.以上の評価により,フェムト秒レーザー用媒質としての最適Yb濃度を決定する.さらにYb:CaYAlO4については、レーザーグレードの加工を外部委託し,連続発振を試みる. K2NiF4型Yb:ABCO4のほとんどが分解溶融することが判明したことから,新規材料として,メリライト型Yb:ABC3O7(A = Ca, Sr;B = Y, Gd, La;C = Al, Ga)について検討を開始する.この結晶ではK2NiF4型Yb:ABCO4と同様にAとBが同一サイトをランダムに占有することから,発光スペクトルの広帯域化が期待できる.まず,粉末を合成し,それらの光学特性を把握した後,有望な化合物について浮遊帯溶融法による結晶育成を試みる.
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