2017 Fiscal Year Research-status Report
グリーンコンポジット用生分解性樹脂における加水分解制御機能の極限化原理の構築
Project/Area Number |
17K06065
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Research Institution | Kanazawa Institute of Technology |
Principal Investigator |
田中 基嗣 金沢工業大学, 工学部, 教授 (30346085)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | グリーンコンポジット / 生分解性樹脂 / 加水分解制御 / ポリ乳酸 / 光解離性保護基 / 分子シミュレーション / 分子構造設計 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,分子軌道計算および分子動力学シミュレーションによる反応環境・分子構造設計と試行錯誤的実験を組み合わせて,光解離性保護基を分子鎖内に多数導入した長鎖化ポリ乳酸の最適分子構造を導き出すことで,保護基導入による分子鎖の折れ曲がりに起因する力学特性(弾性率)の低下を可能な限り抑えつつ,「使用時の分解・劣化の抑制」と「廃棄時の分解促進」からなる加水分解制御機能を極限まで高性能化し,グリーンコンポジット用の究極のマトリックス樹脂を創製する原理を構築することを目的とした.これにより,地球環境に優しいグリーンコンポジットの実用化に寄与し,自動車一次のみならずインフラ構造物の複合材料化による社会のサステナビリティの増大に貢献することを目指している.初年度の成果は,以下のように要約される. 1)ポリ乳酸とポリグリコール酸について加水分解制御性を比較した結果,加水分解抑制機能の効果的な発現のために,メチル基等の疎水性側鎖を有する重要性が明らかとなった. 2)分子軌道計算の結果,反応箇所によっては長鎖化ポリ乳酸を実現できる可能性が示唆されるとともに,分子動力学シミュレーションの結果,長鎖化ポリ乳酸はポリ乳酸単体よりも弾性率が低下することが示された. 3)反応位置の違いによって,長鎖化ポリ乳酸の折れ曲がり・折りたたみ度合いが変化し,それに対応して弾性率が変化することが示された. 4)2つのポリ乳酸を保護基ベンゼン環の対角(パラ位)に配置した場合に,長鎖化ポリ乳酸の弾性率はポリ乳酸単体の弾性率の値に近づいた.このことから,折れ曲がりの少ない分子構造を設計・実現することにより,きれいな螺旋構造を持つポリ乳酸単体の構造に近づけることができ,弾性率低下の無い長鎖化ポリ乳酸が実現できる可能性が示唆された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の推進にあたって,初年度は,光解離性保護基を介したポリ乳酸長鎖化が可能な反応サイトの組み合わせを分子軌道計算により探索し,光解離性保護基媒介長鎖化ポリ乳酸の分子鎖形状と弾性率を分子動力学法により予測するとともに,脱保護と加水分解挙動を予測できる分子動力学シミュレーション手法を構築することを目指した.まず,光解離性保護基を介したポリ乳酸長鎖化が可能な反応サイトの組み合わせを分子軌道計算により探索すること,および,光解離性保護基媒介長鎖化PLAの分子鎖形状と弾性率の計算を分子動力学シミュレーションにより網羅的に実施して弾性率低下を可能な限り抑えることができる分子鎖形状となる解の候補を導くこと,のいずれもを達成した.一方で,分子軌道計算および分子動力学シミュレーションに脱保護過程と加水分解過程を組み込む試みは端緒に就いたばかりであり,この観点で本研究の達成度は遅れているのが現状である.しがたって,全体として,本研究の現在までの達成度は,当初の計画と比較して「やや遅れている」と言える.
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Strategy for Future Research Activity |
まず,初年度の検討の結果,弾性率低下の無い長鎖化ポリ乳酸が実現できる可能性が示唆された「折れ曲がりの少ない分子構造」として,ポリ乳酸と保護基の反応生成物に対し,2つめのポリ乳酸をパラ位の位置で反応させることが可能なヒドロキシフェナシル型の光解離性保護基を実際に用いて試験片を作製し,その弾性率および加水分解制御機能の評価をおこなう.これと並行して,その難易度の高さから初年度は達成できなかった「脱保護および加水分解過程を組み込んだ分子シミュレーション手法の構築」にチャレンジし,光解離性保護基媒介長鎖化ポリ乳酸の脱保護および加水分解挙動を分子シミュレーションにより予測することを目指す.この際,反応に必要な活性化エネルギを分子軌道計算によって導出し,紫外線照射による脱保護現象をその逆反応に必要な活性化エネルギを用いてモデル化する.また,ポリ乳酸分子鎖に乳酸モノマーが1つ接続されて水分子が1つ放出されるのに必要な活性化エネルギを分子軌道計算により導出し,加水分解現象をその逆反応に必要な活性化エネルギを用いてモデル化することで,ポリ乳酸がカルボキシル基末端から加水分解される分子動力学シミュレーション手法を構築する.
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Causes of Carryover |
初年度に導入する予定であった分子動力学シミュレーションソフトウェアについて,別予算で購入できたため,初年度予算が比較的多く残った.2年目以降の検討では,2つめのポリ乳酸をパラ位の位置で反応させることが可能なヒドロキシフェナシル型の光解離性保護基を実際に用いて試験片を作製し,その弾性率および加水分解制御機能の評価をおこなう試行錯誤的実験が必要となり,消耗品費を多く消費することが予想されるため,初年度に生じた次年度使用額をこの目的にあてる予定である.
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