2018 Fiscal Year Research-status Report
放電除去熱量と残存熱量の拡散に伴う加工現象の解明とその表面機能制御への応用
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17K06086
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Research Institution | Kogakuin University |
Principal Investigator |
武澤 英樹 工学院大学, 先進工学部, 教授 (40334148)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 永久磁石 / 放電加工 / 表面磁束密度分布 / 磁石内部温度 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究初年度において,円筒形磁石に対して突き当て放電加工を実施し,加工中の磁石内部温度を複数点同時に計測を行い,磁石内部温度の詳細データの取得が可能となった.その結果,加工面直下ほど磁石内部温度は高く,内部に行くにしたがい温度は低下し,加工面から3mm以上離れると均一な磁石内部温度に落ち着くことがわかった.これより,この後加工を進行させると,加工初期の飽和状態の着磁磁石への放電加工とは異なり,着磁率の低下した磁石への放電加工が進行すると考えられる.そこで,初期着磁率の異なる磁石を,既設の脱着磁装置で数種類製作して同一放電条件で加工を行い,磁石内部温度ならびに放電波形の取得から放電状態の分類を行っている. その結果,通常の放電加工とは異なり,着磁率の低い磁石の加工では加工速度が速いにもかかわらず磁石内部温度も低いという結果が得られた.つまり,同一放電条件であるため,加工速度が早いということは放電頻度が高いことが予測されるが,その一方で磁石内部温度が低いと矛盾する結果である.着磁率の違いにより,磁石の熱物性が変化しているのではないかと考え,レーザーフラッシュ法による熱物性測定を公設研究機関に依頼し,加工サンプル現物の詳細データを確認したが,いずれも変化はないことがわかっている. 一方,放電頻度の実測結果から,着磁率の高い磁石では放電頻度が2倍程度高いこともわかった.しかしながら,加工速度は遅い結果である.これらの結果より推察して,磁石表面および縁に付着した加工粉に対する無駄な放電が発生し,母材である磁石自体の除去には寄与しない放電が生じていると推察された.この推察結果より,放電条件で決まる磁石内部温度分布をシミュレーション等で予測できれば,磁束密度変化も予測できるとの当初の考えは不十分であり,放電加工特有の加工粉の影響も考慮することが新たな事実として明らかとなった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究2年目では,初年度の磁石内部温度の結果より,突き当て放電加工を続けると,加工初期の飽和状態の着磁磁石に対する放電とは異なり,着磁率の低下した磁石への加工が進行することに気が付いた.そこで,初期着磁率の異なる磁石を,既設の脱着磁装置で数種類製作して同一放電条件で加工を行い,磁石内部温度ならびに放電波形の取得から放電状態の分類を行った. その結果,初期着磁率の違が小さい程加工時間が短く,さらに磁石内部温度が低いことがわかった.同一放電条件で加工されていることは放電波形の観察から確認している.放電加工では,放電条件が同一の場合,放電頻度が高くなると加工時間は短くなる.その場合,放電の繰り返しが多くなるため被加工材の内部温度は高く測定される.しかしながら,着磁率の低い磁石の加工では加工速度が速いにもかかわらず磁石内部温度も低い結果が得られ,従来の考えとは相反する結果が得られた.そこで,放電頻度の詳細観察の結果,着磁率の高い(100%着磁)磁石の加工では,着磁率の低い磁石に比較して放電頻度が2倍程度高い結果であった.にもかかわらず加工速度が遅い結果から推察すると,磁石表面および縁に付着した加工粉に対する無駄な放電が多数発生し,母材である磁石自体の除去には寄与しない放電が生じていると推察された.そのため,磁石内部温度も高い結果となる.こられの結果について以下の学会発表を行っている. ①ISAAT2018 (2018年10月 カナダ・トロント),②電気加工学会 全国大会(2018)(2018年12月 大阪大学)③日本機械学会関東支部第25期支部総会(2019年3月 千葉工業大学)
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は,磁束密度の変化において温度依存性を持つ永久磁石への熱エネルギ加工である放電加工を行い,磁石形状と合わせて磁石内部温度分布を制御することにより,永久磁石の表面磁束密度を含めた表面の機能性制御を狙うものである. 当初の研究の考えから,各種放電条件における磁石内部温度分布を計測し,そのデータを元に熱伝導解析において磁石内部温度の予測が可能になれば,温度依存性の特性を考慮することにより磁束密度変化も予測できるのではないかと考えていた.ところが,本年度,加工実験を重ねる中で放電条件が同一であっても磁石内部温度が異なる現象が確認された.放電状態の分類から正常放電数に差が生じる場合があることがわかり,その原因が加工粉の再付着とその加工粉への余分な放電の発生であろうと予測された.加工粉の再付着ならびにその加工粉への放電発生を予測することは,加工液の噴出や磁石表面の着磁状態が加工中に変化することから容易なことではないことが推察される. 今後は,放電条件で決まる磁石内部温度に加工粉の影響を考慮した実験ならびにシミュレーション手法を確立し,その上で,温度依存性を考慮した表面磁束密度変化の推定が可能なシステムの構築を目指し,研究のとりまとめを行う.
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Causes of Carryover |
初期着磁率の異なる磁石素材に対する放電加工実験において,一般的な放電加工とは異なる現象が確認された.具体的には,着磁率の低い磁石では,同一放電条件にもかかわらず加工速度が速く,さらに磁石内部温度が低いという結果である.この現象の確認検証実験を多数繰り返すために時間を要した.これらの実験は,これまでの実験設備,実験素材で加工実験を続けることができたため,当初予定していた,温度測定システムの構築に至らず,そのため予算が余る結果であった. 次年度は最終年度になるため,年度初期から加工実験,各種計測実験ができるよう計画を立て直して,購入品等も考慮して研究を進める予定である.
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