2017 Fiscal Year Research-status Report
Study on hydrogen diffusion in steels induced by tribochemical decomposition of lubricants and the depression effect of DLC coatings on hydrogen diffusion
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17K06130
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
呂 仁国 関西大学, システム理工学部, 准教授 (90758210)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | トライボロジー / 水素脆化 / 軸受 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,摩擦による潤滑油のトライボケミカル分解で生成した水素が鋼への侵入過程の可視化方法を確立するとともに,DLCコーティングによる水素侵入の抑制方法を検討することを目的とした。H29年度内には,水素侵入過程の可視化と定量方法を確立するとともに,水素侵入量に及ぼす摩擦条件などの影響因子を明らかにすることを計画した。 本研究では,潤滑剤成分に安定同位体である重水素を用いてラベル化し,飛行時間二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)でその存在を確認するトレーサー法を利用した。具体的に,ポリプロピレングリコールと重水を質量比2:1で混合したものを潤滑油とし,スラスト玉軸受を用い,摩擦疲労実験を行った。摩擦試験後軸受の一部を切断し,その断面をTOF-SIMSで転走面から300μmまでの深さ方向分析を行った。鋼中への重水素侵入量を定量的に評価するために重水素の存在率をD/Hとして求めた。TOF-SIMS分析によって本研究で用いた軸受鋼内の重水素自然存在率は0.009%~0.01%となった。いずれの摩擦実験においても,表面近傍では重水素が自然存在率よりも多く検出され,潤滑油の分解により生成した重水素は軸受鋼内部に侵入したことが確認された。また,断面の深さ方向分析では,表面近傍よりも内部の重水素の相対強度が低下していることから,重水素は表面から内部に拡散していることが分かり,その侵入深さは200~250μm程度が限度だと考えられる。さらに,重水素の侵入量は摩擦時間を延ばすことで増加することが分かった。一方,新生面(トライボケミカル分解に起因する活性点)の生成速度は摩擦速度・荷重・材料の硬さに依存するため,生成した水素量の摩擦速度・接触荷重・軸受硬さの依存性を調べた。結果として,速度が速いほど,荷重が高いほど,軸受鋼が軟らかいものほど,より多くの重水素が検出された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前述のとおり,本研究では,摩擦による潤滑油のトライボケミカル分解で生成した水素が鋼への侵入過程の可視化方法を確立するとともに,DLCコーティングによる水素侵入の抑制方法を検討することを目的とした。H29年度内には水素侵入過程の可視化と定量の方法を確立するとともに,水素侵入量に及ぼす摩擦条件などの影響因子を明らかにすることを計画した。 計画通り,水素侵入過程の可視化と定量の方法を確立した。具体的には,重水素化潤滑剤を用い,レーサーとして飛行時間二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)でその存在と分布の分析方法を確立した。重水素は自然界にも存在し,その自然存在率(D/H)は0.0026%~0.0186%などと言われているが,本研究で用いた軸受鋼内の自然存在率は実測で0.009%~0.01%となった。この値を基準とし重水素の軸受鋼への侵入の有無を評価するものとした。結果としては,いずれの摩擦実験においても,表面近傍では重水素が自然存在率よりも多く検出され,潤滑油の分解により生成した重水素は軸受鋼内部に侵入したことが確認された。 また,水素侵入量に及ぼす摩擦速度,荷重,材料の硬さ,摩擦時間など摩擦条件の影響も計画通りで検討した。速度が速いほど,荷重が高いほど,軸受鋼が軟らかいものほど,より多く重水素が検出された。 一方,温度による影響の検討を計画したが,実験中で加熱すると,潤滑油の蒸発で,実験が順調に進まなかった。今後は耐温性の高い重水化潤滑油を検討予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度には低摩擦発見のためにDLCにおける潤滑油の仕組みを調べ、DLCコーティングにおける潤滑油のトライボケミカル分解を解明することを計画している。 ①低摩擦を発見するためにDLCにおける潤滑油の仕組 DLC膜とは、ダイヤモンド構造に対応するsp3混成軌道で結合した炭素と、グラファイト構造に対応するsp2混成軌道で結合した炭素が不規則に混じり合ったアモルファスな被膜だと言える。比較的sp2結合の多い、炭素のみから成る膜(a-C)と、水素を含む膜(a-CH)、さらに、sp3結合の多いta-C、ta-CHとを準備する。本研究で、上記4種類のDLCと潤滑油を組合せ、低摩擦と耐摩耗性の持つ仕組を見出す。具体的に下記のことを検討する:潤滑油中のDLC摩擦特性とDLC膜中の水素量の影響、水素非含有DLC膜中sp3結合比が潤滑油の摩擦係数に及ぼす影響、水素含有DLC膜中sp3結合比が潤滑油の摩擦係数に及ぼす影響。 ②DLCコーティングにおける潤滑油のトライボケミカル分解を解明 DLC膜は化学的に安定であるが、摩擦によって表面にダングリングボンドが生じ、フッ素系潤滑油末端の極性基とDLCのダングリングボンドとの反応が指摘されている。そのため、ダングリングボンドの活性によって、潤滑油のトライボケミカル分解が起こる恐れがある。本研究では、真空中に設置する摩擦試験機に質量分析計を組込み、摩擦面での反応により発生する気体を、質量分析計で成分ごとの圧力変化をモニターすることによって、潤滑油の分解メカニズム、特に水素発生の定量化への評価が可能である。DLC膜と潤滑油の組合せによって、トライボケミカル分解が最も発生しにくい仕組みを見出す。
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Causes of Carryover |
研究進捗により,計画当初に購入する予定のあった真空チャンバーが複合分子ポンプに変更したため,差額が生じた。次年度分と合わせて,真空チャンバーを購入する予定である。具体的に、次年度の経費使用を下記のように計画した。 (1)設備備品(915千円):回転導入機(キャノンアネルバ)1×@126千円、真空チャンバー(株式会社キタ)1×@497=497千円、超高真空計(キャノンアネルバ)1×@292=292千円 (2)外国旅費(380千円):学会発表(スウェーデン,7日間) 380千円 (3)消耗品(273千円):DLCコーティングされたテストピース8×@12=96千円、薬品50千円、真空計用ケーブル44千円、真空計用プラグ22千円、実験治具46千円、ガラス器具15千円(4)間接経費(450千円):管理費225千円、出張35千円、パソコン190千円
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Research Products
(2 results)