2018 Fiscal Year Research-status Report
Study on hydrogen diffusion in steels induced by tribochemical decomposition of lubricants and the depression effect of DLC coatings on hydrogen diffusion
Project/Area Number |
17K06130
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
呂 仁国 関西大学, システム理工学部, 准教授 (90758210)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | トライボケミカル分解 / 潤滑油 / DLC / 軸受 / 水素脆化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,摩擦による潤滑油のトライボ化学分解で生成した水素が鋼への侵入過程の可視化方法を確立するとともに,DLCコーティングによる水素侵入の抑制効果を検討することを目的とした。2018年度には,低摩擦発見のためにDLCにおける潤滑油の仕組みを調べ,DLCコーティングにおける潤滑油のトライボ化学分解を解明することを計画した。 本研究では,炭素のみから成る膜(ta-C),ダイヤモンド構造に対応するsp3とグラファイト構造に対応するsp2の比率が高い(69%)水素含有DLC(ta-C:H-a),sp3とsp2の比率が低い(53%)水素含有DLC(ta-C:H-b)を用い,潤滑油と組み合わせ,低摩擦と耐摩耗性の持つ仕組みを見出した。いずれの摩擦実験においても,DLCコーティングした場合では低摩擦・耐摩耗性が示された。特に,重水素ヘキサンデカンを潤滑油とした場合は,DLCコーティングなしの0.2の高い摩擦係数に対し,ta-C:H-bが0.03の超低摩擦係数を得た。摩耗痕幅もDLCコーティングなしの0.76mmに対し,ta-C:H-bが0.17 mmまでに減ったことが分かった。一方,ta-C:H-bをコーティングした軸受を用い,摩擦実験を行うと,軸受鋼への水素侵入量が大幅に減少し,水素侵入抑制効果が確認された。そのメカニズムを解明するために,真空中に設置する摩擦試験機に質量計を組み込み,潤滑油トライボ化学分解のその場観察システムを開発した。本装置は摩擦面での反応により発生する気体を,質量分析計で成分ごとの圧力変化をモニター可能となり,特に水素発生の定量化の評価が実現できた。ta-C:H-bの表面における潤滑油の分解による生成された水素の量はSUJと比べ,約19%までに下がったことが分かった。ta-C:H-bの水素侵入抑制効果はDLCの潤滑油のトライボ化学分解を抑制できたと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2018年度に,まずは,2017年度に残った軸受鋼への水素侵入量に及ぼす温度の影響を調べた。重水素化ヘキサンデカンを用い,80℃で30h摩擦実験を行い,水素侵入量が室温時より減少したことが分かった。 2018年度では,低摩擦を発見するためにDLCにおける潤滑油の仕組みを調べ,DLCコーティングにおける潤滑油のトライボ化学分解を解明することを計画した。 計画通り,水素含有の有無,sp3とsp2比率が異なるDLCと潤滑油の組合せ,低摩擦・耐摩耗性の持つ仕組みを見出した。具体的に,いずれの摩擦実験においても,DLCコーティングした場合は低摩擦・耐摩耗性が示された。特に,重水素ヘキサンデカンを潤滑油とした場合は,DLCコーティングなしの0.2の高い摩擦係数に対し,ta-C:H-bが0.03の超低摩擦係数が示された。摩耗痕幅もDLCコーティングなしの0.76mmに対し,ta-C:H-bが0.17 mmまでに減ったことが分かった。 また,DLCコーティングにおける潤滑油のトライボ化学分解特性も計画とおりで検討した。ta-C:H-bをコーティングした軸受を用い,摩擦実験を行うと,軸受鋼への水素侵入量が大幅に減少し,水素侵入抑制効果が確認された。そのメカニズムを解明するために,真空中に設置する摩擦試験機に質量計を組み込み,潤滑油トライボ化学分解のその場観察システムを開発した。本装置は摩擦面での反応により発生する気体を,質量分析計で成分ごとの圧力変化をモニター可能となり,特に水素発生の定量化の評価が実現できた。ta-C:H-bの表面における潤滑油の分解による生成された水素の量はSUJと比べ,約19%までに下がったことが分かった。ta-C:H-bの水素侵入抑制効果はDLCの潤滑油のトライボ化学分解を抑制できたと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
DLC膜は,ダイヤモンド構造に対応するsp3混成軌道で結合した炭素と,グラファイト構造に対応するsp2混成軌道で結合した炭素が不規則に混じり合ったアモルファスな被膜である。2019年度では,水素含有の有無,sp3とsp2比率が異なるDLCの水素侵入抑制効果の有効性を検証する予定である。 ①水素侵入抑制効果に及ぼすDLC種類の影響 重水素化モデル潤滑油を用い,異なるDLCコーティングされたテストピースで,摩擦疲労実験を行う。その後,TOF-SIMSによって,DLC膜および下地の鋼に侵入した重水素の量と分布を調べ,水素侵入の抑制効果の有効性を証明する。具体的に,水素含有の有無,sp3とsp2比率の影響,DLC膜厚の影響を調べる。さらに,DLCコーティングに水素拡散速度の解析を行う。 ②異なるDLCコーティングにおける潤滑油のトライボ化学分解 開発した潤滑油トライボ化学分解その場観察システムを用い,異なるDLCコーティングにおける潤滑油のトライボ化学分解挙動を調べ,水素侵入抑制メカニズムを解明する。さらに,水素侵入の抑制だけではなく,十分な低摩擦係数と耐摩耗性を発現するコーティング膜を付与した摺動面の改質表面も確立する。
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Research Products
(5 results)