2018 Fiscal Year Research-status Report
高齢者の健康な自立歩行を包括的に支援するロボティックツール群の開発
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17K06260
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
伊藤 友孝 静岡大学, 工学部, 准教授 (00283341)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 高齢者 / 転倒予防 / 歩行診断 / 杖 / 歩行訓練 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年,高齢者の転倒予防が重要な課題になっている.本研究は,(A)高齢者の転倒防止を目的に,定量的かつ統一的な評価法が確立されていない歩行診断分野において「個々の歩行状態を適切に診断する手法」を確立すること,(B)段差や傾斜地・階段などで使用者の歩行を知的に支援するロボット杖や歩行器,高齢者にバランスの良い歩行を促す歩行訓練装置などの「自立的な歩行を支援するロボティックツール群」の開発,の二つを目標としている.平成30年度の研究実績の概要は以下のとおりである. 歩行診断法の開発に関しては,前年度までで開発・改良してきた運動計測・評価システムを用いて福祉施設に通う50名の高齢者に対する歩行計測・診断実験を実施した.昨年度の検討で,女性高齢者については転倒暦の有無と歩行状態との間での関連性を明らかにできたため,今回は,福祉施設での計測ではデータ数が少なくなりがちな高齢男性を重点的に測定し,男女間での歩行状態や転倒リスクの差異を考慮して診断をできるように,歩行評価システムの完成につなげるための重要なデータを得た.また,認知症の指標であるMMSEとの相関から歩行状態の差異と認知症の関係性を調べることもでき,多様な観点からの転倒リスク診断を行える足がかりとなった. 自立的な歩行を支援するロボティックツール群の開発に関しては,軽量・完全自立化したロボット杖を用いて詳細な性能評価を行った.その結果,不整地でのバランス支援機能のチューニングにより,通常の杖と比較して接地時の安定性が大きく向上することを確認することができた.歩行訓練装置については,プロジェクタによる歩行状態のリアルタイム提示に基づいたプロトタイプを改良した上で,福祉施設での評価実験を行って,高齢者からの多くの意見・評価を得ることができた. 全体として当初の計画どおりの進捗状況であり,次年度につながる重要な知見が得られた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は,当初の研究計画に基づき,(A) 個々の歩行状態を適切に診断する手法の確立と(B) 自立的な歩行を支援するロボティックツール群の開発の二つの課題に並行して取り組んだ.課題(A)に関しては,歩行中の動作特徴や左右差,高齢者群の中での個々の歩行特徴の分類と体系化や過去の診断履歴などに基づいて分析と診断が行える段階まで来ており,いくつかの歩行タイプの転倒リスクが高いことまで突き止めることができた.なお,福祉施設に通所する高齢者は女性が多く本研究でも男性のデータが少なかったため,今年度は男性高齢者のデータを重点的に集めるように配慮したため,次年度の歩行診断システムの完成と評価を効果的に進められる状況になった. また,課題(B)に関しても,実地使用に耐えられるレベルのロボット杖が完成したため,ロボット杖に内蔵した各種センサとモーションキャプチャシステムとを利用して,計画通り様々な条件下での評価実験を実施することができた.その結果,不整地上でのバランス支援機能により,ロボット杖は通常の杖に対して接地の安定性が大きく向上していることが確認できた.また,スマートフォンを利用したチューニング機能により,状況に合わせて個別の特性変更が可能なことも確認できた.歩行訓練装置については,使用者の安全を考慮して,トレッドミル型ではなく車輪付歩行器をベースとした歩行状態提示装置を考案したことで,実際に地面上を歩きながら自分自身の歩行の様子を確認できるようになり,より効果の高いものとなった.福祉施設での実験により,多くの意見・評価を得ることができた. 研究の成果は,学会発表を行ってベストプレゼンテーション賞を受賞したほか,論文誌にも掲載され,順調に進展していると判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
30年度の研究が順調に進行し当初の計画通りの成果が得られたため,令和元年度は,それを踏まえてシステムの更なる機能向上と機能集約に注力し,研究の完成を目指す.高齢者の歩行診断に関しては,これまでの成果を元に高齢者の歩行データをさらに詳細に分析し,歩行バランスや転倒リスクの診断システムとしての確立を目指す.また,歩行特徴別の効果的なバランス訓練法や転倒予防のためのアドバイスを生成する機能もまとめ上げる.自立的な歩行を支援するロボティックツール群の開発に関しては,ロボット杖などのバランス支援機能ツール群の改良を行い,最終評価を目指す.特に歩行訓練装置については,これまでの研究成果を基に,福祉施設での日常使用によって効果が得られるように機能強化と改良を行い,実際に試用してもらうことで訓練効果データを収集できるようにする. 下期には,高齢者福祉施設にて最終評価実験を実施し,工学だけでなく介護福祉専門員や医師の協力も得て完成したシステムを多面的に評価する.特に歩行訓練装置の使用効果(歩行改善効果)については,次の段階の研究への重要な指針になり得ると考えており,重点的な解析と評価を行いたい. 得られた成果は,学会発表,学会誌論文の両方で社会に公表する.
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Causes of Carryover |
2018年度に投稿した研究成果の雑誌論文が2019年度4月号に掲載されたため,2018年度の計画に入っていた論文掲載料の分のみを次年度に繰り越しました。そのため,今後の研究計画や基金の使用計画に一切の変更はございません。
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