2018 Fiscal Year Research-status Report
水素キャリアによる太陽光エネルギー貯蔵に関する研究
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17K06322
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Research Institution | Toyota Technological Institute |
Principal Investigator |
大下 祥雄 豊田工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (10329849)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
高田 俊和 明治大学, 研究・知財戦略機構, 研究推進員(共同研究員) (20500458)
町田 英明 気相成長株式会社(CVD研究部及び合成研究部), 代表取締役社長, その他 (30535670)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 太陽電池 / 太陽光発電 / 水素生成 / 水素貯蔵 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、結晶シリコン太陽電池を用いて発電した電力コストが急速に低下し、その累積導入量がテラワットに近づいている。そのため、天候や日照時間による太陽光発電の供給不安定性に起因した基幹電力網の不安定化の問題が顕在化してきた。この問題を回避する方法として、エネルギーの貯蔵技術の研究が盛んに進められている。その中で、本研究では、植物の光合成初期過程を模したシステムを人工的に可能とする方法を提案してきた。具体的には、キャリア選択型と呼ばれる太陽電池と触媒との組み合わせにより、太陽光を用いて効率的に水を分解する。次に、得られた水素分子を化学物質に結合させた形で一旦貯蔵し、必要時に燃料電池を用いて水素を貯蔵した分子から電気を発生させて消費者に電気を供給する。植物の光合成初期過程では、太陽エネルギーによる水分解で得られるプロトンと電子を、ベンゾキノン骨格をもつプラストキノンの二つのケト基に添加している。これまでに、2-メチル-p-ベンゾキノンなどの分子に対して、90%を超える極めて高い反応効率でハイドロキノンが得られることを見出し、ベンゾキノン誘導体のカルボニル基への水素付加を人為的に行えることを示してきた。続いて、トルキノン/メチルヒドロキノン系の水素添加をパラジウム金属以外の触媒を用いて行った。その結果、Pt,Cu,Ru,Rhを触媒金属として使用した場合は、過還元が生じて骨格分解が生じた。一方、Ru触媒の場合には、還元効率は低いが、中間生成物の比率も低い結果となった。ポリシラン/Fe、Niは中間生成物がなく還元率も高い結果となった。Feにおいては、担持材としてポリシラン、アルミナ、あるいはシリカを用いた実験を行ったところ、還元時に中間生成物が生成する結果となり、金属を担持しているポリシランが還元反応に良好な影響を与えている事が示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
太陽電池に関しては、薄い酸化膜あるいはアモルファスシリコンをパッシベーション膜ならびにキャリア輸送膜として使用した構造により解放電圧として0.7V以上の値が得られた。これにより、本太陽電池を2個直列に接続することにより、水の電気分解に必要な1.23Vが容易に得られる。水素添加および離脱に関しては、水素添加―発電のループ実験をポリシラン/Fe, Ni触媒により過還元を抑制しながら可能となるかを調べた。燃料電池を通過した一部酸化された水溶液は還元装置に再度供給した。その結果、先の貴金属触媒を用いたループ実験で生じた過還元は起きず、発電時の電圧として0.3-0.4Vが維持された。しかし、メチルヒドロキノン水溶液では負荷がかかると安定した発電が維持できない結果となった。続いて、効率が高い発電を目指し、アセチルアセトンへの水素添加実験を行った。この時、溶液にHClあるいはアンモニアなどを添加し、酸性およびアルカリ雰囲気の影響を調べた。一般的に酸、アルカリ下でアセチルアセトンはエノール形を有利に生成することが知られている。実験結果においても、アルカリ下ではアセチルアセトンが酸性雰囲気よりも3倍以上水素化でき、約20%程度還元できた。このように、今回の実験ではエノール形のアセチルアセトンが水素化できるのではないかと推測して酸・アルカリ下で還元実験を追加して行ったが、アルカリ性下では還元率が大幅に上がったのに対し、酸性下では還元されない、あるいは逆に下がる結果となった。これらの実験に加えて、これまでの実験では水素添加(還元)ができなかったグルコノラクトン(還元体はグルコース)に対して、これまでに最も水素添加効率が高い結果が得られているポリシラン/Pd触媒とマイクロバブル水素を用いて実験を行った。しかし、今回の実験条件においては、触媒やマイクロバブルの効果は得られなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
効率的な水素生成を目的とした太陽電池に関しては、引き続きキャリア選択型構造の太陽電池を中心に研究を進める。具体的には、アモルファスシリコンあるいは薄い酸化膜をパッシベーションおよびキャリア輸送膜として使用する。キャリア選択に最適な仕事関数を有し、かつ触媒効果の高い材料の探索を行う。まず、電子の取り出し電極としては酸化チタンを利用する。その結果、電子の選択的な取り出しによる太陽電池の高電圧化と酸化チタンの触媒効果を利用した効率的な水の分解を目指す。一方、水素添加および離脱に関する実験では、ソルビトールを用いた場合水溶液濃度が0.5mol/lまで濃くなるとほとんど発電されず、適切な濃度のソルビトール水溶液は燃料として有効であった理由を調べる。発電後の水溶液からグルコース以外の不明な物質が確認されたので、2019年度は、ソルビトールを燃料にして発電した後の酸化体が何であるか同定を行う。さらに、その酸化体への水素添加が可能であるか試みる。酸化と還元の両方に効果があるAuの触媒を用いて、本系において水素添加、水素取り出しが可能か実験する。アセチルアセトンに関しては、酸性条件下でなぜ還元率が上昇しないかは現在のところ不明であるが、アルカリ下ではOH-とポリシランが何かしら作用している可能性がある。加えて、アセチルアセトンのエノール形が多く存在する溶媒なしの状態で還元実験を行ったが還元されなかった。これらの反応に関しては、今後より詳細に検討する。それらの結果を踏まえて、最適なポリシラン触媒を作製し、特に卑金属系触媒の還元特性を詳細に調べる。
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Causes of Carryover |
2018年度検討した結果をもとに、新たに触媒を試作する予定であったが、その選定に遅れが生じたため。
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