2017 Fiscal Year Research-status Report
真空紫外光によるプラスチックの光脱現象の解明と有機エレクトロニクス技術への応用
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17K06391
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Research Institution | University of Miyazaki |
Principal Investigator |
加来 昌典 宮崎大学, 工学部, 准教授 (10425621)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 光脱離 / 真空紫外光 / 光プロセッシング / 有機エレクトロニクス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では有機エレクトロニクスの基板材料のプラスチックに着目し,これらの光脱離現象を解明する.加えて,得られる知見を基に有機エレクトロニクス技術に寄与する新しい光物質プロセスの開発を目的としている. 平成29年度は,ポリ塩化ビニル(PVC),ポリ塩化ビニリデン(PVDC),ポリメタクリル酸メチル(PMMA)についてレーザー生成アルゴンプラズマからの広帯域真空紫外発光を波長掃引して照射することで光脱離の波長依存性について調査した.これら3つのプラスチック材料の光脱離において共通していることは以下の通りであった. (1)波長200 nm以下の光を照射することで光脱離が誘起される. (2)分子構造の中で,最も結合エネルギーが低い結合が選択的に切断され脱離している. これらの結果は,これまでに我々が他のプラスチック材料で得られた結果と整合性がとれており,光脱離現象を理解するうえで重要であると考えられる. 構成元素が同様で構造も似ているPVCとPVDCでは,共に塩素(質量数:35,37)の脱離が観測されC-Cl結合が真空紫外光照射によって切断されたためだと考えられる.塩素の質量スペクトルの形状は,PVCとPVDCで同様であったが,信号強度はPVDCの方が大きかった.これは塩素の含有量がPVDCの方が多いためだと考えられる.一方,PMMAでも結合エネルギーの低いC-O結合やC-C結合が選択的に切断され,質量数28のCOやCHOが観測された.また,段階的に,もしくは同時に2つの結合が切断され光脱離が生じている可能性があることがわかった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
光化学反応過程については,今年度新たに3つのプラスチック材料に関して光脱離種の真空紫外光の波長依存性を調査した.その結果,構成元素の中で結合エネルギーが低い原子・分子が選択的に光脱離されるというこれまでの結果と一致するデータが得られた.また同時に,もしくは段階的な光脱離が生じている可能性を示唆する新しいデータも得られており,光化学反応過程の解析に重要な知見が得られた. 現状の,波長分解能の改善については,スリット幅を狭くすると信号が低下し,検出が困難であることがわかった.これは四重極質量分析装置の検出感度の低下も考えられるが,光源の発光強度,もしくはデューティー比の改善が必要であると考えられる.
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Strategy for Future Research Activity |
今年度に引き続き,光脱離に関する基礎データを収集し,その結果を基としてデータベースの構築を図る.このような分析技術では,リファレンスとなるデータの蓄積が必要不可欠であり,また本技術の有用性や信頼性を示すためにもデータベースの構築は重要であると考えられる. また真空紫外光を照射することで,一部の金属やプラスチック材料で試料表面が加工,改質,クリーニング等されることは,これまでの研究で判明している.まず光を照射した試料表面を多面的に観察し,その状態を調べる.また,光物質プロセスの結果,プラスチック材料表面にどのような機能性が付加されるのかを評価する.これらの結果より,有機エレクトロニクスデバイスの基板に有用な表面状態を検討し,それに最適な光物質プロセスの条件を見出す. 光源の改善についても検討する必要があると考えられる.
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