2018 Fiscal Year Research-status Report
真空紫外光によるプラスチックの光脱現象の解明と有機エレクトロニクス技術への応用
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17K06391
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Research Institution | University of Miyazaki |
Principal Investigator |
加来 昌典 宮崎大学, 工学部, 准教授 (10425621)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 光脱離 / 真空紫外光 / 光プロセッシング / 有機エレクトロニクス |
Outline of Annual Research Achievements |
有機エレクトロニクスの基板材料のプラスチックに着目し,これらの光脱離現象を解明する.加えて,得られる知見を基に有機エレクトロニクス技術に寄与する新しい光物質プロセスの開発を目的としている.平成30年度では,アクリル樹脂(PMMA)の光脱離現象の詳細について調査した. 真空紫外光照射により,M/z = 28(CO), 29(CHO), 30(C2H6)に波長依存性のある光脱離が見られた.質量数M/z = 28(CO), 29(CHO), 30(C2H6)の質量スペクトルにおいて光脱離が観測され,いずれも170 nm付近にピークが検出された.このことから,アクリル樹脂は真空紫外域の中でも,170 nmに最も強い吸収を示すことがわかった.また,M/z = 28(CO), 29(CHO)においては,170 nm付近だけでなく,130 nmや200 nm付近にも小ピークが見られた.これらのピークの波長帯付近には,反結合性軌道であるσ*軌道の励起準位が存在することが示唆される. 光脱離プロセスに着目すると,真空紫外光照射により光脱離した脱離種が,そのままの状態で,四重極質量分析装置(QMS)に検出されるような1次的なプロセスだけでなく,光脱離した後,試料室内の残留物質もしくは他の脱離種と反応してQMSに検出されるような2次的なプロセスも起こることが確認できた.C-C結合及びC-O結合にのみ結合の切断が生じていたことから,光脱離現象は,PMMA構造内の結合のエネルギーが低い結合間に真空紫外光が優先的に作用して,誘起していることが示唆された.また,結合の切断は側鎖上の結合において生じたものであると考えられる.しかしC-C結合は,主鎖上にも存在するため主鎖のC-C結合が切断された可能性も考えられるが今後詳細を調べる必要がある.主鎖と側鎖とでは,分子構造上光脱離のしやすさに違いが生まれることが考えられる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
光脱離現象は,測定試料の分子構造内において,結合エネルギーが低い結合間に真空紫外光が優先的に作用して誘起されていることがPMMAにおいても確認された.この結果は,昨年度までに実施した,他の有機ポリマーに対しても同様な結果が得られていることから,このことは,光脱離現象を解明していくにあたり,重要な知見となることが考えられる.また光脱離の起こりやすさは分子構造にも大きく依存しており,今年度用いたPMMAでは,主鎖中に含まれるC-C結合よりも側鎖に含まれるC-C結合が真空紫外光照射によって切断されることが示唆される結果が得られた.また光脱離した後,脱離種が試料室内の残留物質もしくは他の脱離種と反応してQMSに検出されるような2次的なプロセスも起こることが確認できた.これらの結果より真空紫外光によって誘起されるPMMAの光脱離プロセスを理解することができた.またプラスチック材料の光脱離プロセスを理解する上で重要な知見であると考えられる.
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Strategy for Future Research Activity |
今年度に引き続き,光脱離に関する基礎データを収集し,その結果を基としてデータベースの構築を図る.このような分析技術では,リファレンスとなるデータの蓄積が必要不可欠であり,また本技術の有用性や信頼性を示すためにもデータベースの構築は重要であると考えられる. また真空紫外光を照射することで,一部の金属やプラスチック材料で試料表面が加工,改質,クリーニング等されることは,これまでの研究で判明している.まず光を照射した試料表面を多面的に観察し,その状態を調べる.また,光物質プロセスの結果,プラスチック材料表面にどのような機能性が付加されるのかを評価する.これらの結果より,有機エレクトロニクスデバイスの基板に有用な表面状態を検討し,それに最適な光物質プロセスの条件を見出す. 光脱離を誘起する真空紫外光源として,現在使用しているレーザー生成アルゴンプラズマ光源に加えて,重水素ランプを用いることを計画している.これらを比較することによって,光脱離理現象を効果的に誘起するためにはピークパワーとアベレージパワーのどちらが重要であるかを判断する.
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