2017 Fiscal Year Research-status Report
近接 2ch マイクロホンとブラインド信号処理に基づく雑音環境に頑健な音響測距法
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17K06473
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Research Institution | Kindai University |
Principal Investigator |
中迫 昇 近畿大学, 生物理工学部, 教授 (90188920)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 音響測距 / 位相干渉 / 距離スペクトル / クロススペクトル / 近接 2ch マイクロホン / 環境雑音 / 独立成分分析 / セミブラインド信号処理 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、介護・福祉用ロボットのように、近距離から遠距離まで広い範囲の距離検出が必要な機器に対し、可聴音を用いてロボットから人間までの距離を検知するための測距システムを実現することにある。従来は、スピーカとマイクロホン間の測定系と観測雑音の影響を受け、測定精度が劣化した。既に位相干渉に基づく音響測距法については、様々な見地から有用性を確認しており、今年度は以下の成果が得られた。 1.近接2ch マイクロホンを導入しクロススペクトル法を適用することによって測定系の影響を除去し、さらに音源としてリニアチャープ音を用い2回必要であったフーリエ変換の回数を削減した(中迫他, システム制御情報学会論文誌, 30巻, pp.339-346)。さらに同期加算による雑音対策も提案した(中迫他、電気学会論文誌C, 137巻, pp.1443-1444)。これらは測定系の影響と環境雑音に対する実用的な対策になると思われる。 2.近接2ch マイクロホンの観測信号に対して独立成分分析(ICA: Independent Component Analysis)を適用することを考えた。本年度は実用的に瞬時ICAを適用した(村田他, 日本音響学会講演論文集, pp.563-564, 2017.9) 。これにより、環境雑音(とくに指向性雑音)の除去についてはある程度の道筋がついたと思われる。 3.位相干渉に基づく音響測距法は様々な応用が期待される。例えば、マイコンを用いたシステムの試作(C. Song et al., Proc. of ICSV24, CD-ROM(8ページ))、音響測距法による多重反射を利用した音源距離の推定(本多他, 電子情報通信学会論文誌A, J100-A巻, pp.295-298)などについて可能性を検討している。 以上を踏まえ平成30年度以降の測距システムの開発につなげたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、介護・福祉用ロボットのように、近距離から遠距離まで広い範囲の距離検出が必要な機器に対し、可聴音を用いてロボットから人間までの距離を検知するための測距システムを実現することにある。対象物からの反射波と送信波が観測位置で重なると、観測信号のパワースペクトルは周期関数となり、その周期がマイクロホンと対象物に間の距離情報を含むため、もう一度フーリエ変換を施すと距離情報が得られる。しかし、スピーカとマイクロホン間の測定系と観測雑音の影響を受け、測定精度が劣化する。本研究はそれらの対策を主としている。本研究テーマを開始する前に、基礎研究として多くの成果が得られており、これは2012~14年度 科研費補助金 基盤研究(C)「距離0mからの超近距離と対象物・マイクロホンの移動に対応した音響測距法」(研究代表者:中迫昇、研究課題番号:24560533)の賜物である。 平成29年度の研究発表は、雑誌論文が3件(すべて査読付)、学会発表が14件(うち国際会議4件、国内学会が10件)である。1年間の成果としては十分であろうと判断する。内容的にも、近接2ch マイクロホンを導入のもとクロススペクトル法を適用し測定系の影響を除去する従来の音響測距法を発展させて、リニアチャープ音を用いてフーリエ変換の回数を削減した。また同期加算による雑音対策も提案した。さらに、近接2ch マイクロホンの観測信号に対して独立成分分析を適用する雑音対策法を考えた。これらの原理的手法は、平成30年度以降の測距システムの開発の礎になると確信する。 位相干渉に基づく音響測距法は様々な応用が期待され、本年度は上記の成果以外に、マイコンを用いたシステムの試作、音響測距法による多重反射を利用した音源距離の推定などについて可能性も検討することができた。以上のことから、本研究テーマは当初の計画以上に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度の成果と経験をもとに、位相干渉に基づく音響測距において本格的に測定系の影響と観測雑音の除去を目指す。従来は、環境雑音の対策は複数回の観測データの同期加算が、測定系の影響除去のためには近接2ch マイクロホンを導入しクロススペクトル法を適用する方法が採用されており、測定系の影響と観測雑音が同時に存在する場合には実際的に有効な対策がなかった。平成30年度以降は次のような研究計画を立てている 1. 位相干渉に基づく音響測距法を理論と実験の両面からさらに深く掘り下げ、実環境に合った理論構築を行なう。 2. 独立成分分析を用いて測定系の影響と観測雑音の両方の除去を目指すが、かなり複雑な問題であるために、とりあえず送信音は既知としてセミブラインド信号処理の観点から、まず環境雑音を除去してそのあと測定系の影響を除去する実用的な手法を確かめておく。これは実用的手法であると同時に、本テーマの最終目標の達成が難しくなったときに次善の策としても価値がある。 3. 独立成分分析を適用する際の問題点として、2つのマイクロホンが近すぎること、一般に音源-マイクロホン間のインパルス応答長がフレーム長より長くなること、雑音は指向性雑音だけでなく拡散性の雑音も考慮する必要があること、などが問題であり、これらを考慮した理論を構築し、測距実験を行ないたい。計測結果から理論を修正し、実際の音場における雑音やインパルス応答長の影響などを明らかにし、本理論の振る舞いとその適用限界を明らかにする。 4. 位相干渉に基づく音響測距法の潜在的な応用可能性を、平成29年度に引き続き、様々な角度から検討する。
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