2018 Fiscal Year Research-status Report
DNAレギュレータの制御性能解析とDNA組合せ回路の設計・応用
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17K06500
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Research Institution | Kyushu Institute of Technology |
Principal Investigator |
中茎 隆 九州工業大学, 大学院情報工学研究院, 教授 (30435664)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | DNAコンピューティング / 人工分子反応回路 |
Outline of Annual Research Achievements |
課題A)特異摂動理論を用いたDNAフィードバックレギュレータ(DFR)の達成条件,制御性能評価手法の構築 今年度までに,課題Aが設定しているDFRの達成条件,制御性能評価手法についての理論と手法を構築することができた.DFRは制御器としては,積分制御器と類似した性質を持つことが分かっている.しかし,メカトロニクスの分野において,マイコン上,あるいは,電子回路上に実装されるフィードバック制御系と異なり,DFRの積分制御器としての性質は,ある限られた有限時間内にのみ出現する.特異摂動理論を基礎におく提案手法は,準定常状態を理論的に取り扱うことができるため,準定常状態(フィードバック制御系が正常に動作し,出力が目標値付近に存在する状態)に突入する時刻・離脱する時刻とDFRを構成する物理パラメータの関係を解析的に表すことができる.具体例として,DFRのクラスに属する鎖置換反応系で設計された積分制御系に対して,手法を適用し,その妥当性と有効性を数値シミュレーションレベルで検証することに成功した.実際にDNA塩基配列設計を行い,ウェット実験も実施している.実験は,出力DNA鎖を蛍光修飾し,蛍光分光光度計でその時系列変化を観測する手法を用いている.一般に,DNA回路設計は数回の再設計が必要となるが,3回の再設計を経て,改良を続けている.本手法を他のDNA回路にも適用すべく,DNA鎖置換を利用した比例制御器も検討しており,途中経過を国際会議において報告した.また,DNA回路は分子反応系であるため,本質的には,細胞内シグナル伝達系の数理モデルにも適用できる可能性がある.このような発展は課題Aの発展課題であるが,まずは基礎的な検討を開始している.
課題B)遡及性理論を用いた多段のDNA組合せ回路の設計と実システムへの応用 今年度は,8,16入力XOR回路の設計を終えており,現在,論文を執筆中である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
課題Aに関して:特異摂動理論を基礎とした提案手法は前年度までに確立していたため,実用的なDNA鎖置換反応を組み合わせたDNAフィードバック回路への適用が今年度の重要な課題であった.手法は,準定常状態の解析的な計算を要求しているが,DFRの数理モデルは非線形高次元系であるため,適切に数理モデルを分割し,各モジュールごとにMathematicaを用いて解析解を求め,結果を統合する手法が功を奏し,解析解を求めることができた.現在,ここまでの理論および数値シミュレーション結果をまとめて論文を執筆準備中である.また,昨年度から進めてきたC言語を用いて高速に生体分子反応系のナイキスト安定判別を行うソフトウェアが概ね完成し,ベンチマークモデルに対して適用した結果を国内学会において発表した.研究実績の概要でも述べた他のDFRへの適用,発展課題としてのシステム生物学解析手法への模索についても,途中経過を国際会議(査読付き,および,査読なしポスター発表)において報告している.
課題Bに関して:昨年度までに,2入力XOR回路のウェット実験レベルでの検証は完了していたため,今年度は,8入力,および,16入力XOR回路の原理設計に着手した.数値シミュレーションレベルでは,いずれの他入力XOR回路の動作検証は終えることができた.現在,論文を執筆中であり,2019年度前半に投稿を目指している.一方,他入力XOR回路のウェット実験についても検討しているが,多くのDNA鎖置換反応が多段階的に組み合わさるため,回路中を伝搬するシグナルの減衰が問題となっている.解決策として,増幅ゲートを楔のように挿入する方法を検討しているが,XOR回路を構成するDNA鎖の種類が非常に多くなるため,DNA塩基配列設計が困難となっている.現在,解決法を模索している.
以上,課題AとBの進捗度合いを勘案し,(2)おおむね順調とした.
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Strategy for Future Research Activity |
課題Aに関して:今年度まで得られた数値シミュレーションによる検証という段階から,ウェット実験レベルでの検証を推進していく.現在までの状況で述べたように,すでにDFR回路のDNA塩基配列設計に対して,3回の再設計を行なっている.しかし,一般に,DNA回路設計は,リーク反応や望まない副反応への対策(対策自体もDNA塩基配列の長さや並びを工夫するしかない)が必要であり,数回の再設計が必要となることが多い.本研究課題で製作しているDFRに関しても,まずは正常に動作するDFRを設計する必要があるが,まだ,制御性能評価に耐えうる品質のDFRは完成していない.引き続き,試作を続けていく.また,他のDFRへの手法の適用,DFR以外の一般のDNA回路への手法の適用も視野に入れて,検討を続けていく.
課題Bに関して:他入力XOR回路に関して,2019年度前期中に論文を投稿することを目指す.一方で,現在までの進捗で述べたように,ウェット実験での他入力XOR回路の実証においては,DNAコンピューティングが抱えるリーク反応と副反応の問題が立ちはだかっている.現在,DNAコンピューティング分野では,大規模DNA回路設計をどのように実現するかが大きな命題となっているが,多段階組み合わせ回路の実現を目指す本研究課題の目的とも方向性は一致する.ただし,本研究課題は,モジュール性の中でも,遡及性に着目しているが,DNAコンピューティングにおける大規模回路設計の問題は,モジュール性の中でも,リークとクロストークが問題となるため,対処すべき対象は本質的には異なる.従って,他入力XOR回路のウェットレベルのでの実証のためには,後者の問題もセットで解決する手法が必要となるため,検討が必要である.
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Causes of Carryover |
現在までの進捗で述べたように,課題Bに対するウェット実験に遅れが出ており,消耗品(オリゴDNA合成費用)の利用計画にズレが生じたため,差額が生じた.本実験では,1回の試作に約10万円から15万円ほどのオリゴDNA合成費用がひつようであるため,約3回分の試作の進捗に相当する金額である.現在,対応策を検討中であり,次年度に引き続き物品費(主に消耗品)として利用する計画である.
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