2017 Fiscal Year Research-status Report
計算統計学と進化計算を融合した機会制約問題の大域的最適化手法の開発
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17K06508
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Research Institution | Kindai University |
Principal Investigator |
田川 聖治 近畿大学, 理工学部, 教授 (50252789)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 機会制約問題 / 不確実性 / 最適化手法 |
Outline of Annual Research Achievements |
現実の世界において、様々な意思決定に関わる諸問題の多くは、予測が難しい不確実性を含む問題である。不確実性を含む最適化問題の定式化は、非確率論的なものと確率論的なものに大別される。ロバスト最適化問題は非確率論的な問題の定式化であり、確率変数を含む制約条件は完全に満たされる必要がある。機会制約問題は確率論的な問題の定式化であり、ロバスト最適化問題の制約条件を確率的に緩和したものである。最適性と信頼性のバランスを充足水準(確率)で指定できるため、不確実性を考慮した電力供給計画や制御系設計のほか、金融機関のリスク管理など、機会制約問題の応用分野は多岐に渡る。 機会制約問題の最適化手法は、確率計画法の分野で長年に渡り研究されてきた。しかし、それらは非線形計画法の最適化手法を用いて機会制約問題の局所的最適解を求めるもので、制約条件を記述する関数の凸性や微分可能性などの仮定を必要とする。また、単純な線形の制約条件である場合を除き、制約条件が満たされる確率を計算負荷の大きなモンテカルロ法で求める必要がある。近年、遺伝アルゴリズムのような進化計算に基づく機会制約問題の最適化手法も報告されているが、モンテカルロ法による確率の計算は必要である。 本研究では、モンテカルロ法を必要としない進化計算に基づく機会制約問題の最適化手法を開発する。機会問題に含まれる不確実な関数値の累積分布関数(CDF)が分かれば、上記の確率の計算は不要となる。しかし、現実的な機会制約問題では、CDFを解析的に求めることができない。本年度は、標本からCDFの近似関数を構築する計算統計学の手法である経験分布(ECDF)を拡張した「重み付き経験分布(WECDF)」を考案した。また、進化計算の1種である差分進化とWCDFを組合せた最適化手法を実装し、任意の充足水準で制約条件を満たす実行可能解が得られることをテスト問題で確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
重み付き経験分布(WECDF)と差分進化を組合せた最適化手法の有効性を、幾つかの機会制約問題で確認することができた。また、WECDFの構築法を以下の2点で更に改良することができた。まず、一様分布に代わり超一様分布列(Halton列)を用いることで、累積分布関数(CDF)の近似関数であるWECDFをより少ない標本で構築し、WECDFに基づく分位点の推定精度を高めることができた。次に、機会制約問題の不確実性を表現する複数の確率変数間の相関関係を考慮したWECDFの構築法を新たに考案した。具体的には、本来の確率変数の分布範囲と相関行列から一様分布の共分散行列を定義し、それをCholesky分解した三角行列に基づき、本来の確率変数と同じ相関関係を持つ一様分布の標本を生成した。 機会制約問題は、個別機会制約問題と同時機会制約問題に大別できる。差分進化とWECDFを組合せた最適化手法は、個別機会制約問題には直接適用できるが、CDFを用いて記述できない同時機会制約問題には適用できなかった。そこで、Bonferroniの不等式に基づき、同時機会制約問題に含まれる同時確率を複数の独立な確率で表現した。さらに、それらの確率を個別にWECDFで推定することで、上記の最適化手法を同時機会制約問題にも適用可能とした。さらに、その手法の有効性を同時機会制約問題の簡単な例題で確認した。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画に従い以下の2項目の課題に取り組む。 1.最適化手法の改良:差分進化を含む進化計算は、制約条件のない最適化問題を対象とした最適化手法である。また、進化計算の探索性能は、制御パラメータに左右させる。このため、進化計算の分野では、制約条件の取扱法や、制御パラメータの適応的な調整法が活発に研究されている。それらの技法の有効性を評価して、機会制約問題に対する最適化手法に取り入れる。また、機会制約問題に固有の特性を考慮した独自の改良も行う。 2.実問題への応用: 携帯電話など移動体通信機器のRF回路のキーデバイスである表面弾性波(SAW)フィルタの電極構造設計を機会制約問題として定式化し、差分進化とWCDFを組合せた最適化手法を適用する。機会制約問題の定式化では、温度変化によるSAWフィルタの物理パラメータの変動や、電極の加工誤差を考える。また、個別機会制約と同時機会制約の両方を含む問題の定式化や、その最適化手法についても検討する。
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Causes of Carryover |
少額のため次年度の助成金と合わせて学会参加の旅費に使用する。
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