2018 Fiscal Year Research-status Report
不飽和粘土の水分および密度評価を目的とした超音波トモグラフィー技術の開発
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17K06534
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
木本 和志 岡山大学, 環境生命科学研究科, 准教授 (30323827)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 粘土 / ベントナイト / 弾性波 / 水分量 / 群速度 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度は、以下の3点での成果が得られた. (1)波形処理の効率化:不飽和粘土試料を使った超音波計測結果から群速度データを得るために必要な一連の波形解析を自動化することで,多数の波形データを一括処理することが可能となった.具体的には,粘土試料および参照試料の情報と波形データを,データベースに登録し,群遅延の計算に必要な情報を波形処理プログラムから直接参照できる形でデータ管理を行う仕組みを整備した.さらに,これまで手作業で設定していた窓関数のパラメータを,ヒルベルト変換による波形ピーク位置検出結果から自動的に設定することで,一切の手作業無く群速度スペクトルを得ることが可能となった.その結果,データ処理の効率化に加え,波形解析パラメータ設定の客観性も担保することができるようになった. (2)群速度データの蓄積:不飽和粘土試料の弾性波速度と,含水比および乾燥密度の関係を詳しく調べるため,含水比15%~25%の試料を新たに50体作成して透過超音波の計測を行った.なお,粘土試料は,作成直後から次第に乾燥して水分量と密度が変化する.このことを利用し,各試験体について時間をおき繰り返し計測することで,試験体を追加で作成することなく,密度と水分量を変化させた試料で透過波形を計測した.その結果これまでに500波形程度の超音波波形データを取得することができた. (3)密度-含水比空間における群速度曲面の推定:これまでに計測した全ての波形データを同一条件で処理して得られた群速度データを回帰分析することで,群速度と粘土試料の乾燥密度および含水比との関係を調べた.その結果,含水比が一定の場合,群速度は乾燥密度が高いほど一貫して大きな値をとることが分かった.一方,乾燥密度が一定の場合,縦波速度は含水比と正の相関があるものの,横波群速度は水分量の影響をほとんど受けないことが明らかとなった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度までの研究において,密度と水分量をコントロールした不飽和粘土試料を作成し,縦波および横波透過波の計測を再現性をもって行うことのできる実験装置と手順を構築することができた.また,大量の計測波形と試料情報を一括管理して効率よく波形解析を行うための,一連のデータ処理プログラムも作成済みとなった.その結果として,これまでに順調に透過超音波波形データと縦波および横波群速度のデータを蓄積することができ,本課題の研究期間中に十分な量と質のデータを取得できる見通しが得られた.なお,現時点で得られた波形データはすでに波形解析を終えており,水分量および密度と群速度の関係を,定量的に分析することが可能であることを示す結果が得られている.以上の成果は,本研究の最終的な目標である超音波トモグラフィーによる密度および水分量マッピングを実現する際の重要なバックデータとなるだけでなく,密度と水分が弾性波速度に与える影響を分離して示した初めてのデータという点でも学術的な意義をもつ.以上の事から,本研究は概ね順調に進展していると判断する.
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Strategy for Future Research Activity |
来年度は,以下3点について研究を行う. (1)不飽和粘土-珪砂混合系での超音波計測:これまでの研究では,純粋なスメクタイト粘土からなる粘土試料を用いて実験を行ってきた.しかしながら,天然の粘土や廃棄物処分場の遮水材用いられる建設材料としての粘土は,通常,粘土と石英等の鉱物の混合系となっている.この点に配慮して最終年度は,スメクタイトと珪砂の混合系で不飽和粘土試料を作成し,透過波計測と群速度の推定を行う.推定結果を用いて弾性波速度と密度,含水比の関係を調べ,特に,締固めによる異方性の程度,縦波と横波の比について,純粋なスメクタイトを試料作製に用いた場合との違いを明らかにする. (2)非均質不飽和粘土試料の作成と超音波計測:乾燥密度と水分量が不均一な試料を意図的に作成し,計測位置によって異なる密度と水分量を推定することが可能かどうかを明らかにする.特に,密度,水分量が急変する部位が,弾性波によってどの程度正確に検出できるかを調べる.この目的に用いる非均質試料は,含水比の異なる複数の粘土粉末を段階的にモールドへ投入して締め固めることで作成する.また,作成した試料の一部は,温度湿度を制御したチャンバーに保管して一定の状態を保ち,残りの試料は室温で緩やかに乾燥させて状態を変化させる.それぞれの試料は,一定の時間間隔て繰り返し超音波計測を行い,試料の物性が時間的に変化する様子を超音波によってモニタリングすることを試みる. (3)群速度トモグラフに基づく超音波イメージング:非均質な不飽和粘土試料で得られたすべての波形データを統合し,密度および水分量が急変する試料の部位を可視化する技術を開発する.これにより,粘土試料内部の水分と密度の状態とその推移を,画像ベースで非破壊的に調べることのできる超音波トモグラフィー手法を開発する.
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Causes of Carryover |
当初計画では,強い超音波を粘土試料へ入射することを目的とした接触型収束探触子の購入を予定していた.この探触子は特注品で,比較的高額(35万円程度)かつ納期も3か月程度を要することが,探触子メーカーとの打ち合わせにより明らかとなった.そのため,探触子の仕様を慎重に検討し2018年10月に発注を行ったが,受注した探触子メーカーが実際に作成した製品は,所定の性能要件を満たすことができないものであった.しかしながら,再作成の場合年度内の納品は不可能であり,また仕様も再検討する必要があるとの判断をするに至った.仕様の再検討には予備実験とメーカーが側との追加打合せが必要なことから,結果的に年度内に購入が間に合わず,探触子購入費用を翌年に繰越し、2019年度にあらためて設計、発注を行う必要が生じた.
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Research Products
(2 results)