2018 Fiscal Year Research-status Report
寒冷地特有の斜面崩壊メカニズムを考慮した新しいのり面保護工の提案と効果検証
Project/Area Number |
17K06550
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Research Institution | Kitami Institute of Technology |
Principal Investigator |
川口 貴之 北見工業大学, 工学部, 准教授 (20310964)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中村 大 北見工業大学, 工学部, 准教授 (90301978)
川尻 峻三 北見工業大学, 工学部, 助教 (80621680)
渡邊 達也 北見工業大学, 工学部, 助教 (80636168)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 寒冷地 / 斜面安定 / 排水パイプ / ジオセル |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,北海道のような積雪寒冷環境下にある道路脇斜面で多発する春先の表層崩壊を軽減することを主な目的として開発したのり面保護工に関する研究を実施している。本のり面保護工は凍土域を貫いて打設する排水パイプと,砕石を中詰め材としたジオセルを組み合わせたものであり,実物大実験などを通じて降雨や融雪期における効果検証を行って改善策を検討しながら,設計や工法選定の方法を確立し,広く発信することを目的としている。 研究機関の二年目にあたる平成30年度については,第一に北海道東部の美幌町にある採土場内の一部に腹づけ盛土して構築した実物大実験斜面については,意図的に除雪環境下とした平成29年冬から平成30年春の期間における計測結果を精査し,主にのり面表層が凍結した際のパイプの排水能力について検討した。第二に北海道東部の北見市内にある旧競馬場跡地を活用したオホーツク地域創生研究パーク内の建設残土を切土整形した実物大実験斜面については,不織布の有無,中詰め材の種類,植生やネット等を変化させたケースの計測結果を精査した。また,天端にトレンチを設けて湧水環境を模擬したケースについては,主に併設した特殊ふとんかご工との斜面内水位の違いについて検討した。さらに,切土斜面への適用も踏まえて,本のり面保護工全体を天端から吊り下げ,保護工がのり面上で滑動する力を計測するためのケースを新たに施工した。 以上の結果から,のり面表層が凍結した方が融雪期の排水量が多くなることや,のり面の凍結状況やのり面の土質によっては,最大で融雪水や降雨量の1割程度も排水されていること,更には特殊ふとんかご工との間で最大1.5m以上もの水位差が生じていることなど,本のり面保護工の性能に関する数多くの知見が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度である平成29年度では,主に採土場内に構築した既存盛土について,排水パイプに期待している降雨後や融雪期の土中水分量の低下について確認するとともに,オホーツク地域創生研究パーク内の建設残土を切土整形した実物大実験斜面を構築し,ここに水位低下能力を検証するために特殊ふとんかご工と併設して構築したケースや,不織布の有無,中詰め材の種類,被覆するための植生やネット等を変化させた様々なケースを構築した。 そして,二年目である平成30年度では,上述したように美幌町内の盛土斜面に関しては,のり面上の積雪を定期的に排除することで,表層の凍結深を意図的に大きくした際の計測結果を精査して,のり面表層が凍結している方が融雪期におけるパイプからの排水量が多くなることが明らかとなった。一方,北見市内のオホーツク地域創生研究パーク内に構築した様々なケースからは,不織布を設置することで降雨が盛土内に浸透することを抑制する効果がある一方で,水理境界ができることで背面の侵食が進行するリスクがあることや,セル高が小さすぎると,砕石が沈下することでセルが浮き上がることなどが分かった。また,併設した特殊ふとんかごとの水位差が明確になり,最大で1.5m以上の水位差が生じることが明らかとなった。他に,先述の美幌町の試験盛土との比較から降雨や融雪によるパイプからの排水にはのり面表層の透水係数が大きく関与している可能性が高いことが明らかとなった。さらに,新たに構築したのり面保護工の滑動力を計測することを目的としたケースからは,施工時からの計測によって比較的に摩擦角が大きく,天端部分のセルのみアンカーピンを設置するだけで,のり面上にアンカーピンを打設しなくても良い可能性が明らかとなった。このような結果を踏まえ,おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度である平成31年度では,これまでに美幌町と北見市内に構築した実物大実験斜面については,計測を続けるとともに,計測結果を整理して本のり面保護工の降雨・融雪期の水位低下能力や水分量低下能力について定量的にまとめたいと考えている。特に,両斜面を構成する土質は異なっており,北見市内にあるオホーツク地域創生研究パーク内の実部大実験斜面の方が細粒分が多い。また,美幌町の盛土斜面は細粒分が少ないものの,のり面表層が凍結した際にはパイプからの排水量が多くなった。これらのことは,のり面表層の透水性がある程度低いほど,排水能力が高くなると考えられるが,当然ながらあまりに低くなると排水性が低下することが予想され,最適な土質やそれに応じた打設本数があると考えられる。よって,室内でも模型試験の実施も検討し,それらの結果によって最適な打設本数(密度)について検討したいと考えている。 また,特殊ふとんかご工との水位比較に関する計測結果からは,排水パイプの打設による水位低減効果を二次元浸透流解析によって再現し,その結果から1本当たりの排水能力を明確にし,斜面崩壊に関する安全率を向上させる効果についても明確にしたいと考えている。 さらには,不織布の有無,最適なセル高・セルサイズ,ネットや植生などの表面工に関する最適解についても,これまでの計測結果を踏まえて提示したいと考えている。また,施工に関しても滑動力の計測結果から,斜面角などに応じて必要なアンカーピンの本数を算出し,可能な限りのり面上にアンカーピンを打設しなくても良い施工方法を提案したいと考えている。そして,以上の成果をわかりやすくまとめ,学術雑誌などにおいて広く発信したいと考えている。
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