2020 Fiscal Year Research-status Report
分光光度計測に基づく河川水中の有機物と栄養塩の総合モニタリング手法の開発
Project/Area Number |
17K06571
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
木内 豪 東京工業大学, 環境・社会理工学院, 教授 (00355835)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 紫外可視分光光度計 / 河川水質 / 栄養塩 / 有機物 / 浮遊物質 / 吸光度スペクトル / 統計回帰モデル / ANNモデル |
Outline of Annual Research Achievements |
河川等における有機物や栄養塩等の水質計測・モニタリングには定期的採水等に基づく室内分析や現場設置型の自動分析装置が用いられてきたが、前者は多大な労力を要するにもかかわらず現象の動的変動特性が十分に把握できず、また、後者は装置の設置・維持に多大な費用がかかるため多項目の総合的計測が困難という課題があった。そこで、本研究では、近年、小型化が進み現場利用が可能となってきた分光測定技術を活用して、高時間解像度で精度よく河川水中の有機物、リン、窒素の濃度をモニタリングする新たな水質計測・定量化手法の確立を目指す。 2020年度においては、昨年度同様、携帯型紫外可視分光光度計による吸光度スペクトルの現地計測データと有機物・リン・窒素・浮遊物質に関する水質分析の結果を行いて、洪水時・平常時の河川の硝酸態窒素(NO3-N)、総窒素(TN)、化学的酸素要求量(COD)、総リン(TP)、懸濁態リン(PP)及び浮遊物質(SS)の濃度推定手法について検討を進めた。濃度推定手法としては、これまでの検討で有効性が認められた主成分回帰法(PCR)、部分最小二乗法(PLSR)、部分最小二乗法(PLSR)及びANN法について検討を進めた。 これらの検討の結果、NO3-NとCODについては、PLSRおよび波長選択型のPLSRのいずれも予測精度に優れていることがわかった。また、TN、TP、PPの予測においては波長選択型のPLSRの方が全波長を用いるPLSRよりも優れていた。TP、PP、SSは、隠れ層の無いANNモデルを用いることにより、他のモデルよりも高い精度で濃度推定ができることが示された一方で、NO3-N、TN、CODの場合はパラメータの過学習に伴う予測精度の低下が見られた。さらに、本手法を塩分濃度の高い汽水域に応用できるかどうかについても検討を行い、窒素計測における応用可能性を示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度までに有効性を確認できたモデルについてさらに精度検証を進めた結果、複数のモデルを組み合わせることで、モデルの学習データが少ない場合でも、有機物・栄養塩・浮遊土砂の濃度を比較的高い精度で推定できることが示された。また、汽水域への適用可能性も示唆された。以上のことから、おおむね本研究の目的が順調に達成されてきていると判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの本研究の取り組みにより、学習データの少ない場合でも精度よく有機物・栄養塩・浮遊土砂の濃度を推定する手法が提案された。一方で、室内実験で取得された吸光スペクトルデータをモデル学習に利用して更なる精度向上とモデル簡便化を図る余地が残されていることから、この点について残された期間で検討を行う。最後に、これまでの検討成果をとりまとめ、分光光度計測に基づく河川水中の有機物と栄養塩の総合モニタリング手法を提案する。
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Causes of Carryover |
本研究では分光光度計測に基づく河川水質のモニタリング手法について検討を行っている。水質特性は河川ごとに異なることから、予測モデルの精度を確保するにはモデル学習データを多数用意する必要があり、このことが本技術の実務利用を妨げる要因であると考えられる。2020年度はコロナ禍の影響によって大学内外における研究活動に多くの制約が発生したことから、2021年度には、これまで取得した基礎的データをフルに活用しながらより少ない学習データでより高い推定精度を得られるモデルの検討費用に次年度使用額を充てることとした。さらには、2021年度には、得られた成果をまとめて学会や論文で発表する予定であり、これらの活動のための経費としても次年度使用額を充当する。以上により本補助事業の目的をより精緻に達成する。
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