2017 Fiscal Year Research-status Report
Study on the Flood Control Adaptation Measure Using Flood Retarding Basins
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17K06581
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Research Institution | Saga University |
Principal Investigator |
押川 英夫 佐賀大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (80311851)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ダム / 洪水制御 |
Outline of Annual Research Achievements |
従来のダム群による治水の考え方は,直列に配置されている場合であっても個々のダムで計画高水流量を定め,それぞれのダムが非常用洪水吐きから越流しないように洪水処理を行うものである(以後,従来型と呼ぶ).本研究では,直列配置された複数のダムにおいて,上流側のダムの非常用洪水吐きからの越流を許容するカスケード型洪水制御方式の実河川における洪水制御効果を検討した.ここでは,筑後川本川に位置する松原ダムとその上流支川の津江川に位置する下筌ダム付近において,カスケード型の洪水制御効果を従来型との比較を通して検討した. まず,従来型の洪水制御に基づいて,2つのダムが越流しない限界の計画高水流量Qa(各ダムの下流河道の許容流量)と基本高水流量Qpを以下のように求めた.下流側に位置する松原ダムのQa2は実際の計画高水流量と同じ1100m3/sとしている.松原ダムのQa2を固定し,上流端に流入する洪水のハイドログラフの形(洪水の継続時間に相当)を一定とする条件の下で,Qpおよび下筌ダムの計画高水流量Qa1を独立に変えることで,下筌ダムと松原ダムからの放流量が最大(計画高水流量)となる時に各ダムが満水となる条件を求めた.その結果,Qp=6339m3/s,Qa1=1996m3/sが得られた. 次に,カスケード型として,上流側の下筌ダムからの越流は許容した上で,松原ダムから越流しない限界までQpを大きくした.その結果,Qp=8227m3/sが得られ,従来型のQp=6339m3/sと比較して,カスケード型では29.8%大きな超過洪水まで制御可能となることが分かった. 本研究により,複数のダムが直列に配置された場合,カスケード方式を採用することでダム群全体としての洪水制御能力が顕著に強化されることが,下筌ダムと松原ダムを有する実河川の筑後川上流部において示された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度は,任意かつ容易に条件設定が可能な数値シミュレーションを利用して,北部九州を流れる1級河川の筑後川を対象にしたカスケード方式のケース・スタディを実施した.筑後川の上流部では,支川の津江川に位置する下筌ダムと本川の松原ダム区間でダムが直列配置されていることから,これらの既存ダムにカスケード方式を採用した場合の洪水制御効果を明らかにした.また,現在までの所,筑後川流域には流水型ダムがないことから,下筌ダムと松原ダムが仮想的に流水型ダムであった場合のカスケード方式の洪水制御効果についても,同様な数値シミュレーションにより明らかにしている. したがって,本研究は概ね順調に進捗しているものと考えられる.
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Strategy for Future Research Activity |
今年度からは,平成29年度に作成した数値シミュレーションモデルを利用して,嘉瀬川流域を対象にしたカスケード方式のケース・スタディを実施する.嘉瀬川には流域の上流部に北山ダム,中流部に嘉瀬川ダムがあるため,カスケード方式の適用が期待できる.嘉瀬川における現在の治水能力を評価するとともに,複数のダムを連携運用した場合についても従来型とカスケード型それぞれの検討を行って,下流側の主要地点のハイドログラフを比較することで,カスケード方式の洪水制御効果を数値計算により明らかにする.また,嘉瀬川流域あるいは筑後川流域を対象として,d4PDF等の将来降雨を用いることで,地球温暖化に向けた治水適応策(超過洪水対策)としてのカスケード方式の洪水制御効果についても検討を行う.さらに,孤立波などを用いて流水型ダムの洪水制御効果を実験的に検討する.
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Causes of Carryover |
地形や流量などのデジタルデータの購入を想定していたものの行政機関等から無償で得られたこと,現地調査や解析結果のデータ整理の際に学生アルバイトを雇用する予定であったが同僚の技術職員による業務としての協力が得られたこと,東京で行われた学会での成果発表を予定していたものの九州内の近郊で行われた学会での成果発表に変更したこと,平成30年度から実施予定の室内実験用の実験装置の準備等を平成29年度から始める予定であったものの協力業者の都合もあり出来なかったことなどから,余剰金が生じた. 余剰金を含めた次年度の研究費は,物品費,旅費,人件費・謝金,その他の各項目で使用する.特に,平成30年度からは室内実験を並行して行うことから,平成29年度に使用しなかった分も含めて実験装置の製作・準備・測定等に比較的多くの研究経費を使用することになる.
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