2018 Fiscal Year Research-status Report
高齢者の転倒防止のための生活動作時における注視特性と環境条件との関係に関する研究
Project/Area Number |
17K06676
|
Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
梅宮 典子 大阪市立大学, 大学院工学研究科, 教授 (90263102)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 高齢者 / 転倒 / 事故 / 歩行 / 照明 / 光環境評価 / 瞳孔径 / 注視特性 |
Outline of Annual Research Achievements |
1)廊下歩行時における注視特性の分類と注視特性に関係する要因 高齢者41人と大学生32人を対象に、廊下歩行時における注視点分布を測定し、注視点分布特性と視力、筋力、歩行所要時間、2ステップ値(最大の大股で歩いたときの2歩の歩幅を身長で除した値で、低いほど転倒しやすい)などとの関係を分析した結果、①注視特性は、注視点が主に1エリアに分布するG1、2エリアに分布するG2、3~4エリアに分布するG3、5以上のエリアに分散するG4に分類できる。②高齢者のG2は、視力、握力、2ステップ値のいずれも最も低く、まぶしさに鈍感なほど2ステップ値が低い、高齢者のG3は、2ステップ値が最も高い、大学生のG2は視力が低い、大学生のG3は握力が低く歩行所要時間が長い。大学生の2ステップ値は注視特性と関係しない、などのことを明らかにした。 2)廊下歩行時における瞳孔径の変化特性と光環境評価 高齢者13人と大学生15人を対象に、廊下歩行時における顔面照度と瞳孔径を測定し分析した結果、①瞳孔径の平均値は、大学生がほぼ3.5~4.5mm、高齢者は2.5~4.5mmに分布する、②顔面照度に対する瞳孔径の変化率が-0.4より小さい割合は、大学生28%、高齢者53%であり、高齢者のほうが顔面照度と瞳孔径の関係が強い、③明環境(3300lux)と暗環境(600lux)の評価と顔面照度に対する瞳孔径の変化率は、a)高齢者、大学生とも明るさ評価と関係がなく、b)明環境では、ア)高齢者、大学生とも光環境の好悪と関係がない、イ)高齢者ははかどらないと評価するほうが大きいが、大学生は作業性の評価と関係がない、c)暗環境では、ア)高齢者、大学生とも作業性の評価と関係がない、イ)高齢者、大学生ともまぶしさを感じないほうが大きい、ウ)高齢者は光環境の好悪と関係がないが大学生は暗環境を好むほうが大きい、などのことを明らかにした。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の進捗状況としては、本課題によって購入した視線追跡装置において、1秒間に測定・記録できる画像数が一定でなく、画像と同時に記録した顔面照度との対応づけが困難である、頭の小さい被験者や、頭部が左右対称でなく、後頭部が垂直に近く平らである、などの被験者では、頭部にベルトで固定した視線追跡装置が歩行中にずり落ちて、注視点を正確に測定できない、また高齢者に特有の眼瞼下垂によって、一時的に瞳孔の抽出が不可能となる場合がある、睫毛が奥に生えていたり長く直毛である被験者では睫毛を瞳孔として誤って抽出する場合がある、などの不具合がみつかった。しかしながら装置の開発業者の協力を得て試行錯誤しながらひとつずつ解決して、測定に習熟し、質の高いデータを収集できるようになってきた。 また、高齢者は個人差が大きいため、募集の際に注意が必要であるが、被験者の募集においても工夫を重ねることによって、順調に高齢の被験者を集め、当初予定していた以上に被験者数を確保できている。なお対照群としての若齢者については、被験者の募集が比較的容易であり、測定においても問題が起きにくいため、予定通り順調に確保できている。 分析においては、注視特性、すなわち視野における注視点の出現状況によって被験者を分類し、分類ごとに転倒危険性の指標である2ステップ値や、明るさ感、まぶしさ感の感度との関係を分析して、高齢者と若齢者の違いを見出すことができており、3年目の分析に向けた方向性が決まりつつある。 また30年度は、研究の成果を国内だけでなく国際学会に発表することもできており、今後も発表する予定もある。 以上より、データの収集、結果の分析、および成果の発表状況において、本研究課題は当初の予定と比べておおむね順調に進捗していると判断できる。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後のデータの収集に関しては、若齢者と比較して、条件に適した高齢の被験者を集中して集めることは容易ではなく、また実験装置の都合から1日に2人から3人の実験しかできないことから、今後も少しずつコンスタントに実験を継続して、実験データの充実を図る予定である。そのため、実験を遂行するための被験者負担軽減費や謝金を3年目にも確保することとしている。 今後の分析においては、これまでの分析から得られた方向性にしたがって、注視特性について詳細に検討をすすめる。今後は、複数のエリアに分割した視野における注視点の集中エリアに関して、集中するエリアの数だけでなく、注視点が出現するエリアの位置関係に関しても考慮する。例えば注視エリアが上下に分布する傾向や左右に分布する傾向など、も考慮した注視特性と、被験者の視力、握力、光環境評価との関係について分析する。 歩行実験に使用する廊下は中廊下であり、全般的に暗く、天井の照明が間引きされているため明るさにむらがある。一方で、外光に面する部分は1000ルクスを超える照度が得られることもある。照明環境と注視特性との関係は本研究課題の分析の主要なテーマであり、顔面照度や床面照度と注視特性との関係について、詳細に検討する予定である。 また、これまでは廊下歩行時のデータのみを分析していたが、廊下を歩行する前後の実験室内や実験室から廊下に出るときの靴の履き替えやドアノブの回転など、障害物が多い条件下における注視点データも分析したいと考えている。 被験者の視力、筋力、日常生活習慣、歩行速度に関しては、注視特性との関係を分析するにあたって、足だけでなく全身の筋肉や関節の状態や、トラブルや持病、薬やサプリメントの影響も考慮する摂取状況について詳細に把握する必要性を感じている。既往研究をもとに質問項目を精査する予定である。
|
Causes of Carryover |
実験に協力していただける高齢者のかたには、実験実施場所である大学まで電車やバスを乗り継いで来ていただけることを条件としている。しかし、条件を満たす高齢者のかたを短期間に集中して集めることは、予想していた以上に困難であった。(一方で、対照群となる若齢の協力者については、知人を通じて条件の揃った大学生を一気に集めることが可能であった)。また、実験は実験室外の廊下を歩行するため、暑さ寒さのストレスの影響がない時期に実施する必要があることから、実施できる期間が限られる。さらに、実験は、被験者の都合だけでなく、外光による明るさのばらつきの影響の分析も意図して、日中に実施しているため、実験のオペレーターや補助者となる学生の授業期間との兼ね合いも考慮する必要がある。 このように、実験を実施できる期間が限定されることから、これらの限られた時期に少しずつ実験を実施することにより、データを充実させたいと考えた。そのため、3年目にも実験を実施できるように、アンケートの謝金や協力者負担軽減費のための予算を確保することにした。
|
Research Products
(5 results)