2019 Fiscal Year Research-status Report
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17K06679
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
三上 功生 日本大学, 生産工学部, 准教授 (80434124)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 脊髄損傷 / 頸髄損傷 / 体温調節障害 / 至適温湿度範囲 / 人工気候室実験 / 環境人間工学 / 温熱環境 / 空気調和設備 |
Outline of Annual Research Achievements |
交通事故や労働災害などにより頸部の脊髄を損傷した頸髄損傷者(以下頸損者)は、ほぼ全身に及ぶ発汗障害、血管運動障害、熱産生障害、温冷感麻痺などの極めて重篤な体温調節障害を有している。研究代表者は長年にわたる人工気候室実験より、標準着衣量0.6cloにおける頸損者の至適温度範囲を24± 1℃(但し、相対湿度50%)と求めたが、同着衣量でのより詳細な頸損者の至適温湿度範囲を明らかにすることを目的とした研究を5年計画(2017~21年)で行っている。。 研究成果は、当事者とその介護者にとって、室内温湿度を調節する際の判断材料となり、また建築設備技術者にとっても、頸損者が使用する可能性のある公共施設などの空調設備を設計する際の資料として利用できる。研究成果は、頸損者のQOL向上に繋がるものと予想している。 本研究では、2017年度に5名の頸損者を人工気候室内で室温22, 24, 26℃(相対湿度50%)に各90分間曝露した。2019年度は、新規の研究協力者(頸損者)4名を2017年度と同環境条件に曝露した。全研究協力者数を10名と設定しているが、2020年3月に予定していた1名の人工気候室実験は、新型コロナウイルス感染症の影響で実施できなかった。この1名の相対湿度50%下での測定は、2020年度内に行う予定である。 9名の頸損者の測定データをみると、室温24, 26℃での口腔温平均値は安定傾向にあったが、室温22℃でのそれは下降傾向にあった。その原因として、交感神経遮断による手足部の血管収縮障害、胴部の非震え熱産生機能の低下が推測された。従って、研究代表者が長年にわたり蓄積してきた測定データも踏まえて、相対湿度50%における頸損者の至適温度範囲を推定すると、23~26℃と考えられる。 なお、全ての実験及びデータ分析は、倫理審査委員会で承認を受けた倫理的及び社会的配慮に順守して行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、日本大学生産工学部38号館学術フロンティア・リサーチセンター内に設置されている人工気候室で、標準着衣量0.6cloの実験用衣服を着た頸損者10名を対象とした被験者実験を行い、その温熱生理心理反応の結果より、頸損者の至適温湿度範囲の検討を行うものである。曝露温湿度条件は1名あたり9条件(室温22℃-相対湿度40, 50, 70%、室温24℃-相対湿度40, 50, 70%、室温26℃-相対湿度40, 50, 70%)で、1温湿度条件あたりの曝露時間は90分間である。 2017年度~2018年度の2年間で、設定した研究協力者数10名のうち、5名の測定を終えることができた(5名の頸損者を前述の9つの環境条件に曝露することができた)。 2019年度は、新規の研究協力者5名を3つの環境条件(室温22, 24, 26℃-相対湿度50%)に曝露する予定であったが、前述の通り、新型コロナウイルス感染症の影響により4名の測定に留まった。 しかし、仮に新型コロナウイルス感染症の影響により、2020年度に実験を行うことが出来なかったとしても、研究期間の最後の年度(2021年度)までに、2019年度の測定を終えた4名の研究協力者を残りの6条件(室温22, 24, 26℃-相対湿度40, 70%)に曝露すること、及び2019年度に測定を行うことが出来なかった1名の研究協力者を、前述の9条件に曝露することは、時間的に可能と判断している。 なお前述の通り、全ての実験及びデータ分析を、倫理審査委員会で承認を受けた倫理的及び社会的配慮に順守して行っており、これまでに有害事象が起こっていないことも、研究がおおむね順調に進展していることを示している。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は、5年の研究期間の4年目に当たる。仮に研究の完了度を100%とした場合、現時点でおおよそ70%が完了したものと判断している。 前述の通り、2019年度に測定を行った4名の研究協力者は6環境条件の、同年度に測定を行うことが出来なかった1名の研究協力者は9環境条件の測定が残されている。これらの測定を2020年度に全て終えることは可能であるが、実験を行う日時は、新型コロナウイルス感染症の国内状況を注視しながら慎重に決定したいと考えている。 当初の計画では、2020年度までに全ての実験を終了し、最終年度(2021年度)は実験結果の整理・考察や論文作成に宛てる予定であった。しかし、新型コロナウイルス感染症の影響により、残りの実験が2年(2020~2021)にまたがって行う可能性があることを想定して、研究を進める必要がある。 研究の途中経過の発表は、これまでと同様に各大会(日本脊髄障害医学会、日本生気象学会、日本人間工学会、人間-生活環境系学会など)で行う予定である。研究が順調に進んだ場合は、研究期間の最終年度(2021年度)に研究成果を論文化し、日本建築学会環境系論文集に投稿したいと考えている。
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Causes of Carryover |
本研究は、医学、生理学、建築学、環境人間工学、建築設備学、建築環境工学、リハビリテーション医学、福祉工学、被服衛生学などの多分野が絡んでいるものと言える。そのため、様々な学協会が主催する学協会大会で、研究の途中成果を毎年発表していきたいと考えている。しかし、当該年度は学務などにより出席した学協会大会数が当初予定していた数よりも少なくなってしまったため(旅費に充当した額が少なかったため)、次年度使用額が生じてしまった。次年度使用額の多くは、様々な学教会が主催する学協会大会に出席するための旅費に充てたいと考えている。
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Remarks |
2019年7月30日(火)の午後8時00分 〜 午後8時30分に放送された、NHK Eテレ ハートネットTV「HEART-NET TIMES 7月」に出演した。 番組内の「この時期気をつけたい熱中症!障害による傾向と対策を千葉リポーターが体当たり報告」のコーナーの中で、環境人間工学の立場から、車いすユーザーの熱中症の危険性や、温熱環境のバリアフリーの必要性などについて解説した。
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