2017 Fiscal Year Research-status Report
SPM、PM2.5中微生物濃度とエンドトキシン量に基づく曝露リスクの推定
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17K06688
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Research Institution | University of Occupational and Environmental Health, Japan |
Principal Investigator |
石松 維世 産業医科大学, 産業保健学部, 准教授 (40289591)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | PM2.5 / SPM / 総粉じん / 浮遊細菌数濃度 / エンドトキシン / 実験プロトコール |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は、総粉じん、PM2.5、SPM中の微生物濃度とエンドトキシン(ET)濃度を、1つの試料で測定するための回収条件とETの測定条件を検討した。 浮遊微生物の捕集に使用する滅菌メンブランフィルター3種からの低ETのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)への回収液は、測定時間120分の間にはゲル化せず、また回収液に添加した既知量ETも回収されたため、各フィルターからのET値への影響はないことが認められた。次に、捕集フィルターからの微生物回収に使用するポリプロピレン(PP)チューブ、ポリスチレン(PS)チューブでET標準試料の希釈系列を調整しET濃度を測定したところ、ETに対する感度はPPよりPSの方が高く、調整濃度に対しPPは24.5±5.1%、PSは62.3±7.2%の濃度となった。これより、試薬添付の検量線は使えず、使用する素材ごとの検量線が必要であることがわかった。また、微生物回収液を冷蔵あるいは冷凍保存したところ、いずれの素材も3日後にはET濃度の低下が見られ、ET濃度は微生物回収当日に測定すべきということがわかった。 予定した3か所(会議室、実習室、屋外)で捕集した総粉じん、PM2.5、SPMから、PBSに微生物を回収しET濃度を測定する条件を検討した。捕集は毎月行い、総粉じんとPM2.5について、従来行ってきたPBS 10 mL中に微生物を回収する条件でET濃度を測定したが、11月以降にET濃度が低下する傾向がみられ、特にPM2.5中のET濃度は測定時間120分では測定できなくなってきた。そのため、浮遊微生物濃度算出に必要な回収液量を考慮しながらPBS量を見直し、添加するPBS量は、総粉じん10 mL、PM2.5 5 mL、SPM 8 mLとし、浮遊微生物濃度測定にはそれぞれ2 mL、4 mL、6 mLを使用し、残りをET測定に使用するプロトコールを決定した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度の目標は、総粉じん、PM2.5、SPM中の微生物濃度とエンドトキシン(ET)濃度を、1つの試料で測定するための捕集条件や回収条件、ETの測定条件を検討することであった。そのためには、予定したET測定装置(トキシノメーター ET-mini)の購入時期が問題であったが、5月中旬に購入できた。これにより、研究期間の早期から、浮遊微生物の捕集やET濃度の測定に使用する器具がET値にもたらす影響を調べ、対応策を検討することができた。その結果、浮遊微生物捕集用フィルターからのET値への影響はなく、また実験設備や実験の性格上メーカーが推奨するガラス器具の使用が難しいことから、ポリプロピレン(PP)やポリスチレン(PS)製のディスポ製品を使用せざるを得なかったが、これらの使用時に生じる問題点や、その解決策などを検討する時間を比較的十分にとることができた。また、ET濃度測定については、不明な点はその都度メーカーの担当者に問い合わせ確認しながら行うことができた。 本研究ではガラス器具の使用ができないため、ET測定試薬に付属する検量線は使えず、素材ごとの検量線が必要であることがわかり、この問題への対応も比較的順当にできた。使用するディスポ製品素材については、ETへの感度はPP製よりPS製の方がよく、またどちらの素材においても微生物回収液の保存はET値を低下させるため行うべきでないということが、実験により判明した。また微生物濃度とET濃度を同時に測定するために必要十分なPBS量の決定が大きな問題となったが、実試料による検討で微生物回収のために添加するPBS量と浮遊微生物濃度測定に使用するPBS量を決定でき、初年度中に粒径別浮遊微生物捕集からET測定までのプロトコールを決定することができたことが、今年度の一番の成果であった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は、当初の計画に従い2週間に1回の粒径別浮遊微生物の捕集を実施する予定であり、すでに3月から測定を開始している。捕集した総粉じん、PM2.5、SPMの試料から、前年度に決定した測定プロトコールに従い、浮遊微生物の菌数濃度(cells/m3)と気中のET濃度(EU/m3)を測定する。黄砂の飛来は福岡県防災情報と気象庁のHPより予報を得る。PM2.5の濃度は、最も近い江川観測点の月報を結果の解析に利用する。測定日の浮遊粉じん濃度の変動については、季節の特徴を考え、数か月おきにデジタル粉じん計を使用してモニタリングする予定である。 毎月2回の測定となるため、実験のための時間配分が重要であり、必要な場合には学生アルバイトなどを雇用して欠測にならないようにしていく。また実習が実施される曜日には測定できないため、黄砂が飛来する日に合わせての測定が難しいときもあると予想されるが、平成29年度の測定で測定日の前日や前々日に黄砂の飛来があれば、浮遊微生物濃度にはその影響が反映されることが認められているため、黄砂飛来日に測定できなくても傾向をつかむことは可能と考えている。 隔週で得られた浮遊微生物濃度とET濃度の情報は、総粉じんとPM2.5またはSPMとの関係性、微生物濃度とET濃度との関係性、季節的な変動の考察、I/O比による発生源の推定などを行っていく。また、気中ET濃度から、室内滞在時間や粒子径などから在室者が曝露される、あるいは吸入により体内に取り込まれる量の推定を行い、ETの曝露リスクを推定するための基礎的データの蓄積を図る。
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Causes of Carryover |
平成29年度計画は、エンドトキシン測定装置と試薬や実験用消耗品等を購入し、浮遊微生物捕集を行いつつ微生物とエンドトキシン測定と実験プロトコールの作成を計画していた。浮遊微生物濃度測定には大きな問題はなかったが、エンドトキシン測定プロトコールを検討するために、当初の計画を修正しながらエンドトキシン測定用試薬やエンドトキシンフリー消耗品等を購入し実験を進めていたため、繰越金が生じた。 平成30年度は、週2回の測定を実施するために、この繰越金を含めた予算で測定試薬や不足しているサンプラーを購入し、最終的なデータ解析に必要な浮遊微生物濃度とエンドトキシン濃度の測定データを得ていく予定である。
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