2018 Fiscal Year Research-status Report
SPM、PM2.5中微生物濃度とエンドトキシン量に基づく曝露リスクの推定
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17K06688
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Research Institution | University of Occupational and Environmental Health, Japan |
Principal Investigator |
石松 維世 産業医科大学, 産業保健学部, 准教授 (40289591)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | エンドトキシン濃度 / PM2.5 / SPM10 / 総粉じん / 浮遊細菌濃度 / 室内環境 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度は、前年度に検討した総粉じん、SPM10、PM2.5をろ過捕集したフィルターから細菌菌数濃度(cells/m3)とエンドトキシン(ET)濃度(EU/m3)それぞれを測定するために決定したプロトコルに基づき、当初計画した3か所(会議室、実習室、屋外)において2018年4月から2019年3月に隔週で定期測定を実施した。さらに、粒径別に生菌の捕集ができるアンダーセンサンプラーを用いて、ろ過捕集中に浮遊細菌生菌数濃度(cfu/m3)も測定し、浮遊細菌の菌数濃度および生菌数濃度と気中ET濃度の変動と関連性について調べた。 屋外のET濃度は、総粉じん、SPM10、PM2.5ともにほぼ測定できたが、室内においては、SPM10やPM2.5中のET濃度が定量下限濃度(0.003 EU/mL)を下回ることや、ブランク(未使用の滅菌フィルター)と同様、検出されないことが多かった。 室内外濃度比(I/O比)は、浮遊細菌では両室内のPM2.5中菌数濃度が1を超えることが複数回あったが、ET濃度はどの粒子中でもほとんど1を超えなかった。 浮遊細菌菌数濃度とET濃度について、1年間の全データを用いて解析すると、いずれの粒子、いずれの測定場所においても両者の間の相関性が低い傾向となり、黄砂などの季節的な影響が見えにくくなった。そこで、気温が高く黄砂の影響を受けることが多い4月~9月と気温が低くなる10月~3月に分けて解析を行った。その結果、両室内のPM2.5中細菌菌数濃度とET濃度とに4月~9月は正の相関性が認められたが、10月~3月はなかった。屋外では4月~9月の総粉じんとSPM10で菌数濃度とET濃度に正の相関傾向が見られたが、10月~3月ではSPM10のみに正の相関傾向が見られた。このように時期により相関傾向が異なったことから、浮遊細菌の構成が年間で変化していることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度の検討により決定した、フィルターより回収した同一の試料から菌数濃度とエンドトキシン(ET)濃度を測定するプロトコルについて、実際に捕集した試料を測定しながら回収液量と菌数濃度測定のための臭化エチジウム染色に使用する液量を修正した。この修正プロトコルに従い、総粉じん、SPM10、PM2.5回収液中のET濃度と細菌菌数濃度を同じ試料で概ね測定することができている。室内のSPM10やPM2.5中のET濃度が定量下限濃度(0.003 EU/mL)未満の場合もあるが、プロトコルを統一しているため、一定の条件下での結果として比較はできている。 その結果、総粉じん、SPM10、PM2.5中の浮遊細菌濃度とET濃度については、測定場所別に見た両者の相関性やそれぞれの濃度の経時変化、発生源を推察するためのI/O比の算出など、解析は進んでいる。さらに、ET濃度(EU/mL)を標準ETであるLPS濃度(ng/mL)に換算する検量線も作成できたため、文献においてLPS濃度で記載されているデータとも比較できるようになった。 一方、当初の計画では、浮遊細菌濃度とET濃度に加え、浮遊真菌濃度測定およびデジタル粉じん計による浮遊粉じん濃度測定を実施し、経時変化とともに浮遊細菌濃度やET濃度との関連性などを見る予定であった。浮遊真菌濃度は、2018年4月~2019年3月に細菌濃度やET濃度とともに測定しておりデータは得られている。浮遊粉じん濃度については、2018年8月下旬よりサンプリング時にデジタル粉じん計での測定を実施しており、PM2.5については近隣の江川観測局のデータを得ている。しかし、これらについてはまだ解析ができていないため、2019年度も継続する。
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Strategy for Future Research Activity |
2018年度の隔週捕集により、各粒子別の浮遊細菌菌数濃度とET濃度の大まかな傾向がつかめたため、2019年度は捕集頻度を4週間に1回とし、2018年度に得られた経時的変化等の傾向を追試する。また2018年度のデータから、黄砂が飛来した時には屋外の総粉じん中ET濃度が高くなることが認められたことから、2019年度でも黄砂の飛来が予測される時には、できるだけ捕集を実施する予定である。 これまでにデータを採取した各粒子中の真菌菌数濃度(cells/m3)やデジタル粉じん計で測定した浮遊粉じん濃度のデータ、江川観測局のPM2.5濃度(μg/m3)データについても、ET濃度(EU/m3)との関連性を検討する。 また、測定キットで得られるエンドトキシン(ET)濃度(EU/mL)と標準ET濃度(LPS濃度;ng/mL)間の検量線を用いて、各粒子中のET濃度(EU/m3)をLPS濃度(ng/m3)に換算し、文献調査により得られた動物実験データや室内環境測定データとの比較を行う。さらに、ET曝露による健康影響についての文献を検索し、これらを参考にしながら、本室内におけるET曝露に対する健康へのリスクを考察する計画である。 浮遊細菌濃度や各粒子中のET濃度の測定、ET曝露の可能性等についてのこれらの結果は、日本建築学会や室内環境学会、日本産業衛生学会等で発表し、論文としてもまとめ、公表していく予定である。
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Causes of Carryover |
当初使用を計画していたエンドトキシン測定試薬を見直した結果、測定単価を下げることができたため、予定していたサンプリング用試薬の支出が減額できた。また、予定していたミニポンプの買い替えを見送ったことにより次年度使用額が発生した。 今年度は、予定していたミニポンプを買い替え、引き続きサンプリングを実施する予定であるため、エンドトキシン測定用試薬および消耗品を購入する。また、データ入力のためにアルバイトを雇う予定である。 研究成果を発表するため複数の学会に出席する予定であるため、旅費や演題登録費として使用する。
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