2018 Fiscal Year Research-status Report
Semiotic Study on Method of Design Education of Man-Environment System to Bring Up Innovators
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17K06734
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Research Institution | Osaka University of Arts |
Principal Investigator |
門内 輝行 大阪芸術大学, 芸術学部, 教授 (90114686)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | イノベーター / 人間-環境系のデザイン / 21世紀型スキル / デザインプロセス / 記号過程 / 対話によるデザイン / 集団による学び / 建築教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
21世紀の知識社会を迎えて、複雑な問題を他者と協働して解決する「21世紀型スキル」を身に付けた「イノベーター」の育成が喫緊の課題となっている。本研究の目的は、多主体の対話による「人間-環境系のデザイン」が創造的なデザインの生成とデザイン主体の創造力や探究力の育成に貢献することに着目し、そのデザインプロセスを記号過程として分析することにより、イノベーターを育てるデザイン教育の方法を構築することである。 本年度の研究では、まず、①子どもたちを主体として新しい図書館を創る「京都市立洛央小学校ブックワールドデザインプロジェクト」のデザインプロセスに関する記録を分析し、その成果を単行本にまとめた。それを踏まえて、②デザインプロセスを「記号過程」として捉えることにより、デザインプロセスが創造的なデザインを生成するプロセスであるだけでなく、デザイン主体の学びと発達のプロセスでもあることを明らかにするとともに、③デザインプロセスを「集団による学び」のプロセスとして捉え、「学び」を単なる知識の蓄積ではなく無限に新しい知識を生み出していくこととみなす視点から、デザイン主体の創造的な学びと発達を促すデザインプロセスを展開する方法を探究した。 また、学びは「発達の最近接領域」(ZPD; zone of proximal development)に働きかけることで最も効力を発揮するものであり、他者との協働が発達につながることを指摘した心理学者レフ・ヴィゴツキーの理論、及び学びにおける「振り返り」の意義・役割を明らかにするドナルド・ショーンの(実践者は行為の中で暗黙のうちに多くのことを認識し判断しているとする)「行為の中の省察」(reflection-in-action)の理論に基づいて、デザイン主体の創造的な学びと発達を促すデザインプロセスのあり方を探究することの有効性を提示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、「京都市立洛央小学校ブックワールドデザインプロジェクト」のデザインプロセスの記録を分析することにより、そのプロセスには、デザイン対象を生成するプロセスとデザイン主体の認知や行為に変化を与えていくプロセスという重層する記号過程が含まれていることを明らかにした。 具体的には、子ども主体のデザインプロセスにおいて、イメージ・感覚の層、事実・行動の層から論理・思考の層に及ぶ豊かなアイデアが生成されたことは、注目すべきことと言える。チャールズ・パースの記号論に基づいて、この記号過程に介在する記号群を分析すると、性質記号・単一記号・法則記号、類似記号・指標記号・象徴記号、名辞・命題・論証といった多岐にわたる記号を抽出することができた。特に、性質記号、類似記号、名辞といったイメージ・感覚の層の記号現象が多く生成されたところに、子どもの自由な創造性を看取することができる。例えば、“カラフル、明るい、隠れ家、洞窟、芝生のような場所、トンネル、ステージ、てんとう虫の椅子、…”といった表現を見ると、性質記号や類似記号(メタファーを含む)が多用されていることがわかる。さらに、考えたことを言葉・スケッチ・模型などを用いてプロトタイプとしてつくり出し、それを皆の前で語り合い、共同体で共有し振り返るといった、考える・つくる・振り返るプロセスを通じて、深い気づきが起こり、学びが生まれることも、注目すべきことと言える。 こうした分析の結果、①人間-環境系のデザインの経験がイノベーターのスキルを育成する有効な手段となること、②創造的なデザインを生成するデザインプロセスがデザイン主体の創造力や探究力を育むのに役立つこと、及び③未来を担う子どもたちが世界を変革していく力を身に付けるデザイン教育が可能であること、を提示することができたと考える。 以上のことから、おおむね順調に進展している、と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
世界各地で展開されている子どもの建築教育の教育事例を収集し、デザイン主体の学びと発達の観点からそのデザインプロセスを分析する。具体的には、新しい教育ビジョンに基づく学校建築を子どもが主体となって進めており、児童と専門家が1/10の巨大模型を囲んで議論するワークショップや,子どもが施工にも関与する画期的な取組を展開しているドイツのギルゼンキルヘン・ビスマルク統合学校の試み、建築を学ぶことが「子どもが自分を取り巻く環境を受け止め、考え、理解し、概念化し、評価する能力を育てることに繋がる」という考えのもと、実際に手を使って自分のアイデアをかたちにするさまざまな3次元的な手法を用いたデザイン教育を実践しているフィンランドのNPO「子どもと若者のための建築学校Arkki」の実践、あるいは日本の「伊東豊雄子ども建築塾」の試みなどがそれである。こうした子どもが自分の経験を通じて学ぶ手法をプロダクティブ・プレイ・メソッドと呼ぶ。 また、大学のデザインスタジオによる設計教育等の「人間-環境系のデザイン」についても事例を収集し、そのデザインプロセスの分析を行う(ドナルド・ショーンがデザインプロセスの分析を試みたのは、MITのデザインスタジオにおける設計教育の事例である)。 これらのデザインプロセスの分析を通して、「イノベーターを育てる人間-環境系のデザインの実践とその教育方法の構築」を推進する。 さらに、その教育方法に基づくデザイン教育の実践を通して、デザイン主体の創造的な学びと発達を可能にするデザイン方法(プロセス・言語)・デザイン対象(人間-環境系)・デザイン主体(行為・状況)のあり方について考察し、人間-環境系のデザインの教育方法の体系化を図る。これは、デザインの文脈を超えて、「21世紀型学習の創発モデル」を探究する試みでもある。
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Causes of Carryover |
本年度実施した記号過程としてのデザインプロセスの分析の結果をデータベースに蓄積するために、新たなコンピュータシステムを導入する予定であったが、その段階で一時的に研究に従事できない事態が生じたため、次年度の早い段階で改めて研究を推進するためのシステムの整備を進めることにした。
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