2019 Fiscal Year Research-status Report
被災地の住宅セイフティネットにおける「孤独死」の発生実態とその背景
Project/Area Number |
17K06736
|
Research Institution | Otemon Gakuin University |
Principal Investigator |
田中 正人 追手門学院大学, 地域創造学部, 教授 (40785911)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 孤独死 / コミュニティ / 社会的孤立 / 応急仮設住宅 / 災害公営住宅 / 東日本大震災 |
Outline of Annual Research Achievements |
【実績1】M. Tanaka (2019), The situation and background regarding the movement process for residents in the area affected by the nuclear disaster, Case study of the Abukuma area, Fukushima Prefecture, European Network for Housing Research 2019, Harokopio University, Athens. 【概要】被災地の「孤独死」問題を解く鍵は,従前の暮らしに織り込まれていた生活行動を支える空間にある。だとすれば,従前と同じ生活が困難な状況を余儀なくされた原発被災地では,何を拠り所とすればよいのか。本研究は,この問いをもとに,原住地(福島県双葉郡川内村第8区)に帰還した世帯へのインタビューを通して,いかに新たな生活空間が再生されてきたのかを把握したものである。帰還世帯の多くは,元通りの暮らしは困難であることを理解した上で,原住地での再居住を選択している。その生活は,多大な喪失とともにある一方,物的な環境の構築を通した新しい土地との関わり方が模索されている。 【実績2】基調講演Disaster risk and community @Symposium: Resilient living environments in the recovery from the disaster, Kobe University, Hyogo, Japan (Feb. 4, 2020). 【概要】これまでの研究実績をもとに,今後の巨大災害リスクを見据えたレジリエントな居住環境の構築に向けた課題を示した。現行の減災・復興政策は,確かに災害リスクを軽減,回避する効果を持つ。一方,個々の生活再建,生活継続の視点に立てば,そのリスクは非脆弱層から脆弱層への転嫁が進み,レジリエンスの向上はその反映にすぎないという面がある。「孤独死」やその背景にある不安定居住の継続は,こうしたリスクの不平等な分配/再分配がもたらした結果であると言える。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
東日本大震災の応急仮設住宅および災害公営住宅における「孤独死」の発生実態とその背景を明らかにする研究として,2019年度はその3年目の作業として,以下の諸点を実施した。 第1に,継続して行っている宮城県警による「検視報告書」の整理である。応急仮設住宅分については昨年度に完了しており,今年度は新たに災害公営住宅分を取得した。なお,応急仮設住宅とは異なる項目が必要となるため,そのデータ提供の可否について,提供元となる宮城県警捜査第1課との協議を行った。特に本研究の関心である居住環境特性について,具体的な住宅の固有名詞の提供はできないという条件のもと,それをいかにデータ化するかが課題となった。災害公営住宅は仮設住宅よりもバリエーションが豊富であるため,その多様性が区別できるよう,注意深くコーディングを行った。 第2に,この最新データをもとにした論文作成である。元々は応急仮設住宅の分析結果について,査読論文を先行して仕上げる予定であったが,上記の通り,災害公営住宅のデータが入手できた段階で,その集計作業を優先した。順序を変更した理由としては,現在,被災地ではまさに災害公営住宅への入居が完了しつつあり,残念ながら実際に「孤独死」の発生が相次いでいる。一般に,災害公営住宅の入居者は生活再建の完了とみなされがちであるが,実態はそうではない。この問題提起に寄与したいと考え,災害公営住宅について概略的な集計・分析を実施し,中間報告としての論文を作成した(日本建築学会大会での口頭発表論文として4月初旬に投稿済み)。なお集計結果は,マスメディア(東北放送)においても取り上げられた。
|
Strategy for Future Research Activity |
今年度は,本研究課題の期間である4年間の最終年度に当たる。これまでに取得したデータおよび中間報告を総合化し,公表・発信に向けた作業を行う。以下の4つの方針のもとで成果をとりまとめる。 第1に,すでに終えた災害公営住宅での「孤独死」に関する中間報告を精査し,査読論文として仕上げる(日本建築学会計画系論文集を予定している)。また,宮城県警による「検視報告書」に加え,並行して実施してきた入居者への聞き取り調査の結果も含めた考察を行いたい。 第2に,先送りした応急仮設住宅についても,すでに2編の論文を提出しているが,それらを総合したとりまとめを行う。また,立地環境の影響については過去の論文では十分に触れることができなかったため,その点を重視した検討を加えたい。 第3に,応急仮設住宅と災害公営住宅を一連の住宅セイフティネットと捉えた場合の論点を見出す必要がある。第1,第2の作業の後に,両者をあわせた分析を行い,生活再建・住宅再建に求められるセイフティネットのあり方を考察,提案する。 第4に,以上の作業で得られた知見に対し,その普遍性を検討する一環として,筆者らが過去に実施した阪神・淡路大震災における住宅セイフティネット上の「孤独死」との比較を行う。現時点の分析では,東日本大震災における「孤独死」の発生実態は,阪神・淡路大震災のそれときわめて類似する。しかしながら,両者は社会背景や地域特性,そして供給された住宅の空間デザインに関して多様な違いを有する。その違いがいかに入居者の生活行動に影響したのか,そしてそれでもなお,結果として類似した実態を示しているのか,といった点を明らかにする必要がある。
|
Research Products
(2 results)