2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K06755
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Research Institution | Nippon Institute of Technology |
Principal Investigator |
野口 憲治 日本工業大学, 工学部, 助手 (30337513)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 近世 / 町家 / 長崎 / 町家模型 / 室内意匠 / 町並み / シーボルト / オランダ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、長崎の近世町家の特質を明らかにし、新たな日本の近世民家像の再構築を目的とする。19世紀初め、長崎出島のオランダ商館に勤務したシーボルトは、日本人とは異なる視点で日本の町家を理解し、模型や挿図、日誌に遺した。なかでも町家の建物模型は、長崎の町家をモデルとし、多様な商種・生業を示している。 平成29年度は、オランダのライデン国立民族学博物館において町家模型の調査を実施した。また、シーボルトが近世長崎の町家・町並みをいかに理解したかを明らかにした。
1.町家模型の調査:ライデン国立民族学博物館においてシーボルト・コレクションの町家模型の室内意匠を詳細に調査した。また、世界博物館ウィーン(オーストリア)に所蔵されている大名屋敷の模型の写真撮影を実施した。この模型は、明治6年、日本政府がウィーン万博に出展したものである。今後、シーボルト・コレクションの模型と比較する予定である。
2.シーボルトがみた近世長崎の町家・町並み:シーボルト・コレクションの町家模型は、細部・平面とも長崎の町家の特徴とよく一致することを指摘した。さらに、その一部である「名主の住まい」模型は、長崎本博多町の町家乙名の役宅をモデルとしたことを示唆した。したがって、シーボルト・コレクションの町家模型は、長崎の町家をモデルにしたことになる。シーボルトがみた近世長崎には、町を支配する町乙名の役宅、呉服屋や酒屋、醤油屋などの商家、フロヤのなど、多様なレベルの町家が混在していた。つまり、長崎の町の支配構造、衣食住、風俗を理解していた。また、近世長崎の町家は、商種・生業、階層によって室内の意匠、格式表現が異なる。彼は、日本の町場を伝えるために、多種多様な商種・生業を取捨選択し、その様相を一目で理解できるよう複数の町家を組み合わせて町並み模型を製作させた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成29年度は、ライデン国立民族学博物館および長崎歴史文化博物館、九州大学附属図書館(記録資料館九州文化史資料部門)において、長崎の町家に関する史料調査を実施した。その成果の一部は、平成30年度日本建築学会大会において発表する予定である。しかし、ライデン国立民族学博物館における町家模型の調査時期が年度末になり、模型の室内意匠の分析が当初の計画よりもやや遅れてしまった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度以降は、下記の分析を推進する予定である。 1.模型の室内意匠の分析:近世町家の室内意匠は、町家の特徴を示す重要な要素の一つである。現存遺構の町家では、襖などの建具類が失われることが多く、室内意匠を十分に検討することができない。建具類が遺る建物は、揚屋建築の遺構である京都の角屋など特殊な建物に限られる。しかし、模型からは「名主の住まい」や「酒屋」など、幅広い職業の室内意匠を当時の状態で見ることができる。その様相は、唐紙を貼った壁や天井、四季を描いた襖絵など細部まで表現されている。これらの室内意匠を詳細に分析し、職業や部屋の用途との関係を明らかにする。 2.家作制限令と模型の室内意匠:『長崎御役所留』などに記載された室内意匠に関する触書の内容と模型の室内意匠を比較する。幕府は、幕府直轄領である長崎に、町家の家作に関する町触を、寛文8(1668)年に出している。これによると、建具の框を塗る事、唐紙の張付壁、遊山船や金銀の紋の絵を描くことなどを禁じている。しかし模型の室内意匠は、建具の框を黒塗にするなど、制限令に触れている。模型と制限令を比較し、規制と現状の関係を分析する。 3.絵画史料に描かれた同時代の町家との比較検討:『長崎名所図会』をはじめとする各地の名所図会などの絵画史料に描かれた町家と模型を比較し、建築的特徴を明らかにする。また、それらの特徴を地域、建設年代、城下町の機能などの視点からも比較検討する。
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Causes of Carryover |
ライデン国立民族学博物館における調査の日程調整が遅れ、平成30年2月に実施した。このため、研究費の執行が当初の計画よりも遅れ、次年度使用額が発生した。この費用については、平成30年年度の助成金と合わせて撮影機材など購入する予定である。
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