2019 Fiscal Year Research-status Report
イタリアの初期中世教会堂建築における求心的空間の意義とその構成手法に関する研究
Project/Area Number |
17K06763
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Research Institution | Kobe Yamate University |
Principal Investigator |
高根沢 均 神戸山手大学, 現代社会学部, 准教授 (10454779)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 周歩廊 / スポリア / 初期中世 / 空間の機能 / ランゴバルド |
Outline of Annual Research Achievements |
研究計画の最終年度となる2019年度は、それまでに実施した調査データの検証を進めつつ、研究対象事例の補足調査を行い、最終的な成果取りまとめに進む予定で研究を進めた。 三次元モデルの合成精度を高めるために、9月に各事例の補足計測調査を実施した。対象とした事例は、サンタ・マリア・アッスンタ大聖堂(イヴレア)、サント・ステファノ聖堂(ヴェローナ)、サン・ロレンツォ洗礼堂(セッティモ・ヴィットーネ)、サンタンジェロ聖堂(ペルージャ)、サン・ピエトロ・コンサヴィア聖堂(アスティ)である。また、比較対象事例として、サント・ステファノ聖堂(ボローニャ)、サンタンティモ修道院(トスカーナ)についても調査を実施した。特に、サンタ・マリア・アッスンタ大聖堂では、地下礼拝堂と上部周歩廊の接続を明確にすることを目的とした撮影を行い、十分な精度を得ることができた。一方で、研究対象の一つであるサン・サルヴァトーレ聖堂(スポレート)では、地震による被害の修復が長引いており、堂内に入ることができなかったため、調査を断念した。 サンタンジェロ聖堂、サンティッシマ・アンヌンツィアータ聖堂およびサン・ピエトロ・コンサヴィア聖堂については、三次元モデルの構成を終えることができた。堂内の聖性の焦点となる祭壇と堂内への主入口に対して、円柱の柱頭の意匠および柱身の材料の配置を3次元的に解析し、聖性を示す軸線と堂内入口からの軸線の関係について考察を進めている。その結果、聖性の焦点となる祭壇に対して、直視できないように対称性を崩した特異な部材を配置する手法があらためて確認されただけでなく、立体的な位置関係においても、祭壇への視線を遮るように空間が構成されていることが確認できた。 さらに補足調査を3月に実施する予定でいたが、イタリアでコロナウイルスの感染が急速に拡大し、渡航禁止となったため、調査を実施することができなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究課題は、求心的な空間を持つ初期中世教会堂を対象として、スポリア材の配置計画を通じて求心的空間の構成手法を検証し、初期中世の教会堂建築におけるバシリカ形式と求心的空間が融合する過程を分析することが目的であった。そのために、各事例の内部空間を三次元モデル化し、スポリア材の意匠と材料の配置を空間的に把握することを考えた。 三次元モデルの作成にあたって、今回は、膨大な枚数の高精細画像を撮影し、それらを合成することで三次元モデルを構築するという手法を採用して取り組んだ。しかし、堂内の撮影条件の問題と機材の問題により想定以上の時間がかかり、また精度を高めることが思うようにいかず、当初予定していたペースでモデルを作成することができなかった。 さらに、1月以降のコロナウイルスのまん延により、イタリアが渡航禁止となったため、三次元モデルの精度向上に必要な補足調査を実施することができなかった。そのため、最終的なモデルの完成までさらに時間を要することとなった。 上記の要因によって、研究の進捗が予定よりも遅れることとなった。 一方で、現時点で作成を終えた事例については、堂内の聖性の焦点となるアプシスの祭壇と堂内への主入口に対して、円柱の柱頭の意匠および柱身の材料の配置を3次元的に解析し、聖性を示す軸線と堂内入口からの導線の関係について考察を進めている。これまでに指摘した平面上での対称配置と聖性の焦点を示す軸線との関係について、あらたな事例を確認できたことに加えて、立体的な構成においても同様の関係を確認できたことは大きな進展であると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題は、研究者がこれまで進めてきた初期中世の教会堂建築の内部空間の機能に関する研究の一環である。研究者は、古代末期に登場した教会堂建築のさまざまな類型のなかで、特に堂内に求心性を創り出す空間構成に注目し、近年は聖域を取り囲む周歩廊について研究を進めてきた。これまでの研究では、求心的な集中形式の洗礼堂において、古代の部材の意匠や材料の違いを組み合わせることによって空間に軸線を生み出すことで視覚的に構成する手法と、聖性を示す軸線と会堂入口の軸線が正対せず斜めに交差するように空間を構築する手法を明らかにしてきた。本研究課題において調査を実施した事例でも、同様の特性が確認され、さらに立体的な意味でも聖性の焦点となる祭壇に対して視線が直視できないように開口部と部材の配置を構成するという手法がとられていることがほぼ確認できつつある。こうした手法は、バシリカ形式における祭壇と正対する長方形の空間とは対照的であり、祭壇を取り巻く周歩廊の機能と密接な関係があると考えられる。また、そうした手法が6世紀ごろ創建のサンタンジェロ聖堂や7世紀ごろ創建のサンティッシマ・アンヌンツィアータ聖堂、および10世紀末創建のサンタ・マリア・アッスンタ聖堂といったランゴバルド建築と関連のある事例において確認されたことによって、ランゴバルド時代において集中形式の聖性と周歩廊空間の関係性がバシリカ形式と融合したという仮説の可能性は高まったと考えている。 今後の研究では、ランゴバルド建築についてさらに幅広い事例の調査を進めつつ、フランスやスペインといったイタリア以外の地域の事例について、聖性の焦点とスポリア部材の配置の特徴について比較研究を行うことで、周歩廊とスポリア材に関する初期中世の教会堂建築の発展を明らかにしていきたい。
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Causes of Carryover |
補足調査を3月に予定していたが、1月末よりイタリアでコロナウイルスの感染が急速に拡大し、調査出発直前に渡航禁止となったため、使用することができなかった。 次年度に、コロナウイルスの状況を注視しつつ、イタリアでの補足調査を実施する予定である。もしコロナウイルスが収束しない場合は、研究書籍または研究データの解析に有用な機材を購入し、研究成果の向上を目指す。
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