2021 Fiscal Year Research-status Report
イタリアの初期中世教会堂建築における求心的空間の意義とその構成手法に関する研究
Project/Area Number |
17K06763
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Research Institution | Kansai University of International Studies |
Principal Investigator |
高根沢 均 関西国際大学, 国際コミュニケーション学部, 准教授 (10454779)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 初期中世教会堂 / スポリア / 環状列柱 / 集中形式 / 聖性の焦点 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年1月より世界的に広まった新型コロナウイルスによって海外調査が実施できず、最終年度に予定していた研究対象の調査データの収集が終わらなかったため、期間の延長を申請して2020年および2021年と延期してきた。しかし、2021年度もコロナ禍の拡大が収まらず、海外渡航が禁止されたため、やはり必要なデータの収集を行うことができなかった。 そのため、それまでに取得した写真データを精査し、可能な範囲で三次元モデルの合成と解析を進めた。サンタ・マリア・アッスンタ大聖堂(イヴレア)およびサンタンティモ修道院(トスカーナ)の聖域部分、および大聖堂付属洗礼堂(サンタ・セヴェリーナ)についての三次元モデルを作成することができたが、補足調査のデータが不足しており、十分な精度が得られていないため、分析は今後の課題となった。 現時点では、調査対象の各事例において、聖性の焦点と求心的空間の中心点を結ぶ軸線と再利用材の配置において共通する特徴を確認することができた。すなわち、聖域の焦点である祭壇と環状列柱の中央(空間上の焦点)を結ぶ軸線に対して、環状列柱で使用されている再利用部材は同じ意匠や材料を組み合わせる対称配置を取るにもかかわらず、入口に面するところにのみ非対称で特異な部材を配置するという特性がある。研究代表が注目するこの特徴は、初期中世建築の周歩廊における再利用材の配置の原則であった可能性があり、さらにランゴバルド建築を経て集中形式平面とバシリカ形式平面を組み合わせた教会堂建築が形成されていく発展過程の一端を示すものと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究課題は、教会堂内部の空間を高精細画像の合成による三次元モデルを作成し、スポリア材の配置計画を通じて求心的空間の構成手法を検証することによって、初期中世の教会堂建築におけるバシリカ形式と求心的空間が融合する過程を分析することを試みるものである。そのため、膨大な枚数の高精細画像を撮影する必要があるが、2020年1月以降のコロナウイルスのまん延により、イタリアが渡航禁止となったため、三次元モデルの精度向上に必要な補足調査を実施することができなかった。そのため、最終的なモデルの完成までさらに時間を要することとなった。上記の要因によって、研究の進捗が予定よりも遅れることとなった。 一方で、現時点で作成を終えた事例については、堂内の聖性の焦点となるアプシスの祭壇と堂内への主入口に対して、円柱の柱頭の意匠および柱身の材料の配置を3次元的に解析し、聖性を示す軸線と堂内入口からの導線の関係について考察を進めている。最終の補足データによる三次元モデル合成を除いて、研究の基礎的な部分は可能な限り進められている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題では、初期中世の教会堂建築の内部空間の発展過程について、環状列柱による堂内の求心性と聖性の焦点の関係に注目して取り組んできた。これまでに調査を実施して三次元モデルの合成まで完成した事例については、再利用部材の配置と軸線の関係について分析を行い、共通する特徴を抽出することができた。一方で、まだ調査データの不足している事例については、三次元モデルの合成ができず、十分な解析ができていない。今後は、まずこれらの事例の補足調査を行ったうえでモデルの合成と解析を進め、各事例に共通する特徴と相違点を抽出し、歴史的・地理的な変遷過程を検証することに取り組む。 また、本研究課題ではランゴバルド建築に注目し、この時代の建築が初期中世から盛期中世の教会堂建築の変遷において果たした役割を明らかにすることに取り組んだ。その結果、集中式平面とバシリカ式平面の融合という重要な局面において、ランゴバルドの建築文化が影響を与えたという仮説の可能性をある程度確認することができた。今後の研究は、さらにアルプスを挟んで北イタリアと南フランスおよびクロアチアに至る地域の教会堂事例に焦点を当て、ランゴバルド建築が果たした役割について調査研究を進めることを考えている。
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Causes of Carryover |
補足調査を9月または2月に実施する予定でいたが、コロナウイルスの感染拡大の大きな波がぶつかってしまい、出国禁止となったため、調査を実施することができなかった。 2023年度はワクチン接種も普及し、海外および日本も国際旅行がスタートする状況が見えてきたため、今年度は9月または2月にイタリアでの補足調査を実施する予定である。
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