2017 Fiscal Year Research-status Report
タイ・バンコクのイスラム空間から見る多民族・多宗教共存都市の形成史の解明
Project/Area Number |
17K06766
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Research Institution | Kure National College of Technology |
Principal Investigator |
岩城 考信 呉工業高等専門学校, 建築学分野, 准教授 (50647063)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | モスク / 集落 / 墓地 / マレー系ムスリム / インド系ムスリム / インドネシア系ムスリム / シーア派 / スンニ派 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究はタイ・バンコクにおける、モスク、墓地、集落から構成されるイスラム空間の分析を通して、多民族・多宗教が共存する都市の形成過程を明らかにするものである。 2010年のセンサスデータによれば、バンコクの人口831万人の中で仏教徒は92.5%を占める多数派であり、イスラム教徒(ムスリム)は4.6%ほどの少数派となる。ただし、2017年3月現在、バンコクには登録されているだけで、192箇所のモスクがある。そして、モスクを中心にマレー系、インドネシア系、チャム(カンボジア)系、インド系といった、多様な出自を持つイスラム空間が形成されている。 平成29年度は、タイに2回赴き、18世紀から現在に至るイスラム空間の変遷の解明の第一歩として、モスクの設立年代やイスラム空間の実態の把握のため、現地での資料収集とモスクでの聞取り調査を行った。2017年9月7日から13日には、まずバンコク近県のアユタヤ県にあるイスラム空間に赴き、農村におけるイスラム空間と周辺の仏教徒の集落との関係性に関する調査を実施した。現在のバンコクでは、農業を生活基盤とするムスリムがほとんどないので、1970年代以前のバンコク郊外のイスラム空間を理解する上で重要な調査となった。続く9月14日から21日は、バンコク都市部のイスラム空間と、バンコク南西部のトゥーンクルー区にあるかつて稲作と果樹園を営んでいたのマレー系のイスラム空間で聞取り調査を行った。 また、2018年3月19日から27日には、チュラーロンコーン大学図書館を中心に文献資料と地図資料の収集を行い、さらにインド系のモスク(シーア派とスンニ派)において聞取り調査を行った。このように平成29年度は、バンコクのイスラム空間について本格的に分析するための文献資料と地図資料の収集や人的ネットワークの構築を行ってきた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の重要な点は、多様な出自を持つムスリムの空間をモスクという宗教施設に限定せずに、集落や墓地まで含めた空間として捉え、それらをバンコクという広大な都市空間の形成過程の中で周辺の仏教徒の空間との関係性に着目しながら、考察することにある。そのためには、以下の3つのことが重要となる。①古地図を利用したイスラム空間の空間分類と立地の変遷の把握、②フィールドワークを通しての多くのイスラム空間の実見とムスリムとの人的ネットワークの構築、③文献資料を利用した18世紀から現在に至るイスラム空間に対する行政管理の変遷の把握、である。 ①に関しては、再版された1887年の古地図の収集と都市部にあるイスラム空間の空間分類と立地のプロットがすでに終わっており、今後はこの作業をバンコク郊外へと拡大する予定である。②に関しては、研究代表者はすでに40箇所を超えるモスクを踏査し、様々な歴史や慣習を聞取ると共に、ムスリムとの人的なネットワークの構築を行ってきた。③に関しては、タイのチュラローンコーン大学図書館などが所蔵する先行研究のみならず各モスクの歴史を描いた私版の収集も行い、さらに官報を通してその全体像を把握できつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、収集した古地図や文献資料、口述史をもとにバンコクにおけるイスラム空間の変遷をその立地特性と居住者の生業、王権との関係性に着目しながら、より詳細に分析する必要がある。平成30年度は、当初の計画通り18世紀から20世紀前までに形成された都市部及び郊外に形成されたイスラム空間において、改めてフィールドワークを行う。 都市部においては、19世紀半から20世紀初頭にインド系の商人(スンニ派とシーア派)が設立したモスク、また19世半ばから20世紀前半にインドネシア系の商人(スンニ派)が設立したモスク、また18世紀末からから19世紀前半にマレー系商人や職人(スンニ派)が設立したモスクを中心にさらに詳細な聞取り調査を実施する。また、郊外としてはバンコク南西部のトゥーンクルー区を中心に、19世紀後半から20世紀初頭にマレー系の農民が設立したモスクを中心に詳細な聞取り調査を行う。 これらフィールドワークで重要なことは、モスクや墓地のための用地取得の歴史、周辺の仏教徒との関係性、またイスラム空間の拡大の年代や諸問題などに関する聞取り調査を行うことである。そして都市部のイスラム空間、あるいは都市部と郊外のイスラム空間の比較を通して、それらの共通点や差異点をより詳細に検討していく。
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Causes of Carryover |
平成29年度末の3月19日から27日にタイにおいて現地調査を行ったが、その旅費などの確定額が、次年度払いとなるため。
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