2017 Fiscal Year Research-status Report
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17K06767
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Research Institution | Nara National Research Institute for Cultural Properties |
Principal Investigator |
西山 和宏 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 都城発掘調査部, 主任研究員 (10290933)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 組上げ構法 / 三重塔 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度は、先行研究で先進性が指摘されている瀬戸内地方に所在する17基について、資料の収集および分析・検討をおこなう計画であったが、重要文化財の10基のうち、天寧寺塔婆(広島)は江戸時代に五重塔から三重塔に改造したものであるため、今回の検討からは除外することにした。残りの9基について修理工事報告書等から図面や写真を入手することができたものの、都道府県指定の7基については、修理工事報告書が刊行されている金山寺三重塔を除き図面が入手できなかった。したがって、今年度は図面が入手できた10基において、データベース化を進めるとともに、分析・検討をおこなった。 その結果、岡山県内の7例では四天柱のみ長柱構法の積重ね構法と長柱構法の併用式が2例、側柱も長柱構法となっているものが3例と先進性が確認できたものの、愛媛県および広島県の3例については、いずれも積重ね構法であり、先進性は確認できなかった。また、長柱構法の3例には、永和2年(1376)建立の宝福寺三重塔、応永23年(1416)建立の遍照院三重塔が含まれ、岡山県においては長柱構法が導入された後、その影響を受けて併用式が出現したものとみられる。また、同じ併用式でも左義長柱の立ち方が異なるなど、これまでの4つの類型からさらなる細分化が可能であることも明らかとなった。 一方、組物の様式と組上げ構法の関連性については、中世に移入された禅宗様組物である永享4年(1432)建立の向上寺三重塔(広島)では古代以来の積重ね構法であり、ほぼ同時期に建立された長柱構法の遍照院三重塔は古代以来の和様であるなど、両者間での関連性は薄いとみられる。また、長柱構法が瀬戸内地方では岡山県のみでみられることから、地域性についても瀬戸内地方といった大きな区分ではなく、いわゆる国別で捉えることもわかってきた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度、分析・検討をおこなった10基については、修理工事報告書が刊行されており、図面のみならず写真についても概ね必要なものは入手でき、データベース化を進めることができた。しかしながら、報告書によっては図面や写真が少なく、判断しにくい部分も少なからず存在した。そのため、現地調査を実施する計画としていたが、病気により年度内の現地調査が不可能となった。 また、都道府県指定文化財については図面や写真等を入手することが、困難であることもわかってきた。ただし、今年度の分析・検討の成果から組上げ構法は、積重ね構法のみであったもののが、室町時代になると長柱構法が出現し、その後、積重ね構法と長柱構法との併用式がみられるようになったと推定される。つまり、組上げ構法においては、中世、特に室町時代初期において長柱構法が出現したことにより、大きな変革期を迎えたとの推測が成り立つ。このことから、多くが江戸時代の建立になる都道府県指定の三重塔に関する資料収集に時間を要するよりも、室町時代における諸要素の変容に着目して分析・検討を進めることが重要であろう。したがって、今年度、都道府県指定に関する資料が収集できなかったことは、先に記した着目点での分析・検討を進めていくことから考えれば、進捗状況にはそれほど影響を及ぼさないものと考えられる。 以上から、全体としてみれば、若干遅れていると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度実施できなかった瀬戸内地方において現地調査を実施するとともに、これまでの計画通り、次年度は近畿地方における34基について、分析・検討を進めていくが、今年度同様に資料収集が困難であると判断した場合は、入手できた資料についてデータベース化を進めるとともに分析・検討をおこなう。現地調査は、その分析・検討を進めていく上で必要となるものを優先して実施していきたいと考える。 今年度の分析・検討から、まずは長柱構法が出現した室町時代に着目し、瀬戸内地方との相違点に注視しつつ諸要素における変容の過程について分析・検討を進める。 また、組上げ構法と組物の様式との間には深い関連性は認められなかったものの、三重塔のみならず、二重門や楼門など重層建築の構法における変遷過程や木割や規矩など建築技術との関連の有無についても、検討が必要と判断し、次年度以降は、重層建築における構法の変遷や木割や規矩など建築技術も含めて検討を加えていきたいと考える。 ところで、今年度における資料収集の段階で、岡山県内にはさらに千光寺三重塔(未指定)と成就寺三重塔(岡山市指定)の三重塔2基が遺存していることが判明した。同様に他府県においても市町村指定あるいは未指定の三重塔が依存している可能性があるものの、まずは入手が容易な重要文化財を中心に分析・検討を進めていきたいと考える。
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Causes of Carryover |
現地調査を実施する計画としていたが、病気により年度内の現地調査が不可能となったこと、資料収集できた塔数が想定よりも減少したため、データベースへの入力作業を担う学生アシスタントの雇用が短期間となったこと等により、次年度使用額が生じることとなった。 上記の事由で生じた次年度使用額と翌年度分の助成金については、今年度実施できなかった瀬戸内地方において現地調査を実施するとともに、次年度から木割や規矩などの建築技術についても検討を加える上で必要となる書籍および資料整理や分析等で必要となる物品の購入にあてるとともに、次年度実施予定の近畿地方においてデータベース化および分析・検討を進める。
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