2017 Fiscal Year Research-status Report
Invention of anomalous antiferromagnetic states in Heusler compounds
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17K06774
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Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
廣井 政彦 鹿児島大学, 理工学域理学系, 教授 (80212174)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
重田 出 鹿児島大学, 理工学域理学系, 助教 (30370050)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 反強磁性 / ホイスラー化合物 / スピングラス / 強磁場 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、ホイスラー化合物での特異な反強磁性状態の研究、および、それを持つ新しいホイスラー化合物(およびその関連物質)の創製・探索を目指している。 Ru基ホイスラー化合物Ru2CrSiは転移温度13 Kの反強磁性体であり、また、Ru1.9Fe0.1CrSiはスピングラス凍結することがこれまでの研究で分かっている。平成29年度においては、東大物性研の共同利用で、パルス磁場を用いて高磁場での性質についての研究を行った。Ru2CrSiについては、14.5 Tの磁場中でも、転移温度が変わらないことが分かっていたが、パルス磁場を用いて、さらに強磁場までの電気抵抗測定を詳しく行い、抵抗の温度変化を推定することにより、55 Tまで、転移温度が変化しないことを見出した。また、Ru1.9Fe0.1CrSiは、14 Kでスピングラス凍結を起こすことが分かっているが、29年度は55 Tまでのパルス磁場下で磁気抵抗測定を行い、4 K以下の低温において磁場の増加と減少時間に、大きく異常な履歴現象が起こることを見出した。パルス磁場という急激に磁場が変化する特殊な条件下なので、データの評価に難しい面もあるが、この物質の低温でしか見られない現象であることから、スピングラス凍結と関連している本質的現象と考えられ、興味深いと思われる。 また、Fe基ホイスラー化合物Fe3-xMnxSi の研究も進めた。この物質は、x=1において、強磁性転移と、さらに低温で反強磁性的転移をすることが知られているが、x~1.7付近で2つの転移温度が接近する。このあたりの組成の物質の転移や磁性については、まだ分かってないことが多い。今回、詳しい磁化の温度変化・磁場変化の測定を行い、x~1.7では、x=1で知られている反強磁性的転移よりさらに低温でもうひとつの反強磁性転移があることがを見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ホイスラー化合物において、特異な反強磁性状態、およびそれに関連するスピングラス状態などの探索とその性質や物理的背景の解明を目指して研究している。29年度は、これまで行ってきた研究の発展として、Ru2CrSiの反強磁性転移温度が、55 Tの磁場でも、零磁場の場合から変化しないという特異なものであるということが明らかにできた。このような高磁場まで、磁場変化しない相境界が明らかになった例はこれまでないと考えられる。また、この物質で、零磁場での転移温度が13 Kと比較的低温にもかかわらず、55 Tまで転移温度が変化しないということは、少なくとも普通の局在磁性で説明はできず異常なものであり、その機構の解明が今後の課題になった。 また、Ru1.9Fe0.1CrSiにおいて、パルス磁場の磁気抵抗において、特異で大きな磁気抵抗の履歴を見出した。パルス磁場での測定で、どこまで本質的現象といえるのか難しいところもあるが、他の物質や高温では出現せず、この物質のスピングラス凍結に伴う現象である事は確かと考えられる。このような履歴現象はこれまでには観測されていないと思われるので、興味深い発見であると思われる。 また、Fe3-xMnxSiでも、x~1.7付近でこれまで知られていない反強磁性転移と考えられる転移を見出した。これにより複雑な磁気相図を持つことが分かり、それぞれの相の性質を調べることが今後の課題となった。 上記のように、これまでに、特異な反強磁性、および、それに関連するスピングラスの性質を明らかにするという点では、一定の成果が得られたと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
上記のように、特異な反強磁性の性質を明らかにするという点では、一定の成果が得られたと考えられる。今後は、これらの現象の詳細な特性を調べ、その現象の本質的な部分を明らかにし、その機構の解明につなげていきたい。一方、本研究の目標の一つである、応用的に価値が高いと考えられる高い転移温度を持った反強磁性体の探索については、29年度は具体的な進捗はなかった。しかし、上記のような特異な反強磁性を生む機構の解明により、反強磁性相互作用に関する新しい知見が得られる可能性があり、この知見は、高い転移温度を持った反強磁性体の探索の上で、重要な指針となると考えられる。 従って、50 T以上の高磁場でも転移温度がほとんど影響を受けない反強磁性を持つRu2CrSiについて、今後、磁場中比熱を測定し、反強磁性転移やその熱力学的性質が、磁場にどの程度影響を受けるかを調べる。また、Ru1.9Fe0.1CrSiのスピングラス凍結とRu2CrSiの反強磁性転移の関連を探ることも、その反強磁性およびスピングラスの生成の機構や相互作用についての知見を得るのに役立つと考えられる。よって、Ru1.9Fe0.1CrSiについても、磁場中比熱を測定し、磁場中でのその熱力学的性質について明らかにしたい。これまでの結果と合わせ、この物質系での反強磁性相互作用についての知見を得て、それを生かして新しい反強磁性体の物質探索も進めていきたい。 また、Fe3-xMnxSiでは、磁場中輸送特性や比熱測定により、x~1.7付近で、磁気相図やそれぞれの相の性質について、xによる変化も含めて、調べていきたい。 また、上記の物質系は、バンド理論計算により完全スピン分極率したハーフメタルであるという予測がされた物質を含むので、逆に反強磁性を壊してハーフメタルを創製することも、今後の研究の目指す方向の一つである。
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Causes of Carryover |
平成29年度は、これまでの研究の発展として行ったRu2-xFexCrSiの高磁場中の物性の研究において興味深い結果が得られた。29年度は、この測定、解析に多くの時間を割いた。この研究は、以前から着手している研究の発展で、これまでに作製した試料を使って、東大物性研での共同利用を行ったので、これについて、特に新しい費用は発生しなかった。また、29年度予定していた、新しい物質探索については、あまり時間が割けなかった。また、29年度の結果は新しい物質探索の方針に影響を与えるので、その結果を見て十分考慮してから、今後の方針を決めたいと考えたこともあり、本格的着手を次年度にまわすことにした。 従って、次年度は物質探索のための試料原料や試料作製に必要な消耗品などに使用予定である。また、次年度は学内での実験が増える予定であり、実験に必要な寒剤(ヘリウム、窒素)などへの使用を考えている。
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