2017 Fiscal Year Research-status Report
大型で電磁力に耐える超電導バルクの組織構造と機械特性発現機構の解明
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17K06825
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Research Institution | Ichinoseki National College of Technology |
Principal Investigator |
村上 明 一関工業高等専門学校, その他部局等, 准教授 (30361033)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 超電導 / バルク材料 / 単結晶 / 機械特性 / 破壊強度 / 曲げ試験 |
Outline of Annual Research Achievements |
超電導バルク材料(以下,「バルク」.)の大型化は,応用機器開発にとっての課題の一つに挙げられる.現在,バルクとして主流の希土類系の酸化物は,優れた超電導特性発現のために種結晶を用いて作製される単結晶であり,種結晶から離れたところでの余分な核生成により,通常の製法では直径60 mm程度が大きさの限界とされている.大型化に伴いバルクに作用する電磁力は増大するため,破壊強度などの機械特性の改善や正確な把握も必要とされる.一般に希土類系バルクは,均一な組成の前駆体を加熱して半溶融状態にした後,その上部中央に種結晶を配置して温度勾配下で結晶成長させて作製されるが,本研究では,種結晶から離れるに従い包晶分解温度が低下するよう組成を変化させた前駆体を用いて余分な核生成を伴わずに大型の単結晶が得られる希土類組成勾配法によって作製した直径100 mmの希土類系バルクを対象に,バルクから採取した試験片の曲げ試験を通して機械特性の評価を実施した.試験片には,組成の異なるそれぞれの領域から採取したものや,バルク上面の組成の境界を横切るように採取したものを用意した.試験片の破壊が組成の境界で起こるか否かを調査するため,試験片の内スパンにおいて最大曲げモーメントが生じる4点曲げ試験を選択した.大気中での評価に加えて,超電導転移温度よりも低い液体窒素温度での機械特性の評価も行った.破壊強度のデータには試験片によるバラツキが見られたが,組成の境界を含む試験片と含まない試験片の平均値には,顕著な違いは見られず,それらは,従来のバルクの破壊強度と同等であった.また,破断した試験片の元素マッピング画像を蛍光X線分析装置により得て,破断位置と組成の境界との関係を調べたところ,試験片の破断は,必ずしも組成の境界で生じていなかったことから,組成勾配法によるバルクは大型バルクとして有望であることが示された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度は,希土類組成勾配法による大型単結晶の超電導バルクの組織と機械特性との関係性を検討することを計画していて,おおむね当初の計画通りに研究が進展した.本研究の実施にあたり,大型バルク内部での組織と機械特性との関係性を正確に把握するために,試験片の採取の仕方に工夫が必要と考えていた.また,脆性材料で組成の境界を有する試験片の機械特性を適切に評価できる試験法を選択する必要があった.組成の異なるそれぞれの領域から採取した試験片や,バルク上面の組成の境界を横切るように採取した試験片を用意して,脆性材料の機械特性の評価に適用される曲げ試験のうち,試験片の内スパンにおいて最大曲げモーメントが生じる4点曲げ試験を選択して,組成の境界が内スパンに含まれるように試験片を冶具に設置して評価を行ったことで,大型バルク内部での機械特性を適切かつ詳細に把握することができ,順調な研究の進展に繋がった.さらに,機械特性評価後の試験片組織の観察においても,光学顕微鏡,走査型電子顕微鏡,エネルギー分散型微小部蛍光X線分析装置を使用して,的確に行えたと考えている.機械特性の評価においては,大気中に加えて,超電導転移温度よりも低い液体窒素温度においても行えたこと,平滑試験片を用いた破壊強度の評価に加えて,切欠きを有する試験片を用いた破壊靭性の評価も行えたことなども,順調に研究が進んだ理由に挙げられる.平成30年度以降は,組成勾配法による希土類系バルクと同様に,大型の超電導バルクとして有望なニホウ化マグネシウムのバルクを研究対象に加えることを予定していて,それに向けた準備も順調に進めることができた.
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Strategy for Future Research Activity |
今後は,大型の超電導バルクとして有望な希土類系バルクとニホウ化マグネシウムバルクの双方について,組織や機械特性との関係を比較しつつ,大型で優れた機械特性を有する超電導バルクの作製プロセスや応用機器設計の方向性について検討を進める予定である.希土類系バルクの超電導転移温度は,92 K程度と高く,液体窒素温度においても超電導特性を示すが,ニホウ化マグネシウムバルクの超電導転移温度は39 K程度と低く,応用においては希土類系バルクの方が冷却コストが少なくて済む.一方,優れた超電導特性発現のために,希土類系バルクは単結晶化を必要とすることに対して,ニホウ化マグネシウムバルクは必要としないため,大きさの限界値は希土類系バルクよりも大きいと予想される.大型バルクには,優れた機械特性が要求され,希土類系バルクと常圧での焼結により作製される一般的なニホウ化マグネシウムバルクでは,前者の機械特性の方が優れる傾向にある.しかし,ニホウ化マグネシウムバルクの作製に圧力下での焼結を適用すると,充填率が改善し(空隙が減少し)飛躍的に機械特性が改善するとされている.希土類系バルクにも結晶成長プロセスにおいて空隙(気孔)が必然的に含まれ,それが破壊の起点として機械特性低下の原因となる.希土類系バルクに関しては,気孔を排除する方法として,結晶成長プロセスを酸素雰囲気中で行う方法などが提案されていることから,本研究においては,今後,そのような気孔の排除による機械特性の改善効果や酸素雰囲気中だけではなく大気中においても気孔が排除できる作製プロセスについても検討し,応用に適した大型で優れた機械特性を有するバルクの開発を目指す予定である.
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