2017 Fiscal Year Research-status Report
セルロースナノファイバーによる鉄錆の強化と既設鋼構造物補修用塗料への応用
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17K06838
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
花木 宏修 大阪大学, 工学研究科, 招へい准教授 (20336829)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
倉敷 哲生 大阪大学, 工学研究科, 准教授 (30294028)
山下 正人 大阪大学, 工学研究科, 招へい教授 (60291960)
藤本 愼司 大阪大学, 工学研究科, 教授 (70199371)
向山 和孝 大阪大学, 工学研究科, 助教 (80743400)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 鉄鋼インフラ / 寿命延伸 / セルロースナノファイバー / 錆のナノ構造制御 |
Outline of Annual Research Achievements |
高度成長期において建設された多くの鉄鋼インフラはすでに建設から長期間を経過し,腐食による劣化が社会的問題となっている.国土交通白書では「致命的な損傷が発生するリスクが飛躍的に高まる」と警告しており,新聞紙上あるいはテレビ報道などでは,社会資本の老朽化と維持管理方法の問題点がしばしば指摘され,国民の生活の安全・安心への警告がなされている.建築から40 年以上経過している鉄鋼インフラは数多く,今後長期にわたって健全に保つための補修費用は飛躍的に増大していくことが指摘されている. 本研究では、経年劣化した鋼構造物の補修,寿命延伸を目的とした機能性塗料を開発している.開発する塗料は母材となる水溶性樹脂にセルロースナノファイバー(CNF)を分散させる.さらに,顔料として申請者らが研究してきた錆のナノ構造を制御する種々のイオンを添加する.CNF は大気中の酸素や水を鋼材表面に供給するための経路であり,同時に錆を成長させる培養地としての役割を担う.すでに錆が生成した鋼材表面に本塗料を塗布することにより,CNF を通じて供給された水や酸素,添加イオン種が鉄イオンと反応し,熱力学的に安定なゲーサイトを中心とする錆が再構築される.これにより鋼構造物の寿命延伸を図る. 本年度は,(1) 電気化学的な観点から錆の構造制御に有効な添加イオン種の選定,(2)力学的な観点からCNF 強化塗膜の試作,評価を並行して実施した.前者は既に錆が発生した鋼板に対し有効イオン種を浸漬により添加し,腐食促進試験を実施した.後者は試作したCNF 強化塗膜を試作し,これを塗布した鋼材表面における力学的特性を調査した.これらの結果から,CNFを水性樹脂に添加することにより,環境適合性が高く力学的特性に優れた強化材としての活用可能であることを明らかにした.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まず,機械攪拌によってCNFを水性樹脂中に分散させ,硬化後にSEMによる観察を実施した.その結果,作製した試料におけるCNFは三次元ネットワーク構造で均一に分散していることが確認できた.CNF添加量10 wt.%以上では,添加量の増加に伴いCNFが凝集する傾向が見られたが,最大添加量の20 wt.%においても大部分のCNFの直径が500 nm以下となることが確認できた. CNFを添加した塗膜の縦弾性率を算出した.その結果,CNF添加量の増加に伴う塗膜の縦弾性率の向上が確認できた.また,JIS K 5600に規定した方法によってCNF強化水性樹脂のせん断強さを測定した.CNF強化水性樹脂では,CNFの三次元ネットワークにより応力集中が緩和され,き裂の発生と進展を妨げる効果が発揮されることから,最大強度並びに塑性が共に向上する効果が確認できた. CNF強化水性樹脂の高湿度条件における力学的特性の変化を調査した.その結果,CNFの添加量が2.5 wt.%及び5 wt.%の試料では,湿度の影響は見られなかった.一方,10 wt.%及び20 wt.%のCNFを添加した場合,湿度によるによる強度の低下が著しいことが分かった. SAEJ2334 に規定される腐食促進試験により添加イオン種が錆の構造変化に及ぼす影響を調査した.有効イオン種にはAlを使用し,その硫酸塩水溶液に5 秒間浸漬した.走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope, SEM)観察やX 線回折(X-ray diffraction, XRD)による構造解析,電気化学的測定により添加イオンが錆の構造変化に及ぼす影響を調査した.なお,本実験(繰り返し試験)は現在も継続中である.
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Strategy for Future Research Activity |
前年度に得られた知見に基づき機能性塗料を試作し,その性能評価を実施する.とりわけ,CNF含有率は重要なパラメータであり,含有率を増やせば強度は向上するが,錆を生成する界面における水や酸素量が過剰となるトレードオフの関係になると予想されることから,最適なCNF 含有率を探索する.使用する試験片は事前に大気暴露により発錆させる。試験片を飛来塩分量の多い日本海側の海岸地帯(研究分担者が施設を所有)に3か月間事前にする.暴露後の試験片は実際の施工を想定した3 種ケレンにより表面の浮き錆や汚れを落とし試験に供する.試作した機能性塗料を大気暴露錆鋼板に塗布し,クロスカットを付与した後に腐食試験を実施する.腐食試験は大気暴露試験と複合サイクル試験(Cyclic Corrosion Test, CCT)よる加速試験を実施する.大気暴露試験は研究期間中を通じて可能な範囲で長期間実施する.所定の期間の試験後に外観観察,SEM による断面観察やXRD による構造解析を実施する. 本研究においてCNF は大気中の酸素や水を鋼材表面に供給するための経路であると同時に,錆を成長させる培養地となる.錆は酸化物であることから外力に対しては脆性的であるが,CNF 上に錆が生成することによりCNF が補強材として作用し,錆を強化可能であると考える.これらの点を実証するため腐食試験に並行して,腐食試験中の塗膜の強度および密着性を評価する. 前年度の結果から,CNF強化水性樹脂の高湿度条件における力学的特性の低下が問題となった.水系樹脂で目標性能をクリアできない場合は溶剤系をはじめとする様々な樹脂の使用も検討する.この際は,CNF の分散方法が重要となるが,これまでの構造用CNF 複合材料作製における知見を活用する.
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Causes of Carryover |
今年度は購入予定であった回転曲げ疲労試験機の購入を見送ったため次年度使用額が生じた。回転曲げ疲労試験機は塗膜の密着性評価のため購入予定品であったが,樹脂を接着剤として,接着後せん断試験によりその評価を実施した.なお,次年度使用額については新たに密着性評価試験用の治具を設計,作製するための費用とする予定である.
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Research Products
(5 results)