2017 Fiscal Year Research-status Report
多段階反応の効率化を指向した低温菌シンプル酵素触媒の構築
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17K06927
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
田島 誉久 広島大学, 先端物質科学研究科, 助教 (80571116)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 低温菌 / 酵素触媒 / 代謝酵素 / 酵素活性 / 熱処理 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は熱処理による宿主低温菌の代謝酵素の動態モニタリングと多段階反応のためのシンプル酵素触媒の構築を行った。 1.熱処理による宿主低温菌の代謝酵素の動態モニタリング 中温での熱処理による宿主低温菌の代謝酵素機能について、トリカルボン酸回路の代謝物を基質とした反応をShewanella属細菌親株において行い、その代謝産物を測定することにより代謝反応の動態をモニタリングした。各温度で熱処理した細胞懸濁液にトリカルボン酸サイクルの代謝物のうちリンゴ酸、フマル酸、クエン酸を基質として、必要に応じて補酵素等をそれぞれ添加して反応を行った。その結果、リンゴ酸からは60℃で熱処理した菌体にNADP+を添加するとピルビン酸を生じたが、NADP+無添加ではリンゴ酸の消費は見られなかった。また、クエン酸は50℃までの熱処理菌体でcis-アコニット酸に1割弱の変換が見られた。フマル酸は45℃まではコハク酸やピルビン酸にその多くが変換され、50℃ではその変換が抑制されたことが明らかとなった。したがって、リンゴ酸を基質とする変換の場合は60℃以上の熱処理を低温菌代謝酵素の失活に要するが、クエン酸やフマル酸の場合は50℃の熱処理で抑制できることが示された。 2.多段階反応のためのシンプル酵素触媒の構築 乳酸を基質としてピルビン酸、リンゴ酸、フマル酸を経由しアスパラギン酸を生成する触媒の設計を行った。しかし、上記項目1においてリンゴ酸をピルビン酸に変換するマリックエンザイムは熱耐性が高いことが推測された。そこで低温菌が有する3つのマリックエンザイムホモログ酵素を発現・精製し、その熱安定性を評価した。その結果、60℃までの熱処理では熱処理なしと同等の活性を保持しており、70℃の熱処理でほぼ活性が消失した。したがって、リンゴ酸を経由する反応系は適しないと考え、クエン酸を基質とした変換触媒の構築を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
低温菌シンプル酵素触媒が各種化学品変換への利用可能性を示すため、低温菌の代謝酵素が中温の熱処理での失活の有無を調べたところ、リンゴ酸を基質とするマリックエンザイムが中温での熱処理でも活性を保持することが明らかとなった。その一方で、フマル酸やクエン酸を代謝する低温菌代謝酵素の活性は中温での熱処理で抑えられることが示されたため、クエン酸を基質とする物質変換系に変更してシンプル酵素触媒の構築を行うこととした。当初の計画を変更することとなったが、低温菌の代謝を熱処理温度別で評価することにより、低温菌シンプル酵素触媒が適用できる変換系を見いだすことができた。以上のことから、代替となる物質変換系を設計し、次年度以降に計画している多段階変換系の効率化に関わる複数ステップの変換系を提示することができた。本変換系はクエン酸を基質とする2段階の酵素反応によるジカルボン酸を生成するものであり、それらの酵素反応の効率化が鍵となる。本年度はそれら酵素の基盤的知見を得ることができた。それぞれの変換酵素の取得と低温菌での発現を行い、各酵素の活性を確認できたことからおおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、多段階反応を効率的に行うシンプル酵素触媒の構築を進めるべく、下記項目を遂行する。 [酵素の熱安定性の評価]トリカルボン酸サイクルのうち、クエン酸を基質とした2段階の酵素反応によるジカルボン酸の生成触媒の構築を進める。構築した触媒の変換反応を行い、熱処理や反応温度の条件を検討し、収率や反応速度の最適化を行う。 [複数酵素の活性を揃えた反応の効率化]酵素活性を調節するためのプロモーターの解析を行う。2つの酵素の活性を揃えるべく、遺伝子の並びもしくはプロモーターの種類を変える。各酵素を単独で発現させて酵素活性を合わせるように細胞量を調整して変換反応を行う。さらに2つの酵素を連結させて発現させることにより、フュージョン酵素を構築し、反応場を近接させた反応効率化への寄与を検証する。まずはフュージョン酵素を連結させるリンカー配列の検討を行うことにより各酵素活性を低下させないリンカーを見いだし、複数酵素による効率的な触媒構築のための基盤的知見および技術を確立することとしたい。
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