2018 Fiscal Year Research-status Report
難水溶性物質の溶解性と経口吸収性改善に寄与する消化ペプチドの構造的要件の解明
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17K06930
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Research Institution | University of Miyazaki |
Principal Investigator |
大島 達也 宮崎大学, 工学部, 教授 (00343335)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山崎 正夫 宮崎大学, 農学部, 教授 (80381060)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 難水溶性 / 消化ペプチド / 水溶化 / 分散 / コロイド |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでに、分子量および疎水性の異なる様々な難水溶性物質と消化ペプチドとの複合体の水溶性・水分散性について調査し、難水溶性物質の分子量と疎水性が複合体の分散性を決定づける主要な因子であることを見出している。 H30年度は、複合体2つの存在形態(限外ろ過膜透過性(溶解性)/限外ろ過膜非透過性(分散性))の境界領域の物性であるインドメタシンについて、ペプチド複合体の分散状態をより詳細に評価した。その結果、ペプチド複合体の分散状態は包括する薬物の荷電状態によって変化することを見出した。さらに、カゼイン由来の消化ペプチドに含まれ、分散剤として有効な17残基のペプチドを合成し、難水溶性物質であるレチノイン酸の結合親和性について蛍光消光に基づいて評価し、会合量論比と会合定数を算出した。これらの知見は薬物分散剤となる消化ペプチドの構造的要件を明らかにするとともに、ペプチドと様々な難水溶性物質の会合体形成についての知見となる。また、消化ペプチドと複合化した難水溶性薬物の経口吸収性評価については、インドメタシンを用いて細胞膜透過性評価の予備試験を行い、吸収性改善が示唆された。今後はその再現性と条件を変えた再試験を行う予定としている。 他方、可溶化技術のサプリメント・加工食品への展開として、カゼインとの複合化によるβクリプトキサンチンの分散化について検討した。複合化によってβクリプトキサンチンの分散性が向上し、細胞膜透過性も大幅に向上することを見出した。この技術は経口吸収性を高めたい多様な難水溶性物質に応用できるものと期待され、健康機能性を高めた付加価値の高い加工食品等への応用が期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H30年度は、複合体2つの存在形態(限外ろ過膜透過性(溶解性)/限外ろ過膜非透過性(分散性))の境界領域の疎水性・分子量を示すインドメタシン・消化ペプチド複合体の水溶性・分散性を調査した。インドメタシンはカルボキシル基を有し、これが解離するとみられるpH5.6以上では複合体が完全に溶解する一方、pH5.1-5.6の領域ではコロイドとして分散することが見出され、包括する薬物のイオン性も複合体の分散状態に影響をおよぼすことが見出された。さらに、消化ペプチドと難水溶性物質との結合親和性について蛍光消光を用いた解析を行った。カゼイン消化ペプチドの構成要素であり、薬物分散剤として有用であることが確認されているβ-カゼインのC末端側の17残基のペプチド(QEPVLGPVRGPFPIIV)をFMOC固相合成にて調製し、レスベラトロールとの複合体形成に伴う蛍光の消光度の濃度依存性から両者の会合について解析することで、会合体の量論比および会合定数が算出された。当初計画していた細胞膜透過試験については、インドメタシンを対象とした予備試験を実施済みであり、次年度に、より本格的な検討を行う。 他方、サプリメント・加工食品への研究展開として、柑橘類に含まれる難水溶性物質であるβクリプトキサンチン(BCX)の分散性向上について取り組んだ。分散剤には消化ペプチドではなくカゼインを用いて複合体を調製したところ、(BCX)の分散性が広範なpHで大幅に向上することが見出された。複合化による吸収性改善について評価するため、カゼイン・BCX複合体に模擬消化処理を行い、3週間の継代培養により調製した小腸上皮モデル細胞であるCaco-2細胞膜透過試験を行った。ブランク試料ではBCXがほとんど細胞透過側に検出されなかったのに対し、複合体では効果的にBCXが透過し、複合化によって経口吸収性が大幅に向上することが示唆された。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度は、細胞膜透過試験による消化ペプチドと複合化した難水溶性物質の吸収性評価を行う。他方、より実用的な難水溶性物質の可溶化の事例として、生理活性物質の可溶化について実際の食品原料を用いた検討を行う。 経口吸収性の評価は小腸上皮モデル細胞として用いられるCaco-2細胞を用いた細胞膜透過試験を行う。難水溶性物質として、プレドニゾロンまたはケルセチンを用いる。これらは消化ペプチドとの複合化により溶解性が大きく改善することが確認されている。数週間の細胞培養により細胞膜を調製して、模擬消化処理を施したペプチド複合体および比較試料を用いて薬物透過試験を行う。さらに、インドメタシンについては既に予備試験を実施しており、再現性を含めた試験を行う。 生理活性物質の可溶化の例として、酵素処理ヘム鉄の調製条件の検討を行う。酵素処理ヘム鉄は食品由来のヘモグロビンを酵素分解して膜濃縮することで得られる、消化ペプチドとヘム鉄の複合体である。従来検討されてこなかった魚血由来のヘム鉄製剤について、原料、調製法などの比較検討を行い、ヘム鉄の細胞膜透過試験を行う。さらに、サプリメント・加工食品への研究展開として、難水溶性のカロテノイドである柑橘類由来のβクリプトキサンチン、およびトマト由来のリコピンの分散性向上について検討する。分散剤として消化ペプチドではなくカゼインを用いる。カゼインと複合化したカロテノイドの分散性を評価するとともに、模擬消化処理した複合体のCaco-2細胞膜透過性を評価する。 以上に加え、今後の研究展開を指向し、難水溶性物質分散剤となる合成ペプチドを設計してその評価を行う。このペプチドはこれまでの知見を踏まえ、難水溶性物質と相互作用して包括できる適度な親水性/疎水性バランスを備えつつ、抗がん剤等の標的指向性と刺激応答性を有するよう設計する。
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