2018 Fiscal Year Research-status Report
バイオ燃料電池に有益な機能を高度に集約した燃料電池用スーパー大腸菌の開発
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17K06932
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
東 雅之 大阪市立大学, 大学院工学研究科, 教授 (20285282)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
尾島 由紘 大阪市立大学, 大学院工学研究科, 講師 (20546957)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 微生物燃料電池 / バイオ燃料電池 / 微生物触媒 / 代謝 / MFC / 大腸菌 |
Outline of Annual Research Achievements |
バイオ燃料電池に有益な機能を集約した大腸菌の開発から、燃料電池の出力向上に取り組んできた。2017年度に構築した5重欠損株をベースにして、2018年度はさらに出力もしくはクーロン効率が高くなる株の構築を目指した。前年度からの課題として、① 5重欠損株では出力は向上するものの、ピルビン酸の蓄積が見られること ② ピルビン酸から酢酸やギ酸合成への経路がまだ残されていること ③ NADHから電子を奪いATP合成へと導く電子伝達系に関する取り組みからの改善、が残されていた。そこで、①に関してはTCAサイクルのレギュレーターと考えられているタンパク質の遺伝子arcA、②に関しては酢酸合成に関わるpoxBとギ酸合成に関わるpflBの欠損を5重欠損株に重ねてそれらの影響を調べた。しかし、これら6重欠損株では出力やクーロン効率の増加には繋がらなかった。①については、さらにTCAサイクルの回転をより良くするためにsucABがコードする酵素の過剰発現を、解糖系からTCAサイクルに入る経路を新たに導入するためppc遺伝子がコードする酵素の過剰発現を5重欠損株に導入し評価した。また③については、NADHから電子を奪い電子伝達系に電子を渡すNDHⅡの過剰発現の導入を試みた。結果として、ppc導入のみ大きな変化が見られ、野生株に比べグルコース消費が抑制され出力は低下したが、クーロン効率が50%以上まで上昇することがわかり、ピルビン酸の蓄積は解消されていた。したがって燃費上昇には優れていることが示された。さらに、③の電子伝達系を中心に、5重欠損株に重ねる遺伝子欠損について1重欠損株の評価から候補遺伝子の選定を行っている。また、負極溶液に加える物質の選定や濃度評価も行ないそこからの改善も進めており、7.5 mLの負極溶液で18時間の総出力が2389mWとこれまでの最高出力を示す結果も得られている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの検討では、1年目に候補遺伝子の欠損を重ね合わせ、18時間の総出力が1.5倍程度、クーロン効率が2.6倍程度向上した5重欠損株を構築できた。2年目では、さらなる改善を目指し、5重欠損株をベースにし新たな高出力株の構築を試みた。欠損遺伝子の導入や導入遺伝子の過剰発現を試したが、総出力が向上する株は得られなかった。しかし、総出力は低下したがクーロン効率が5重欠損株の2倍を超える株を得ることができた。また、負極構成要素の検討から総出力が1.2倍程度上昇する条件を見出した。さらに界面活性剤添加により総出力が若干増加する傾向を見出した。電子伝達系を中心に5重欠損株に重ねる候補遺伝子の検討も行なっており、すでに2つの候補が得られている。 実験開始当初の計画書に記載した①燃料取り込み能のアップ、②鉄還元菌由来の電子伝達蛋白質、③バイオフィルム形成条件の検討 ④キシロース代謝の改変 については、それに関連する予備試験の結果などから次のように判断している。①については、これまでの検討結果から、細胞へのグルコース取り込み酵素だけの問題ではなく、代謝全体の問題と考えており、現状取り組んでいる欠損株の導入により、グルコース代謝を促進し、それにより解決しようと考えている。従って現状の遺伝子変異の重ね合わせの検討を進める。②と③については、鉄還元菌由来の電子伝達蛋白質の一つを導入した時、電極にバイオフィルムを形成する傾向が見られたが、総出力が大きく低下し、一概にバイオフィルムの形成が電極への電子伝達を促進するとは考えにくいと判断した。従って、これに関する検討はペンディングにしている。④については現在のグルコース代謝の検討を優先し、その後に行うべきと考えている。 以上、予定した内容は概ね行なってきており、徐々にではあるが出力向上にもつながっていると判断し、概ね順調に進んでいると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
5重欠損株にppcを導入した株に対して、新たに重ねる遺伝子欠損もしくは遺伝子導入の検討を進める。現在は電子伝達系に関連する遺伝子を中心に検討を進めており、すでに候補として選択した有望遺伝子の重ね合わせと新たな有望遺伝子の探索を並行して行い、有望株の構築を進める。その一方で、負極溶液組成からの出力向上に向けた検討も進める。現在行なっている界面活性剤添加が出力に与える影響の評価についても継続して詳細な検討を進める。2018年度に見出した優れた負極溶液組成と界面活性剤の効果を組み合わせることでさらなる改善を検討する。また、現在は野生株を用いた検討の結果もっとも良かったメディエーターを有望株で使用しているが、新たに構築した株に適したメディエータの種類や濃度についても検討する。最後に、木質系バイオマスの利用を念頭に置き、木質系のバイオマスに多く含まれるキシロースからの発電を、グルコースで検討した有望株を用いて評価する。出力が低い場合は、キシロース代謝の改善にも取り組む予定である。
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Causes of Carryover |
物品費の一部が学内予算でカバーできたため2018年度は予定より物品費の支出が減り、126,488円が次年度使用額として残った。その分と翌年度分の予算を合わせて、最終年度に物品費として使用する。理由は、最終年度も遺伝子組換え用の試薬やプラスチック器具類など多くの消耗品が必要であると予想されるため。
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