2018 Fiscal Year Research-status Report
宇宙用駆動機器への炭素系硬質被膜の適用に関する研究
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17K06955
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Research Institution | Japan Aerospace EXploration Agency |
Principal Investigator |
松本 康司 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構, 研究開発部門, 主幹研究開発員 (10470072)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
高田 仁志 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構, 研究開発部門, 主幹研究開発員 (30358569)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ダイヤモンド被膜 / CVD / 中間層 / 熱膨張率 / 宇宙環境 / トライボロジー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,月面など真空粉塵環境下で駆動する機器のしゅう動面の信頼性を確保するための耐摩耗性被膜を見いだすことを目的としている.月惑星探査では,真空粉塵環境下で使用できる駆動機器を開発する必要があり,そのしゅう動部には,対粉塵用の耐摩耗性の優れた硬質被膜が必要となる.これまでの研究でCVD ダイヤモンド被膜が優れた潤滑性・耐摩耗特性を示すことが分かっているが,CVD ダイヤモンド被膜は熱膨張率の違いから一般的に宇宙用に使われている金属材料の表面に成膜することが難しく,宇宙用としては実用にいたっていない.この問題を解決するため,適切な中間層材料及びその成膜方法を見つけ出すことおよびCVDダイヤモンドの成膜条件を最適化することが重要となる. 昨年度までに,宇宙用として一般的に使われている金属基板材料に対して,スパッタリングや溶射による5種類の中間層候補を抽出し,成膜に成功している.今年度はその中から,高温でのCVD成膜に耐えられるチタン合金,ニッケル合金の基板上に成膜した中間層(計5種類)の上に,CVDダイヤモンド被膜の成膜を試みた.比較試料として,3種類のセラミックス基板表面への成膜も試みた.一部の試料については,中間層との界面または基板との界面からの被膜のはく離が見られたが,数種の中間層を有する金属基板もしくはセラミックス基板に対してCVDダイヤモンド被膜の成膜に成功した.ラマン分析からも,その被膜がダイヤモンド被膜であることが確認できている. ダイヤモンドの成膜が確認できた試料に対して,真空中で数種の相手材による摩擦試験を実施した.結果として,ダイヤモンド被膜の耐摩耗性は良好であること,一方で,相手材によっては相手側の摩耗が多く,摩擦係数も高くなることなどが分かった.相手材も含めて,ダイヤモンド被膜を宇宙用機器に適用するための最適化を目指した試験を継続して実施している.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
中間層を施した金属基板へのCVDダイヤモンド被膜の成膜については,当初予定していた通り,数種の金属基板材+中間層の組み合わせに対して成膜に成功しており,ラマン分析からもダイヤモンドの存在が確認できている.成膜に成功したダイヤモンド被膜に対する真空中のトライボロジー特性の評価においては,数種の相手材に対する摩擦・摩耗特性データが取得できており,被膜自体の耐摩耗性は確認できている.相手材の種類によっては,相手材側の大きな摩耗が確認されているが,宇宙用機器への適用に当たっては,相手材の選定などにより解決が可能な見込みである. これまでに,中間層の選定における熱膨張率を考慮した密着性に関する知見やCVDダイヤモンド成膜における条件選定に関する知見が得られている他,成膜に成功したCVDダイヤモンド被膜の表面分析や摩擦試験によるトライボロジー特性データなど多くの知見・成果が得られており,今後,国内外での学会発表を予定している.
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに中間層を有する金属基板上へのCVDダイヤモンド被膜の成膜に成功した試料に対する,相手材を変えた真空中のトライボロジー特性評価試験を継続して実施し,相手材を含めた最適の組み合わせを見つけ出す.合わせて,荷重や温度を変えた試験を実施して,摩擦や摩耗等のトライボロジー特性に対するそれら環境因子の影響を評価する.また,ナノインデンターを用いた硬さ測定などによる機械特性の把握や表面観察・分析による被膜表面の状態の把握を行う. 同じCVDダイヤモンド被膜でもいくつかの成膜方法が存在する上,装置や成膜条件によっても被膜の特性が異なる可能性がある.そのため,異なる装置での成膜の可能性についての調査と調整を継続して行い,新たな装置もしくは成膜条件により,これまでに抽出・製作した中間層を有する金属基板へのCVDダイヤモンド被膜の成膜を試みる.それらに対するトライボロジー特性,機械特性の評価を行い,これまでに成膜したCVDダイヤモンド被膜の試験結果との比較から,装置や成膜条件による被膜の特性への影響を把握する. これまでに得られた知見・成果については,トライボロジー特性評価試験データや表面分析データをまとめて,国内外の学会にて発表を行う.
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Causes of Carryover |
CVDダイヤモンド被膜の成膜に成功した中間層を有する金属基板試料に対する摩擦試験結果を踏まえ,更なる中間層材料の抽出やCVDダイヤモンド被膜の新たな成膜条件や装置を設定する予定であった.一方で,CVDダイヤモンド被膜のトライボロジー特性評価にあたって,真空中で相手材を変えた摩擦試験を実施したことにより,多くの試験日数を要した.新しい被膜の成膜には長期間を要することから,年度内の納品が難しく,翌年度に改めて成膜をすることとした.
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