2017 Fiscal Year Research-status Report
Development of digital oil for asphaltene aggregation
Project/Area Number |
17K06988
|
Research Institution | Fukada Geological Institute |
Principal Investigator |
松岡 俊文 公益財団法人深田地質研究所, その他部局等, 主席研究員 (10303851)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | デジタルオイル / 石油増進回収技術 / QMR法 / 分子動力学 / 重質油 / アスファルテン |
Outline of Annual Research Achievements |
重質油はコールタールの様に常温・常圧の環境の下では流動性が非常に低い炭化水素であり、その粘性を下げ流動性を高めるために、スティームを貯留層に圧入することや、化学溶剤の付加を行う石油増進回収(EOR)技術により生産されている。本研究の目的は、スティームや溶剤の利用による生産効率の増進を進めるために、その検討に必要となる重質油を構成している炭化水素の分子構造を明らかにすることである。 デジタルオイルとは実験に基づいて作成する原油の分子モデルのことであり,このモデルに対して分子シミュレーションを適用することで任意の温度圧力条件下での原油物性の予測が可能である。さらに原油/溶剤界面近傍における分子挙動を観察できることから,EORに適した溶剤の選定などを分子レベルの現象に基づいて検討することができる。 重質油のデジタルオイル構築にあたっては,軽質油に対して利用されているデジタルオイル構築手法を拡張した。具体的には原油を飽和分,芳香族分,レジン分,アスファルテン分に分離した後,全留分に対してQMR (Quantitative Molecular Representation)法を適用して分子モデルを構築した。QMR法とは,元素分析,平均分子量測定,核磁気共鳴分光法の実験結果に基づき,対象物の平均構造を有する代表分子集合を作成する手法である。今回は飽和分への適用を可能にした手法を用いた。さらに,QMR法で作成された代表分子のセットを複数組み合わせることで,平均分子量だけでなく分子量分布も再現した。この結果は測定値とよく一致した。最終的に36種類,917個の分子から成るデジタルオイルが構築出来た。分子動力学法による密度の計算では,288 K・0.1 MPaにおいて0.943 g/cm3となり,実験値の0.954 g/cm3とよく一致した。このことから密度に関するモデルの妥当性が示唆された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、本研究の1年目に当たり、研究推進のための環境整備に重点が置かれた。具体的には分子動力学のシミュレーションと解析が可能になる計算機環境を新しく構築するのに、予算と時間を費やした。これらの計算環境の整備には、連携研究者の石塚師也博士(北海道大学)の協力と助言に従って進めた。計算機の選定に関しては、前処理と解析結果の表示用のPCと、大量のシミュレーションを実行するGPUが搭載されてPCとが必要となり、当初よりも経費が増大した。研究推進上最も重要な原油試料となる重出油に関しては、石油資源開発(株)から試料の提供を受け、利用させてもらった。この原油試料は連携研究者のLiang Yunfeng博士(東京大学)及び産業総合研究所の森本正人博士の協力を得て、産業総合研究所所有のクロマトグラフィーを利用し、分析を共同で進めることが出来た。このため試料分析の外注作業は必要なくなった。これらの測定データを元にQMR法の適用を進めた。 今まで重出油に対するQMR法の適用例は見当たらない。この理由は、重質油成分に含まれている飽和炭化水素成分(アルカン)に存在する異性体の取り扱いが出来なかった為である。この課題に関してQMR法の適用法の改良を検討した。その結果解析プログラムの中に、これらの異性体を取り込んでモデル形成を進める事により、異性体の問題点は解決出来るという感触を得たので、これらを取り扱えるプログラム開発を、Liang Yunfeng博士の協力を得て共同で進めた。その結果、重出油に対しても充分計測データによく一致する合理的なデジタルオイルが作成できたと考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度は研究の2年次であり、引き続き分析手法の検討と、デジタルオイルの作成法であるQRM法の改良の可能性に関して研究を進める。原油試料の化学分析方法の改良検討として、より精度の高い化学分析手法と考えられているソフトレーザー脱離イオン化質量分析法の利用を検討する。この装置は一般財団法人石油エネルギー技術センターが所有しているため、同技術センターの豊岡義行統括リーダー、及び出光興産の田中隆三博士の協力を得て、同装置による化学分析性能向上の可能性について検討を進める。デジタルオイルの利用は最終的には原油の生産時におけるEORの検討や、アスファルテンの生産障害回避法の検討が大きな適用例になると考えられる。このため最終的な利用現場からの視点により、原油の化学分析手法のコストパフォーマンスも含めて検討を進める。 QMR法の改良に関しては、この手法が利用しているモンテカルロ法について、逆問題の解法という視点から検討を進める。近年、一般的には逆問題の解法は深層学習という手法によって解くことも多く、この手法との関連性に関して調査を進める。さらにモデルになる候補としての炭化水素分子モデルの効率的な作成方法や解法に関して検討を行う。また遺伝的アルゴリズムの導入が可能かどうかを考える。もしもこのような手法の採用が可能になれば、計算時間が大幅に削減される可能性が生まれる。さらに作成されたデジタルオイルを基にして進められる分子動力学によって得られる物性値として、密度、体積弾性率、粘性、熱容量などの値に関しても実験値との比較検討も進める。
|
Research Products
(10 results)