2017 Fiscal Year Research-status Report
イオン照射下での格子間原子集合体の一次元運動機構の解明及びモデリング
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17K07021
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Research Institution | Japan Atomic Energy Agency |
Principal Investigator |
阿部 陽介 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力基礎工学研究センター, 研究副主幹 (50400403)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大久保 成彰 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力基礎工学研究センター, 研究副主幹 (60391330)
佐藤 裕樹 広島工業大学, 工学部, 教授 (20211948)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 格子間原子集合体 / 一次元運動 / カスケード損傷 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度は、実機環境の模擬のために必要なカスケード損傷の影響を調べるため、量子科学技術研究開発機構・高崎量子応用研究所において、自己イオン照射下での電子顕微鏡その場観察実験を行い、購入した高感度カメラを用いた高純度鉄における格子間原子集合体の一次元(1D)運動挙動の動画撮影及びデータ解析が可能であることを確認した。カスケード損傷の影響を明らかにするため、我々がこれまでに行ってきた点欠陥のみが生成されるシンプルな電子照射下での格子間原子集合体の1D運動挙動との比較を行い、(1)電子照射下と同様に、イオン照射下においても1D運動が起こり、電子照射の場合と同じデータ解析手法が適用できること、(2)電子照射下と同様に、ビーム強度が高いほど1D運動の頻度が高いこと、が示唆された。次年度以降は、これまでの電子照射実験で明らかにした格子間原子集合体の1D運動機構がカスケード損傷下でも成り立つか検討を進める。 また、モデリングの観点からは、当該年度はカスケード損傷下での格子間原子集合体の1D運動機構のモデル化を見据えて、電子照射下での点欠陥反応に関する従来の反応速度論モデルに対して、格子間原子集合体の1D運動挙動をモデル化するとともに反応速度論コードに実装した。このモデルに基づく数値計算により、高純度鉄において成長する格子間原子集合体の数密度は、従来モデルに比べて約一桁低下し、実験データにより近い値を予測することが可能であることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度に予定していた、侵入型不純物濃度を系統的に変化させた鉄試料に対してイオン照射下での電子顕微鏡その場観察を行い、カスケード損傷下での格子間原子集合体の1D運動挙動への影響を検証する段階までは到達していないものの、本申請者らが以前から電子照射下での電子顕微鏡その場観察で研究実績のある純鉄試料を用いることにより、電子照射と同様にイオン照射下においても1D運動が起こり、電子照射の場合と同じデータ解析手法が適用できることや、1D運動の頻度がビーム強度に依存することなどの共通点を見出した。また、試料作製時に必要な熱処理によって何らかの不純物が導入され、格子間原子集合体の1D運動がほとんど起こらなくなるという問題が生じたものの、還元雰囲気中での熱処理によってこの問題が解決できることを見出したことは、今後の研究進展にとって重要な成果である。一方、当初の計画では、カスケード損傷下での格子間原子集合体の1D運動機構のモデル化は次年度以降に実施する計画であったが、当該年度に前倒しで開始した。電子照射下での格子間原子集合体の1D運動挙動のモデル化及び反応速度論コードへの実装が概ね終了し、カスケード損傷の影響のモデル化を速やかに行える状況にある。以上のように実施順序が入れ替わった項目はあるが、当初予期していなかった問題が解決された点やこれまでに得られた結果の内容から判断して研究は着実に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、様々な不純物原子の濃度を系統的に変化させた試料を作製し、イオン照射下その場観察実験により、格子間原子集合体の1D運動挙動と成長挙動に対するデータベースを構築する。これにより、カスケード損傷下での格子間原子集合体の1D運動に与える不純物の影響を実験的に検証する。これと並行して、カスケード損傷により直接形成される格子間原子集合体の1D運動に基づく反応過程のモデル化を進め、反応速度式によるミクロ組織変化の予測計算を行う。格子間原子集合体の成長挙動データとの比較によりモデルの妥当性を検証する。
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Causes of Carryover |
当該年度の使用を予定していた試料作製用消耗品一式のうちの一部を既存の試料で代替できたことから次年度使用額が生じた。次年度以降は、様々な不純物原子の濃度を系統的に変化させた合金試料を作製する必要があり、そのために必要な高純度母材の購入及び不純物分析料金としての使用を検討する。
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