2017 Fiscal Year Research-status Report
転写因子の性特異的な切断によるショウジョウバエ脳神経系の性分化機構の解明
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17K07040
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
佐藤 耕世 東北大学, 生命科学研究科, 助教 (40451611)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 脳 / 神経 / 性差 / ショウジョウバエ / 性行動 / 転写因子 / Fruitless / ユビキチン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、キイロショウジョウバエ脳神経系の雄化因子Fruitless (Fru)が、その存在によって性行動を制御するニューロンの一群に性差を作り出す仕組みを解明することを目的としている。研究代表者は昨年度までに、Fruの転写コファクターとしてlola遺伝子が産生するスプライシング派生体(いずれもFruと同じくBTB-Zn-finger型の転写因子)の一つLola isoform Qを特定し、この分子がFruと共に脳神経系の雄化に関与すること、Fruタンパク質が産生されない雌の脳神経系ではLola isoform Qタンパク質がプロテアソームによる部分的な分解(切断)を受け、N末端側の配列を欠く短いフォーム(Lola29F)を生み出し、それが雌化因子となることを示す結果を得ていた(研究代表者、未発表)。Lola isoform Qタンパク質の切断は、Fruタンパク質の存在下では抑制される。今年度は、Fruタンパク質によるその機構を解析した。以下に示す結果をもとに、Fruタンパク質がもつBTB/POZドメインを介したLola isoform Qとの物理的相互作用が、Lolaの切断イベントを阻害することが示唆された。BTB/POZドメインを持たない(したがって、Fruタンパク質と結合できない)変異型のLola isoform Qタンパク質をショウジョウバエのS2細胞株に発現させたところ、この変異型のLolaタンパク質は、たとえFruタンパク質の存在する条件であっても、切断産物(Lola29Fタンパク質)を産生した。また、この変異型Lola isoform Qタンパク質がFruと結合しないことについても、共免疫沈降実験によって確認した。これらの結果は、FruおよびLola isoform Qタンパク質が、お互いが持つBTB/POZドメインを介して結合し、それがLola isoform Qタンパク質のN-terminalデグロン(分解シグナルとなるLysine残基)を覆い隠すこと、この仕組みが切断を阻害しLola29Fタンパク質の産生を阻害する脳神経系の性分化スイッチとなることを示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Fruタンパク質との物理的な結合によって、Lola isoform Qタンパク質が切断から免れ、それによってLola29Fタンパク質の産生が雄で抑制される機構が具体的に解明されたため。これまで転写因子と推定されてきたFruが転写制御に依らない機構によって脳神経系の性分化を制御するスイッチとなることを示す初めての報告となるものと期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
Lola isoform Qタンパク質の分解をN末端部構造に留め、C末端部構造を分解から守る制御機構を解明する。研究代表者は、fru発現細胞内で起こるこの現象が、ショウジョウバエの培養細胞株S2でも起こることを見出している。これを利用して、ゲノムワイドなスクリーニングを行う。Drosophila RNAi Screening Center (ハーバード大学)のGenome-wide RNAi Library (DRSC2.0)を用い、特定遺伝子をターゲットとするdsRNA をLola isoform Qタンパク質の発現ベクターと共にS2細胞に導入し、それによって切断産物(Lola29F)の産生を抑制あるいは亢進する遺伝子を明らかにする。特に、ユビキチン・プロテアソーム経路の構成遺伝子やその制御遺伝子の関与が推察されるため、E1、E2、E3ユビキチンリガーゼや、基質タンパク質の認識に決定的な役割を担うF-boxタンパク質に着目し、in vivoでの表現型解析についても行う。上記の実験と平行して、切断前のLola isoform Qタンパク質と物理的に相互作用するタンパク質群についても網羅的に解明する。雄あるいは雌の脳神経系から、Lola isoform Qタンパク質をAnti-Lola isoform Q特異的な抗体によって免疫沈降し、沈降物を質量分析(HPLC-MS/MS)に供する。この免疫沈降実験では、脳内に内在性に発現するLola isoform Qや、このタンパク質のN末端部およびC末端部をそれぞれタグ標識した改変型をfru発現ニューロンに発現させ、それを上記の質量分析に供する。
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Research Products
(6 results)