2017 Fiscal Year Research-status Report
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17K07066
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
柳原 真 東京大学, 大学院総合文化研究科, 特任研究員 (60392156)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 腹側被蓋野 / 社会的報酬 / ドーパミン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、「社会的つながりが形成された親鳥の存在が、学習個体である幼鳥の注意・動機づけを高めることにより学習を促進する」との仮説を実験的に検証することである。そこで中脳のドーパミン神経に着目し、腹側被蓋野VTAのニューロンが親鳥の存在や歌声に対してどのような応答を示すかについて独自に確立した自由行動中の神経活動計測の手法を用いて検討した。その結果、幼鳥のVTAには、スピーカーから再生された親鳥の歌声を単独で聴く場合に比べて、実際に親鳥が存在する文脈で同じ歌を聴く際により強く応答するニューロンが存在することを見出した。さらに、実際に親鳥が幼鳥へ向けてさえずりをおこなった場合に顕著な応答を示すニューロンが存在することも見出した。これらの細胞とは顕著に異なる高頻度の自発発火を示す一群のニューロンのなかには、親鳥の歌を聴いた時に活動を低下させる細胞も見つかった。このニューロンも親鳥が実際に存在する条件下でより強い活動の低下を示した。これら親鳥の歌に対して応答したニューロンは、幼鳥が実際にさえずりをおこなう際には活動に変化を示さなかった。キンカチョウの幼鳥は、親鳥から直接歌を聴く場合には正確に歌を学習できるのに対して、スピーカーから提示されただけの歌を聴いてもうまく学習できないことが知られている。学習期における幼鳥のVTAには親鳥の歌や視覚的特徴といった社会的報酬に相当すると考えられる刺激に応答するニューロンが見出されたことから、これらニューロンが幼鳥の歌学習に対する動機づけを制御し歌の記憶形成に関わると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画通り幼鳥の腹側被蓋野VTAから神経活動を計測した結果、親鳥の歌を聴く行動文脈の違いに応じて異なる応答を示すニューロンを見出した。この知見は聴覚記憶形成の神経機構を明らかにする上で重要な手がかりとなる。よって、本研究は当初の計画通り順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度以降は、引き続きVTAの神経活動計測を続け、既に見出した現象の再現性をまず確認する。高次聴覚野にはドーパミン受容体が存在することは既に報告されているが、VTAから直接投射が存在するかどうかは不明である。VTAから聴覚野への解剖学的結合の同定を試みる。さらに、薬理実験と神経活動計測実験を組み合わせ、聴覚野の神経活動がドーパミン拮抗薬で修飾されるかどうか検討する。VTAの刺激が聴覚野の神経応答を修飾するかどうかも検討し、刺激と歌の提示を組み合わせた実験によって親鳥の存在がなくても歌学習が可能かどうか検討する。これら一連の実験を通して、ドーパミン神経が音声模倣学習に果たす機能を明らかにする。
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Causes of Carryover |
本年度におこなった電気生理実験に必要な物品はすべて購入したが、当初の予想よりも支出が低く抑えられた。従って、次年度以降に新たに開始する実験で使用することが適切と判断した。
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Research Products
(1 results)