2018 Fiscal Year Research-status Report
履歴依存的な神経応答修飾によるさえずり配列の符号化
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17K07067
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Research Institution | Okinawa Institute of Science and Technology Graduate University |
Principal Investigator |
荒木 亮 沖縄科学技術大学院大学, 臨界期の神経メカニズム研究ユニット, スタッフサイエンティスト (60649078)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 形態学的神経細胞分類 / 細胞内記録法 / 脳透明化 / 形態計測 |
Outline of Annual Research Achievements |
人の発話を始め、多くの音声コミュニケーションは、断続的な発声を介して行われる。しかし、発声に対する神経応答が、発声の配列によってどのように修飾され、配列情報の表現に寄与するのか、明らかでない。キンカチョウは、短い発声(シラブル)の連なりからなる歌を親から学ぶ。本研究は、シラブルの音響学的特徴に応答するLF神経と種特異的な歌のリズムに応答するHF神経が、シラブルの時間的配列によっていかにその応答が修飾されるのかを調査し、その応答修飾が音声配列の符号化に果たす役割を明らかにすることを目指す。 聴覚野に見出だしたLF、HF神経は、未だ形態学的な細胞同定がなされていない。前年度では、ウイルスベクターを用いて聴覚野神経に蛍光タンパクを発現させたキンカチョウの脳を透明化、大規模三次元蛍光画像を取得し、聴覚野神経の形態学的分類を行った。また、細胞内記録法で確認したLF、HF神経に細胞内トレーサーを導入し、脳薄切片上で形態を計測、その特徴を聴覚野神経の形態的分類と比較することで、LF、HF神経の形態学的同定を試みた。しかし、いずれの神経も樹状突起が切片の厚みを超えて大きく広がっており、薄切片上では形態計測が非常に困難であることが分かった。 そこで、平成30年度では、細胞内記録後に導入したトレーサーを透明化脳内で可視化する手法の開発を行い、膜電位応答記録を行った神経細胞の形態計測を、突起を切断することなく行うことが可能となった。また、聴覚野神経の大規模三次元蛍光画像データを基に、形態学的な細胞分類を推し進め、興奮性神経が形態学的に3つの大きなクラスターに分かれ、それぞれ異なる神経投射パターンをもつ神経細胞を含有することが明らかとなった。ここで確立した実験技術は、他の脳領域においても適用可能であり、神経の機能・形態・投射先解析の新たな実験基盤となることが期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
細胞内記録法を用いて、聴覚刺激に対するLF、HF神経の膜電位応答が刺激の配列によってどのように修飾されるのかを明らかにするためには、機能的分類に基づくLF、HF細胞が、それぞれ単一の細胞型からなるのか、スパイク応答パターンが類似した複数の細胞型を内包するのか、形態学的に同定し、応答修飾がそれぞれの細胞型において異なる特徴を持つのか、検討する必要がある。 当初、細胞内記録後LF、或いはHF神経に細胞内トレーサーを導入し、脳薄切片を作成後、トレーサーの蛍光標識を行って細胞形態の三次元蛍光画像を取得し、そこから同定に必要な形態計測を行うことを予定していた。しかし、多くの樹状突起が切片作成の際に切断されており、神経の情報処理と密接な関係がある樹状突起の分枝パターンをそこから適切に計測することが難しいことが分かった。 一方、アデノ随伴ウイルスベクターにより蛍光タンパクを聴覚野神経に発現させ、脳サンプルの透明化処理後、光シート顕微鏡を用いて得た大規模三次元蛍光画像からは、数百ミクロンを超えて広がる樹状突起と、広範囲に広がる軸索投射を同時に計測することが可能であった。 そこで、透明化処理を行なった脳サンプル内で、細胞内記録後導入した細胞内トレーサーを蛍光標識する実験手法を確立した。同時に、標識された細胞を含む脳領域を透明化処理後に同定するため、キンカチョウの三次元脳地図を作成、脳地図の透明化脳への画像レジスタレーションに必要なプログラムの整備を行った。さらに、大規模画像データ処理のためのデータ保存領域の確保と、画像処理用ワークステーションの立上げ等、形態学的細胞同定に必要なツールを整えた。これらの準備のため、膜電位応答記録実験の進捗が遅れ、逆相関法を用いた聴覚応答特性モデルの作成と、これを用いた配列依存的な応答修飾の解析について、当初予定したよう進めることができていない。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度では、LF、HF神経の形態的同定を進めるために必要な実験技術、及びデータ解析用ツール群を整えることが出来た。今後は、聴覚刺激に対する膜電位応答から、逆相関法を用いて聴覚応答特性モデルを導出し、刺激の配列によって線型的な刺激と応答の関係がいかに修飾されるか、モデルによる応答等予測と配列刺激に対する実際の応答を比較することで、修飾の条件を明らかにしていく。 応答の修飾には抑制性神経がシラブルの配列や時間的配置に依存して興奮性入力と拮抗して働くことで起きると予測している。そこで、アデノ随伴ウイルスベクターを利用して、光活性化チャンネルを選択的に抑制性の聴覚野神経に発現させ、細胞内記録中に光遺伝学的な神経活動操作を行うことで、履歴依存的な応答修飾の生理メカニズムの解明を試みる。
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Causes of Carryover |
平成30年度では微小ガラス管電極による細胞内記録法と光遺伝学的な神経活動の操作を両立させるための実験器具の開発を行うことが出来ず、光刺激用のレーザー発振装置の購入を見送ったため、当初予定した使用額に至らなかった。次年度使用額は、引き続き行う細胞内記録実験、形態学的な細胞型の同定実験に加えて、光遺伝学的操作に必要な装置の開発とレーザー刺激様装置の購入に使用する予定である。
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