2018 Fiscal Year Research-status Report
中脳をモデル系とした新規神経細胞発生及び移動様式の解明
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17K07071
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Research Institution | National Center of Neurology and Psychiatry |
Principal Investigator |
有村 奈利子 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, その他部局等, 外来研究員 (20420375)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 中脳神経細胞 / 細胞移動 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、「多様に分化した神経細胞がいかにして個々の機能すべき場所に移動し、停止するか」を、進化の最初期に発達する中脳をモデル系として、現象論からその分子機構まで明らかにすることである。私は先行研究にて、(1)膜分子DscamとRapGEF2/Rap1が神経細胞移動開始のスイッチとして機能すること、 (2)早期発生神経軸索が後期神経細胞移動をトリガーする可能性、(3)新規の神経細胞移動様式、を見いだした。中脳神経細胞を解析する事で、新規且つ普遍的な神経細胞移動の仕組みを理解できると考えられた。本研究では(I)タイムラプス観察による中脳神経細胞の「多様な」移動様式の解明、(II)「同時期同領域」で多様に分化する中脳細胞の遺伝子発現解析、を通して、上記命題を明らかにする。当該年度の研究実績としては、多様に分化する中脳細胞の遺伝子発現解析として、まずは、大脳、小脳で知られているマーカー分子の発現パターンを中脳で包括的に解析した。そして新たな中脳神経細胞の分裂、分化様式を提案した(Genes to Cells, 2019)。中脳神経細胞の発生は大脳皮質のそれと類似しているが、分裂細胞の位置が脳室面に限局しintermediate progenitorが存在しないことや、pro-neuronal markerとして知られているマーカーが、中脳ではpost-mitoticに発現することなど、大脳皮質との決定的な違いが明らかとなった。これらについては論文にまとめ受理された。さらに、中脳神経細胞で興奮性細胞特異的promotorを使用して、神経ラベルを行い、その特徴的な細胞移動様式が大きく3タイプに別れることを見出した。これらを用いて現在、神経細胞移動制御機構の論文を投稿準備中であり、研究成果は順調に上がっていると言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前述の通り、当該研究分野における最大の難点は、中脳神経細胞発生時におけるマーカー分子の不在であった。私はこれについて、まず他の領域で知られている一般的な分子マーカーを利用して、中脳発生における各種細胞の分布をその細胞分裂や成熟の程度などを指標に詳細に調べ、論文にまとめ報告した(Genes to Cells, 2019)。本研究成果の中で特に以下の2点を明らかにした:1)神経前駆細胞は発生期の背側中脳脳室側に厚い脳室帯を形成しているが、分裂細胞は脳室面に限局して存在し、興奮性、抑制性神経細胞が同時期同領域から分化することを見出した。2)大脳皮質においてpro-neuronal markerとして知られているマーカーが、中脳ではpost-mitoticに発現しており、神経分化に関与するとされている分子の新たな機能が示唆された。これらは、当該研究の発生期中脳神経細胞の包括的理解をさらに深めたと考えている。さらに、次年度は、本研究実績をもとに、Dscamに関する新たな論文の投稿を予定している。したがって、本研究課題は大きく目標に向かって進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに研究代表者は、中脳脳室面において、興奮性および抑制性神経細胞が、同時期同領域で多様に分化することを明らかにしてきた。次年度は本研究実績をもとに、Dscamと中脳神経細胞移動に関する新たな論文の投稿を予定している。これらの研究をさらに掘り下げ、中脳神経の遺伝子発現解析について特に研究を推進する。特に個々の神経細胞のトランスクリプトーム解析と細胞(種)間比較を行う。まずは、「神経幹細胞」を対象に個々の細胞のトランスクリプトーム解析をおこなう。中脳神経細胞は胎生期(E)9.5からE15.5までの間に分化する。この期間 に子宮内電気穿孔法により蛍光遺伝子を胎児中脳の脳室面に導入する。これにより胎児脳の分裂中の神経幹細胞をラベルする事ができる。FACS等を用いて、RNAを増幅、回収する。それらをマイクロアレイもしくはRNAseqにかけて、RNAのトランスクリプトーム解析を行う。得られた個々の遺伝子発現量データを用いて細胞(種)間比較を行い、既知の遺伝子発現をベースに細胞種を同定、分類する。次に、中脳神経細胞のマーカー分子の確立を行う。上記で同定した、各細胞で特徴的に発現する遺伝子について、免疫染色等を行い、特定の発生段階で特定の領域にのみ発現する因子をマーカー分子として同定する。これら分子の機能解析を(II)-(2)にて行う。 本研究により、中脳神経細胞の発生と機能的分化を包括的に解明する事が期待できる。
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Causes of Carryover |
トランスクリプトーム解析を行う予定であったが、サンプル準備の不具合があり調整の条件設定を慎重に行ったため、解析を次年度に持ち越した。
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Research Products
(5 results)