2018 Fiscal Year Research-status Report
脳領域形成の種間比較による視神経オリゴデンドロサイト前駆細胞の出現機構の解析
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17K07079
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Research Institution | Kyoto Prefectural University of Medicine |
Principal Investigator |
小野 勝彦 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (30152523)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | オリゴデンドロサイト前駆細胞 / 視神経 / 視索前野 / Olig2 / PDGF受容体α / ソニックヘッジホッグ / 細胞移動 / Patched |
Outline of Annual Research Achievements |
申請者は、視神経オリゴデンドロサイト前駆細胞の起源領域が、マウスでは視索前野であるのに対しニワトリでは視交叉上領域であることを示し、種差がみられることを明らかにした。この種差はどのようにして生まれたものかを明らかにするため、(1)あらたにスッポン胚を実験材料として種間比較を行う、(2)視神経を構成する細胞の微細形態に種差は見られるのか、を解析している。 ニワトリ胚やマウス胎仔で使っていた細胞マーカーをスッポン胚の脳に用いて、形態学的に調べた。オリゴデンドロサイト前駆細胞のマーカーとしてはOlig2とPDGFRαを用いている。スッポンのOlig2-mRNAを発現している細胞は、マウスやニワトリで用いてきた抗Olig2抗体に陽性を示すことから、この抗体がスッポンでも使えることが分かった。また、Olig2に陽性を示す細胞は同時にSox10やPLPに対する抗体にも陽性を示すことから、スッポンにおいてもOlig2陽性細胞がオリゴデンドロサイト系譜の細胞であることも分かった。この他、マウスやニワトリ胚で用いていた分子のスッポン相同分子のcDNAからクローニングした。 スッポン胚の前脳基底部では、Olig2陽性細胞はE15ごろから前脳基底部で側脳室腹側部周囲の脳室層に出現し、E19ごろから視交叉上領域にも出現する。一方、PDGFRα陽性細胞はE19ごろから第三脳室前端部で視索前野に相当すると思われる領域の周辺に出現した。しかし、これらの領域ではPDGFRα陽性細胞は出現しなかった。つまり、視交叉上領域のOlig2陽性細胞はPDGFRα陽性を示さないことが示唆された。これまでの結果から、スッポン胚の前脳基底部でのオリゴデンドロサイト前駆細胞の出現領域は、マウスとニワトリの両方の特徴持っていることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
おおむね順調に進行しているとした理由は、(1)スッポン前脳基底部でのオリゴデンドロサイト前駆細胞の出現領域の候補部位が示唆された点、(2)それがマウスとニワトリとの両方の特徴を兼ねている点、があげられる。さらに(字数の関係で上記でには記載していないが)(3)三種類の動物で共通する点として、Shhの受容体であるPtd-1の発現している領域に由来することが示唆されている。 まず、(1)と(2)に関して、スッポンがマウスとニワトリの共通の特徴を持っていることには、進化や種分化の過程でいずれか一方のみを残して他方を失ったという可能性が考えられる。「種差がどう生まれたか」という問いに一定の考察ができるものと考えられる。 Shhがオリゴデンドロサイト前駆細胞を誘導することは、ニワトリ胚などを用いた実験から明らかにされており、また分化に必須の転写因子であるOlig2がShhに誘導されることからもわかっている。この点が、動物種を越えて保存されていることは、予想されてはいたが、(3)の結果から実際に明らかにできたことは大きな成果である。 脳の領域形成の視点からは、視索前野に注目している。マウスでは視索前野は転写因子Hmx3やHmx2を発現していることが報告されている。これらを、in situ hybridizationにより調べた。いずれの動物でも視索前野と思われる領域で発現していた。マウスでは、上述の通りHmx2陽性領域からオリゴデンドロサイト前駆細胞の出現がみられる。しかし、ニワトリ胚ではHmx3陽性領域からはオリゴデンドロサイト前駆細胞の出現は見られない。スッポンにおいては、Hmx3陽性領域から少し離れたところから出現する。領域形成の点からも、スッポン前脳基底部におけるオリゴデンドロサイト前駆細胞の出現領域は、マウスとニワトリの両方の特徴を持っていると言えた。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、(1)オリゴデンドロサイト前駆細胞のマーカー発現における多様性の問題、(2)領域形成と誘導シグナルの関連、(3)超微細形態上の相違点、調べていくつもりである。 (1)について、スッポンでは視交叉上領域にOlig2陽性細胞は出現するもののPDGFRα陽性細胞は出現しない。一方で、視索前野にはPDGFRα陽性細胞が出現し、同時にOlig2陽性細胞も認められる。領域によりオリゴデンドロサイト前駆細胞にsubpopulationがあるのかどうか、さらにはPDGFRαがオリゴデンドロサイト前駆細胞のマーカーと言っていいのかなどに注目する。 (2)については、Hmx転写因子の発現とShhおよびその受容体のPtd1の発現との相関を調べ、領域形成に対するシグナル分子の関わりとオリゴデンドロサイト前駆細胞の出現についてみていく。 (3)について、新生児マウス(生後4日目)の視神経に見られるオリゴデンドロサイト前駆細胞の微細形態は既に解析している。今年度は、これをスッポン胚視神経のそれとを比較することを計画する。ABiSの支援を受けている。
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Causes of Carryover |
昨年度で、Olig2欠損マウスと野生型マウスとの遺伝子発現解析の比較解析を外注する予定であったが、マウスの準備が整わず、できなかった。今年度は、この解析を行う予定である。
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