2018 Fiscal Year Research-status Report
タウオパチー神経変性疾患に特異的なタウのリン酸化解析と発症因子の解明
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17K07113
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Research Institution | National Institutes for Quantum and Radiological Science and Technology |
Principal Investigator |
木村 妙子 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 放射線医学総合研究所 脳機能イメージング研究部, 学振特別研究員 (60748820)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
久永 眞市 首都大学東京, 理工学研究科, 客員教授 (20181092)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | タウ / マーモセット / phosphorylation / タウアイソフォーム / タウオパチー |
Outline of Annual Research Achievements |
アルツハイマー病を含むタウオパチーの病理的特徴は異常リン酸化タウを含む凝集体である。タウのリン酸部位の同定はされているが、部位特異的なリン酸化の役割は生理的にも病理的にも明らかになっていない。従来、タウオパチー病理解析には遺伝子改変マウスを用いた研究がなされてきた。しかし系統発生学的ヒトとは離れており、ヒトに近い霊長類モデルがあればより相応しい。ところが、ヒトに近縁なマカク族サルは大型で取り扱いには熟練を有し、高コストかつ低繁殖力で、さらに遺伝的形質が一定しない。一方マーモセットはマカクザルに比べて小型で取り扱いが容易であり、18ヶ月以内に性成熟に達し霊長類の中では非常に優れた繁殖効率を持つ。このような利点を持つことから近年、神経変性疾患のモデルとして使用され、遺伝子改変マーモセットの作成もなされている。しかし未だマーモセット脳タウの基礎情報は確立されていない。今回、生化学的手法を用いマーモセットタウのアイソフォームの発現、リン酸化を調べた。 本研究の結果より、マーモセットのタウアイソフォームの発現パターンはヒトよりマウスに近いこと、またタウのリン酸化は、新生児マーモセット脳ではアルツハイマー病脳で見られる部位でのリン酸化が見られた。また、成体マーモセット脳でもヒト正常脳と同様にSer404は他の部位よりもリン酸化されていた。他の部位でもヒト正常脳よりもリン酸化状態が高く死後時間変化による影響(脱リン酸化)が少ないことが明らかとなった。本研究により得られたマーモセット脳タウの基礎データが、今後の応用研究で有用な情報となると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度、マーモセット脳タウの基礎情報の確立を目指し研究に取り組んだ。 ヒトのタウタンパク質はExon2,Exon3,Exon10の有無によるスプライシングで、6つのアイソフォームとして発現する。各アイソフォームは、Exon10のスプライシングにより微小管結合領域の繰り返し数が3つ(3R)と4つ(4R)のもの、およびN末側における29アミノ酸残基の挿入によって0N~2Nのアイソフォームとなる。ヒトの幼児期ではExon10を持たない3Rタウの発現が主であり、成人ではそれに加えExon10のある4Rタウも発現している。新生児マーモセット脳でのタウのmRNA量、タンパク量を測定したところ、3R型でかつExon2,Exon3を持たない0N3Rタウの量が高く、成体脳では4Rしか発現しておらず、0N4Rと2N4Rタウが多いことが明らかとなった。この結果からマーモセットのタウアイソフォームの発現パターンはヒトとは異なり、マウスにより近いことが示された。次に新生児マーモセット脳でのタウのリン酸化を測定したところ、アルツハイマー病で見られるSer202,Thr231,Ser235,Thr396,Ser404部位でのリン酸化が見られた。また、成体マーモセット脳では、全体にリン酸化は下がっていたが、Ser404部位においてはヒト正常脳と同様にリン酸化状態は高いことがわかった。また、リン酸化の組み合わせパターンを電気泳動度の違いにより解析することができるPhos-Tag SDS-PAGE法を用い、マーモセット、マウス、ヒトでのタウのリン酸化パターンを解析した。結果、3者ともタウのリン酸化組み合わせパターンは殆ど同じであることがわかった。 本研究は現在The journal of Biological Chemistryに投稿中である。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度は神経変性疾患のモデルとして使用されつつあるマーモセット脳タウの基礎データを生化学的手法を用いて解明した。現在、The journal of Biological Chemistryに投稿中であり、必要な場合は実験を加えアクセプトされるようにする。 今年度は、マーモセット脳タウのリン酸化解析で使用したPhos-Tag SDS-PAGE法を用いて、各タウオパチー神経変性疾患における凝集性タウのリン酸化状態を詳しく解析し、各タウオパチー特異的なリン酸化アイソタイプの同定を目指す。 具体的には、アルツハイマー病,大脳皮質基底核変性症,進行性核上性麻, ピック病,嗜銀顆粒性認知症,前頭側頭葉型認知症(FTDP-17)の各タウオパチー患者脳を用いてタウのリン酸化を解析する。疾患により発病部位が異なることより、前頭葉、側頭葉、中心前回など部位別の解析も行う。R406W変異を持つFTDP-17患者脳についても解析を行う。それぞれの患者の凝集が確認された脳部位の凍結脳から、サルコシル不溶性画分を調製しPhos-Tag法を用いて解析する。Phos-Tagとリン酸化抗体によるウェスタンブロットを組み合わせ、リン酸化部位ごとの定量解析を行う。その際リン酸化抗体は申請者の以前の研究から明らかとなっているThr181,Ser202,Ser205,Thr231,Ser235,Ser404を主に用いる(Kimura et al Sci Rep 2016)。またPhos-Tagで分離したタウバンドの切り出しを行い、質量分析法によりリン酸化部位の決定および確認も同時に行う。 これらの結果は将来、リン酸化の制御を標的とした各タウオパチー特異的な治療戦略を構築するのに有用な情報となることが期待される。
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Causes of Carryover |
昨年度は実験で使用する予定の試薬の購入ができず、今年度に持ち越された。また、昨年度は研究に専念していたため、海外での研究発表と情報収集が行えなかった。今年度は昨年試薬の都合でできなかった実験を行い、また、海外での研究発表と情報収集を行う。
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