2017 Fiscal Year Research-status Report
新規赤血球因子を介したマラリア原虫増殖抑制機構の解明
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17K07134
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
大野 民生 名古屋大学, 医学系研究科, 准教授 (90293620)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | マウス / ゲノム編集 / ネズミマラリア原虫 / 赤血球 / 原虫増殖抑制遺伝子 |
Outline of Annual Research Achievements |
マウス系統間にはマラリア原虫の増殖性に大きな違いが存在するが、その主要な原因遺伝子は未だ同定されていない。なかでも9番染色体に存在するマラリア抵抗性遺伝子座(Char1/Pymr)は他の遺伝子座と比較してその効果が極端に大きい最重要遺伝子座である。申請者のこれまでの研究によって、Char1/Pymr領域内に存在し骨髄や赤芽球で特異的に発現するRnf123遺伝子が極めて有力な候補遺伝子と考えられた。そこで、機能が解明されていないこの赤血球分子(Rnf123)に着目し、ゲノム編集技術で欠失マウスを作製し、この遺伝子によるマラリア原虫の増殖抑制機構を解明することを目的として解析に着手した。 Rnf123遺伝子の2番目と3番目のエクソン内の塩基配列に対して作製したgRNAとCas9蛋白をNC系統の受精卵にインジェクションしてゲノム編集技術(CRISPR/Cas9システム)によるRnf123遺伝子欠損マウスの作製を行った。その結果、異なる欠失アレルを有する2匹のファウンダー個体を得ることに成功した。これらの個体のゲノムを抽出してgRNAに対するオフターゲット配列の塩基配列を解析したが、いずれにもオフターゲット変異は確認されなかった。そこで、これら2個体を起源としてRnf123遺伝子欠損系統の樹立を行った。当初の想定に反して両系統ともホモ欠損個体は致死とはならず正常な発育を示したため、両系統ともホモ欠損系統として確立し、ネズミマラリア原虫感染感受性と赤血球の性状解析に着手した。現時点ではまだ十分な個体数を用いた解析ができていないが、Rnf123遺伝子欠損個体はマラリア感受性のNC系統に対して原虫の増殖抑制と生存日数の延長というマラリア抵抗性傾向が見られた。また、Rnf123遺伝子欠損個体の赤血球はMCV(平均赤血球容積)の低下傾向が見られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
CRISPR/Cas9システムによりマラリア感受性のNC系統を遺伝的背景としたRnf123遺伝子欠損マウス系統の作製に成功した。当初、この遺伝子のホモ欠損個体は致死になる可能性が高いと考えられたためヘテロ欠損個体を用いて解析する予定であった。しかし、ホモ欠損個体が正常に発育する事が判明し、欠損アレルのホモ化の後に解析を行う事になり表現型解析の着手が少し遅れた。更に、Rnf123遺伝子欠損個体のネズミマラリア原虫感染感受性の評価は、感受性のNC系統と抵抗性のNC.129X1-Pymr系統の2種の対照系統と同時に実施する必要があるが、NC.129X1-Pymr系統の繁殖不良により感染実験用個体の確保に若干の遅れが生じたため、本年度内に終了する予定の感染感受性の解析が少し遅れた。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)29年度から継続して作製したRnf123欠失系統と2種の対照系統に対してネズミマラリア原虫の感染実験を行い、感染後の血虫率(感染赤血球数/全赤血球数)と生死を測定することで感染初期における原虫の増殖性と生存率の変化を明らかにして、Rnf123遺伝子のマラリア原虫増殖抑制機構への関与を解析する。同様に、Rnf123欠失個体と対照系統(NC系統とNC.129X1-Pymr系統)個体について、血球計数装置で赤血球数、ヘマトクリット値、平均赤血球容積、平均赤血球ヘモグロビン量、平均赤血球ヘモグロビン濃度、赤血球粒度分布幅等を測定し、Rnf123遺伝子の赤血球性状への作用を解析する。更に、骨髄や赤芽球で特異的に発現する遺伝子群の発現量の解析を行い、発現量の変化と赤血球の性質との関連性を調査する。 (2)Rnf123遺伝子の発現量を制御している変異を同定するために、感受性系統(A/J, C3H, NC)と抵抗性系統(C57BL/6J, CBA, 129X1)間でRnf123遺伝子の塩基配列の比較を行い、発現量を制御している可能性がある候補変異を抽出する。更に、(1)の解析でRnf123がマラリア原虫増殖抑制に関与していることが判明したら、抽出した候補変異をCRISPR/Cas9システムによりNC系統に導入した個体を作製し、Rnf123遺伝子の発現量の変化(低下)を確認する事で原因変異を特定する。 (3)Rnf123遺伝子のみでマラリア原虫の増殖抑制が説明できない場合は、Char1/Pymr領域内に存在する約70個の遺伝子のうち、その産物が赤血球内に存在し機能が明らかにされていない他の候補遺伝子(Apeh, Actl11, Gmppb)についてRnf123遺伝子の場合と同様にゲノム編集技術で欠損マウスを作製して解析を行う。
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Causes of Carryover |
Rnf123遺伝子欠損マウス系統の樹立の遅延と、その対照系統であるNC.129X1-Pymr系統の繁殖不良による解析用個体の不足により、2種の主要な表現型解析(ネズミマラリア原虫感染感受性と赤血球の特性解析)が少し遅延したため次年度使用額が生じた。この金額は、Rnf123遺伝子欠損マウス系統とその対照系統であるNC.129X1-Pymr系統の表現型解析を実施するための消耗品経費とそれらマウスの飼育に係る経費として30年度に使用する。
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