2017 Fiscal Year Research-status Report
熱ショック転写因子HSF2による脳神経系保護機構の解明
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17K07136
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Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
林田 直樹 山口大学, 大学院医学系研究科, 講師 (40420517)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | HSF2 / 神経細胞 / タウ / アルツハイマー病 / アルツハイマー病モデルマウス / 転写 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度の研究目標としては、 (1) HSF2 が tau の転写誘導を行っているかを明らかにする。 (2) アルツハイマー病モデル培養細胞系を用いた解析。 を挙げたが、特に (2) については多くの有効な実験データを得ることが出来た。 まず、アルツハイマー病モデル培養細胞の系の樹立は、ヒト神経細胞(正しくは神経細胞芽腫)である SH-SY5Y 細胞とベータアミロイド(1-42)を用いて順調に成功した。しかしながら、正常細胞とがん細胞の性質の違いから、本研究では、SV40を発現するレトロウイルスを作製して、現在唯一入手できる初代培養ヒト神経細胞であるHCN-2細胞を用いて不死化ヒト視床下部由来神経細胞を樹立する予定であったが、培養液やカルチャーディッシュの変更など様々な改良を行ったものの、樹立を成功させることは出来なかった。現時点では、HCN-2自体が不死化が不可能な状態になっている細胞であるとの結論に至り、別のヒト正常神経細胞(海馬神経細胞など)を用いるか、あるいは神経幹細胞から分化させる系を用いることを検討している。 HCN-2を用いた細胞株の樹立には成功できなかったが、HSF2が神経細胞の保護に大きく関与しているデータを得ることが出来た。研究代表者は、アルツハイマー病の治療薬候補となりうる新たな化合物を発見し特許申請をしているが、その物質をアルツハイマー病培養細胞系で用いたところ、神経細胞がベータアミロイドのダメージから回復する際に、HSF2の顕著な発現上昇がmRNAおよびタンパク質レベルで確認された。また、SH-SY5Yを42度の高温ストレス下で培養したところ、HSF2がmRNAおよびタンパク質レベルで誘導されただけでなく、これまで40度以上の高温では分解されると考えられていたHSF2が、SH-SY5Yでは安定的に存在することを見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
実施した実験の順番は当初の予定とは異なっているが、有効な実験データは順調に蓄積されており、研究自体は順調かつ確実に伸展している。最近(5月初め)には神経分野のジャーナルに論文を投稿して、現在(5月下旬)審査中である。また、HSF2に関する次の論文の用意も進んでおり、上手くいっていると考えている。 タウ遺伝子の転写に関する解析が進んでいないが、タウ遺伝子の遺伝子構造が複雑であり、かつプロモーター以外のイントロンの領域などへのHSF2の結合解析の必要性が、文献の再考および in silico 解析からわかってきた。この情報自体が次の論文のデータの一部となるため、in silico 解析も研究において有効なステップであった。タウのアイソフォームの発現に関するデータは、mRNAレベルではいくつか得られており、平成30年度には大きく進められると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
モデルマウスを用いた実験に入るタイミングも重要だが、タウのプロモーター解析を in silico でさらに詳細に行いたい。 使用するモデルマウスは決まっており、さらにそのモデルマウスの表現型があらわれる時期もわかっていることから、平成30年度と31年度をまたいで、マウスの実験を行うことを考えている。一方で、ヒトのアルツハイマー病患者の脳組織や、他の神経変性疾患患者の脳組織が入手できることから、これらの組織を入手して(日本国内の研究機関から入手が可能である)HSF2およびHSF2のターゲット遺伝子の発現レベル、HSF2と複合体を形成しているWDR5等の分子の発現レベルが、健常人と患者の間で変化していないかを調べる実験を加えたいと考えている。
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Causes of Carryover |
平成29年度に必要な消耗品等は交付額内で全て購入できたことと、動物実験を平成29年度には実施しなかったことからこのような金額が生じた。これらの助成金は、平成29年度から続いている培養細胞を用いた実験系でより詳細なデータを得るための追加実験とそれに必要な試薬の購入にほぼ充てられる。
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Research Products
(2 results)