2019 Fiscal Year Research-status Report
発生工学的手法を用いた遺伝子改変不妊モデルマウスの解析
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17K07139
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
竹田 直樹 熊本大学, 生命資源研究・支援センター, 助教 (90304998)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 精子 / 遺伝子改変マウス / 疾患モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
ヒト不妊疾患は多岐にわたり、原因の究明や治療法のアプローチはその性質上困難を伴うことが多い。実験動物においても生殖に関わる自然突然変異体は少なかったが、胚性幹細胞を用いた相同組換えによるノックアウトマウス作製法やゲノム編集法による変異体作製法の進歩により、不妊に関わる遺伝子の変異体を容易に作製できるようになってきた。そこで我々は、ヒト男性不妊疾患に大きく関与しているとされているプロタミンの発現異常に着目した。 プロタミンは精子特異的DNA結合タンパク質として知られており、その発現と呼応して生じる精子の形態変化などと関連があるとされているが、その機序については明らかではなかった。そこで代表者らはプロタミン遺伝子を欠損、変異させたマウスを作製し、個体においてプロタミンの発現異常が不妊の原因となることを明らかにすると共に、ヒト疾患モデルを作出することに成功した。 プロタミンはヒト及びマウスではPrm1とPrm2の2種類が確認されている。まずES細胞を用いたジーンターゲィング法によりPrm1ノックアウトマウスを作製した。その結果Prm1欠損マウスのヘテロ変異体由来の精子は著しい運動能の減退によって不妊となり(Takeda et.al. Scientific Reports, 2016)、精子無力症様の疾患モデルの構築に成功した。さらにこの精子は発生工学的手法を用いれば受精し発生できることを明らかにした。 続いてゲノム編集法を用いてPrm2変異体を作製し解析をおこなった。その結果、Prm2ノックアウトマウスは、ヘテロ変異体で不妊となるPrm1ノックアウトマウスと異なり、ホモ変異体で不妊であった。これらのことからPrm1とPrm2は同一ファミリーでありながら遺伝的冗長による機能代償はなく、またその量的および機能的に差異があることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ES細胞での相同組換え技術および、ゲノム編集法を活用することにより、雄性不妊疾患モデルであるPrm1欠損マウスとPrm2変異導入マウスを作製した。その結果、Prm1欠損マウスのヘテロ変異♂由来精子は著しい運動能の減退の為に不妊となることを明らかにし(Takeda et.al. Scientific Reports, 2016)、精子無力症の疾患モデル動物となりうることを示した。さらにこの無力症様精子を我々が開発した発生工学的手法を用いる事によって受精能があることを明らかにした。現在は上記手法を用いることによって、交配によっては得ることができないPrm1ホモ欠損マウスを作出し、Prm1の生物学的機能特性を明らかにすべく解析をおこなっている。Prm2においては、ヒト疾患に対応できるような様々な変異が導入された系統の作製を目的として、ゲノム編集技術によって複数の変異体を作製し、これを維持解析している。これまでにPrm2変異導入マウスはPrm1欠損マウスとは異なりホモ雄が不妊になること、そのPrm2ホモ由来精子はPrm1欠損マウスと同様にミトコンドリア膜電位を喪失していること、および運動能が減退もしくは喪失していること、また精子頭部が矮小であることが明らかとなった。しかし上述の表現型は系統によって微妙に異なるためさらなる解析が必要である。
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Strategy for Future Research Activity |
プロタミンは精子特異的DNA結合タンパク質として知られている。Prm1とPrm2は共に約5kDaと小さく相同性も高いが、遺伝子改変マウスの解析によって機能的差異があることが明らかになった。Prm2はまず前駆体が発現し、切断によって成熟することからPrm1よりも高次な機能を持つと考えられており、その変異マウスはホモ変異で不妊となった。このことから受精能を持つ精子を完成させるにはPrm2は必須であると考えられる。DNAがヒストンと置換される精子完成過程および精巣上体における成熟過程においてPrm2がどの様に機能しているのかを微細形態的な観察やミトコンドリア膜電位の測定などを通して明らかにしていきたい。精細胞はその発生分化において細胞質間架橋によって一倍体であっても二倍体の様に振る舞うとされる。しかし、Prm1はヘテロ欠損で不妊となることからハプロ不全であり、Prm2とは異なる機序が考えられた。さらに発生工学的手法を用いる事で受精能があることを証明できたことからPrm1タンパク量依存的な精子の品質管理機構があると推測される。これらの事からPrm1とPrm2のそれぞれの変異体表現型を比較することで、精子発生分化における役割を検討していきたい。
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Causes of Carryover |
2019年11月から動物飼育施設全館の大規模な空調改修工事が行われることになり、施設の利用制限のために飼育ケージ数を1/3程度にまで縮小した。系統の維持を優先し解析規模を絞った為に延長を申請します。2020年8月に工事は完了する予定である。主たる経費品目はマウス飼育経費および解析に伴う生化学及び培養用資材等の物品費を予定している。
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